令和6年10月からの社会保険適用拡大と
雇用保険の改正と適用拡大について

2024/06/28 10:00

(1)社会保険の適用拡大について

現在、私たちが加入している社会保険は、年金制度改正法(令和2年法律第40号)や全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和3年法律第66号)等の施行により、短時間労働者(パート・アルバイト)の社会保険適用拡大が進められてきました。

これにより、令和6年10月1日からは、短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の適用対象とする企業規模要件が、使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時51人以上の企業等で働く短時間労働者も新たに加入対象に拡大されます。

すでに、平成28年10月からは厚生年金保険被保険者数501人以上、令和4年10月からは厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く短時間労働者が対象になっています。つまり、今回の適用拡大により、常時使用される厚生年金被保険者総数が51人以上100人未満の企業で働く短時間労働者が加入の対象となります。

適用対象者の条件

今回の適用拡大により、令和6年10月以降は、従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者のうち、下記の5つの条件をすべて満たす人が対象になります。

①週の所定労働時間が20時間以上

週の「所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書等により通常の週に勤務すべき時間のことで、雇用保険の取り扱いと同様です。なお、「所定労働時間」が週単位で定まっていない場合の算定方法は、1年間の月数を「12」、週数を「52」として週単位の労働時間に換算します。1か月単位で定められている場合は、1か月の所定労働時間を12分の52で除して算定します。また、特定の月の所定労働時間に例外的な長短がある場合は特定の月を除いて算定します。次に、1年単位で定められている場合は、1年間の所定労働時間を52で除して算定します。1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合は、その周期における1週間の所定労働時間の平均により算定します。

②所定内賃金が月額88,000円以上

週給、日給、時間給を月額に換算したものに、各諸手当等を含めた所定内賃金の額が、88,000円以上である必要があります。ただし、以下の賃金は算入されません。
・時間外労働や休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金など)
・1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
・臨時に支払われる賃金(見舞金、資格合格手当など)
・最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当など)

③継続して2か月を超える雇用が見込まれる

最初の雇用契約の期間が2か月以内であっても、就業規則や雇用契約書その他の書面において、その雇用契約が「更新される旨」又は「更新される場合がある旨」が明示されている場合や、同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、契約更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合は、「2か月以内の雇用契約が更新されることが見込まれる場合」に該当するものとして、最初の雇用期間に基づき使用され始めた時に被保険者の資格を取得することになります。

④学生でないこと

大学、高等学校、専修学校、各種学校(修業年限が1年以上の課程に限る)等に在学する生徒または学生は適用対象外となります(雇用保険の取り扱いと同様です)。ただし、次の方は被保険者となります。
・卒業見込証明書を有する方で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の方
・休学中の方
・大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の方

⑤いずれかの適用事業所に使用されていること

1)「特定適用事業所」
適用拡大により対象となる事業所です。従業員数のカウント方法は、フルタイムの従業員数と週労働時間及び労働日数がフルタイムの3/4以上の従業員数(パート・アルバイトもカウントします)の合計です。法人は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所の被保険者の総数、個人事業所は個々の事業場ごとにカウントし、厚生年金保険の被保険者の総数が12か月のうち6か月以上50人を超えることが見込まれる場合に該当することになります。
2)「任意特定適用事業所」
厚生年金保険加入者数50人以下の企業であっても、働いている方々の2分の1以上と事業主が厚生年金保険・健康保険に加入することについて労使で合意がなされて事業主が申し出ることにより、適用対象者の要件を全て満たす短時間労働者の方は、企業単位で厚生年金保険・健康保険に加入できます。
3)「国・地方公共団体に属する事業所」

これからの会社への通知や手続きについて

今回新たに特定適用事業所に該当する適用事業所や該当する可能性がある適用事業所(令和5年10月から令和6年7月までの各月のうち、使用される厚生年金保険の被保険者の総数が6か月以上50人を超えたことが年金機構で確認できる場合)には、9月上旬に「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付されて、10月上旬に「特定適用事業所該当通知書」が送付されてきます(法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に対して送付されます)。

また、今年の10月以降に特定適用事業所に該当することになる場合(年金機構において使用される厚生年金保険の被保険者の総数が直近11か月のうち、5か月50人を超えたことが確認できた場合)にも、「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が送付されてきます。送付後に該当したにもかかわらず届け出なかった場合は、年金機構において特定適用事業所に該当したものとして「特定適用事業所該当通知書」が送付されてくることになります。

適用拡大によるポイント

今回の適用拡大により新たに社会保険の適用対象者となった場合は、会社や従業員個人の意思に関係なく強制的に被保険者となります。従業員が社会保険加入になることで、企業にとっては保険料の負担が増加することになります。厚生年金、健康保険の保険料は企業と従業員で折半しているため、社会保険の加入者が増えると企業が支払う保険料が増えることになります。あわせて、従業員にとっては、将来の年金額が増えることになりますが、社会保険料が控除されることにより手取りの額が減ることになります。

さらに、新たに社会保険に加入となることで、配偶者の勤務先給与の扶養手当、家族手当等の基準から外れてしまうことにより給与額が減ってしまうことを避けるために、社会保険に加入しないで今まで通りの勤務を希望したり、働くことを控える従業員が出てくることも考えられます。

今回の適用拡大で該当することになる会社は、対応として、新たに加入対象となる短時間労働者(パート・アルバイト)従業員に今回の制度の内容を会社説明会などで周知して、状況に応じて個人面談を行うことも必要になるでしょう。そのなかでは、社会保険に加入することによるメリットを伝えることが大切です。

これまでは、被扶養配偶者の年収が130万円以上になると、国民年金・国民健康保険に加入することになり、保険料は自己負担となりますが、適用拡大で厚生年金に加入することにより、国民年金に加えて老齢厚生年金が加わることで給付される額が増えて、それを一生受け取ることができます。障害厚生年金では、障害厚生年金3級や障害手当金(4級以下)により保障範囲が広がります。遺族年金は、遺族厚生年金が加わることで遺族への給付が増えることになります。医療保険においては、傷病手当金や出産手当金を受けることができるようになります。

多様な働き方のなかで、労働者の働き方や企業の雇用の選択を歪めないようにし、不公平を生じることがないようにセーフティネットを整備することが、今回の適用拡大によりさらに進んでいくことになります。


参考資料:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和6年10月施行分)」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.files/QA0610.pdf

(2)雇用保険法の改正と適用拡大について

令和6年5月10日に『雇用保険法等の一部を改正する法律』(令和6年法律第26号)が成立しました。
雇用のセーフティネットの拡大や教育訓練やリ・スキリング支援の充実を目的とした法律の主な改正内容や施行時期についてお伝えします。

教育訓練やリ・スキリング支援の充実

<令和7年4月1日から>
①自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除
自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給に当たり、待期満了の翌日から原則2か月間の給付制限期間がありますが(5年以内に2回を超える場合は3か月間)、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点から、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を受講した場合は、求職申込・受給資格決定、待機7日間後の給付制限期間が解除になり、基本手当を受給できるようになります。
このほか、通達の改正により、自己都合による退職者の原則の給付制限期間が2か月から1か月へ短縮されます(ただし、5年間で3回以上の自己都合離職の場合には給付制限期間が3か月となります)。

②就業促進手当の見直し
就業手当が廃止になり、就業促進定着手当の上限を支給残日数の20%に引き下げられます。再就職手当は現行で継続されます。

<令和7年10月1日から>
③「教育訓練休暇給付金」の創設
創設される教育訓練休暇給付金は、雇用保険被保険者期間が5年以上あり、教育訓練のための休暇(無給)を取得した場合に、離職した場合に支給される基本手当と同じ額が給付されます。給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかとなります。

雇用保険の適用拡大

<令和10年10月1日から>
④雇用保険の適用拡大(週所定労働時間「20時間以上」⇒「10時間以上」)
雇用労働者の中で働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用のセーフティネットを拡大する観点から、雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更になり適用対象が拡大されます。なお、給付は別基準とせず現行の被保険者と同様に、基本手当、教育訓練給付、育児休業給付等が支給されます(現行は、平成22年4月1日施行:週所定労働時間20時間以上、雇用期間31日以上の見込みがあること)。
この改正により、現在の週所定20時間で設定されている基準が現行の1/2に改正されます。

◇被保険者期間の算定基準
改正前は、賃金の支払の基礎となった日数が11日以上又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が80時間以上ある場合を1月とカウントしますが、改正後は、賃金の支払の基礎となった日数が6日以上又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が40時間以上ある場合を1月とカウントします。

◇失業認定基準
改正前は、労働した場合であっても1日の労働時間が4時間未満にとどまる場合は失業日と認定しますが、改正後は、労働した場合であっても1日の労働時間が2時間未満にとどまる場合は失業日と認定します。

※令和6年6月10日現在での内容を紹介します。詳細は今後の通達等で周知されることとなります。

今回の改正も含め、多様な働き方が存在する状況において、社会保険や雇用保険の加入対象が広がっていくことで、セーフティーネットにより保障を受けることができるようになり、安心して働ける社会を構築していくことが大切であると考えます。

高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者

浅井 英憲(あさい ひでのり)

浅井社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 宅地建物取引士
社労士「高志会」のメンバー

法政大学卒業後、芸能プロダクションに入社してタレントマネージメント、広告プロモーションを担当。後に不動産会社に転職して宅地建物取引士登録、勤務しながら社会保険労務士事務所を平成25年に開所。
労務相談、手続全般、就業規則各規程の作成改訂等と合わせて、職場のコミュニーケーションを整えて心理的安全性の高い企業風土を構築するメンター制度の導入運用のアドバイス・サポートを行っている。
執筆「ビジネスガイド」、共著「労働・社会保険の様式・手続 完全マニュアル」(日本法令)
【事務所HP】https://asai-sr-office.com/index.html

この記事の監修者

髙根 祐司(たかね ゆうじ)

髙根労務管理事務所 代表
社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

国際商科大学(現東京国際大学)卒業
社会保険労務士事務所に入所後、平成2年1月髙根労務管理事務所開設
《主な著書》『会社総務の書式/様式集』『業務書式完全パッケ-ジ』(以上、日本法令・共著)