更新日:2022/03/15
人事担当者であれば労働者名簿を目にすることがあるでしょう。会社によっては人事情報管理の専用ソフトを利用しており、決まった項目を入力するだけという担当者もいるかもしれません。労働者名簿には必ず記載しなければならない項目があるのをご存知ですか。
この記事では労働者名簿について、なぜ必要なのか、記載しなければならない項目や保存期間、保存方法から個人情報が記載されている書類としてどのように扱えばよいのかまで詳しく解説します。
労働者名簿とは、労働基準法で作成が義務付けられている書類です。
労働基準法では労働者名簿・賃金台帳・出勤簿を「法定三帳簿」といい、企業規模に関係なく作成する義務があります。
労働者名簿については、労働基準法第107条に詳しく記載されていますが、その目的は労働者の管理で、適切な労務管理の点からも重要なものです。労働者名簿は労働者を雇い入れた際に労働者ごとに作成するルールになっており、事業所が複数ある場合は、事業所ごとに作成しなければなりませんので覚えておきましょう。
労働者名簿はどんな時に必要なのでしょうか。
通常は法の定めにより社内に備え付けておくだけです。そのため、独自のデータファイルを作成して、人事情報システムなどの汎用ソフトで管理している会社もあると思います。しかし、時としてデータではなく印刷したものが必要になることがあります。
人事部門に所属する筆者の経験では、労働者名簿は労働基準監督署の調査やハローワークの雇用保険の加入調査、年金事務所の社会保険の加入状況調査でデータではなく印字したものを求められます。データで保存していると現状を説明しても印字したものを準備するようにと依頼された経験があります。
ハローワークや年金事務所の調査は定期的に先方から連絡があり、どの会社にも調査が入ります。都度印刷して、紙で備え付けることが手間かもしれませんので、各種の調査の際に印刷できるように印刷様式を設定しておくとよいでしょう。
また、労働者名簿は遅滞なく作成することとされています。入退社や所属異動などが頻繁な会社でもリアルタイムにデータを更新するようにしましょう。
労働者名簿に記載する対象者はすべての労働者です。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも対象です。
労働者でない役員と日々雇い入れられる者は対象外です。日々雇い入れられる者とは日雇労働者を指します。
法的には役員は労働者でないのですが、年金事務所の調査では役員も社会保険に加入しているので、役員も他の従業員同様に労働者名簿を作成している会社が多いかと思います。ハローワークの雇用保険の調査では、役員は雇用保険の対象外ですので作成していなくても問題ありません。
労働者名簿については、労働基準法第107条に詳しく定められており、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならないとされています。具体的には次の1から8が記載しなければならない項目になります。
それぞれの項目に記載すべきことを詳しく確認していきましょう。
戸籍の氏名を記載します。在職中に婚姻や養子縁組により姓が変わった場合は修正します。
労働者の生年月日を記載します。
法的な記載ルールは定められていないので会社ごとに定めます。配属部署の異動や従事する業務が変更になった場合などの履歴を残している会社もあるようです。
労災の中には中皮腫など発病までに20年以上かかる病気もあり、そういった場合に原因となる業務に従事していたかを調べられるように記載しているのです。
労働者の性別を記載します。
労働者の住所を記載します。単身赴任している労働者や住民票の住所と居住地がちがう労働者は、実際に労働者が居住している住所を記載します。
実際に従事する業務の種類を記入します。労災事故が発生した場合は従事している業務を確認することもありますので正しく記入しましょう。
例えば、営業・総務・販売員・配達員・製造作業員などです。おおまかな業務の種類をマスタとして設定している会社もあるでしょう。汎用の人事情報管理ソフトではマスタとして登録できるものもあります。
労働基準法107条第1項53条で常時30人未満の労働者を使用する事業においては、「従事する業務の種類」の記載は必須ではありませんので覚えておきましょう。
労働者を雇い入れた日を記載します。試用期間を設けている場合は試用期間の開始日が雇い入れ日となります。採用決定日ではありませんので混同しないようにしましょう。
労働者の退職日と退職理由を記載します。退職した労働者が失業手当の申請をした際に、会社側が離職票に記載した退職理由と労働者の言い分が一致せず、ハローワークから問い合わせがくることもありますので、漏れのないように記載しましょう。
また、死亡の場合は理由を明記しておきましょう。業務上の理由により死亡した場合は労災の対象です。後々に誰がみてもわかるように記載しましょう。
労働者名簿の様式は、厚生労働省が様式第19号として例示していますので参考にするとよいでしょう。
参考:厚生労働省|労働者名簿の様式
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/b.pdf
労働者名簿の保存期間は3 年(令和2年4月1日改正労働基準法等の施行日以後、労働者名簿の保存期間は、現行の3年から5年に延長されます。ただし、経過措置として、当分の間は5年が適用されています)です。これも法律で定められています。保存期間の3年というのは会社ごとの会計年度とは関係ありません。労働者名簿の対象外になった日から3年です。
代表的なものでは
などが基準となり、これらの日から起算します。
保存期間を守らず廃棄や紛失をすると、労働基準法第120条によって30万円以下の罰金となりますので注意しましょう。
ほかにも、保存期間を考えるときに注意しなければならないことがあります。
3年の保存期間は労働者名簿としての期間ですので、他の法との兼ね合いも考慮しなければなりません。実務では複数の法にかかわる場合は、すべての処理に支障をきたさないように、一番長い期間を保存期間としている会社もあるのではないでしょうか。
例えば、労働者名簿であれば在籍期間などの計算の根拠となりますので、退職金の支払トラブルに備えて、労働基準法第115条の退職金請求の時効5年を考慮します。よって、5年間保存する、といった具合です。
労働者名簿には重要な個人情報が記載されています。そのため、誰でも自由に閲覧できるような管理方法は適切とはいえません。鍵のかかる場所に保存するとか、データ管理は特定の社員にしかIDを発行せず閲覧履歴が確認できるようにするなど対策をとりましょう。
労働者名簿に記載されている情報を第三者に提供するときは、労働者の承諾が必要です。個人情報は税金や社会保険関係の手続に必要になります。それらの手続のために利用することを就業規則に記載している会社もあると思います。会社によっては入社書類に個人情報の提供に関する承諾書を組み込んで対策していることもあるようです。
労働者名簿は労働基準法で作成が義務づけられている非常に重要な書類です。
作成して届出るものではありませんが、必ず事業所に備え置くようにしましょう。また、記載事項も定められていますので漏れのないように注意しましょう。