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消費税率引き上げにおいて最低限注意しなければならない施行日前後の適用税率並びに経過措置について

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平成30年10月に国税庁消費税室から経過措置の取扱いQ&Aが公表され、「基本的な考え方編」においては問48まで、「具体的事例編」では問34まであり、その数は膨大であるといえます。ちなみに5%から8%に消費税率が引き上げられた際の経過措置の取扱いQ&Aでは問59までしかなかったことから、前回の引き上げ時より、細やかになっているといえます。微細な部分は割愛し、実務上直面することが多いものを中心に取り上げていきたいと思います。

施行日前後の適用税率について

施行日前後の取扱いとして、ここでは(1)事業者間で収益・費用の計上基準が異なる場合の取扱い、(2)令和元年施行日前後の返品などの取扱いを確認したいと思います。

(1) 事業者間で収益・費用の計上基準が異なる場合の取扱い
あるA社が検収基準により仕入を計上している場合において、その取引先(B社)が出荷基準によっている場合において、9月中にB社が出荷した商品をA社が10月中に検収した場合にはB社からの請求書には旧税率8%の記載がされているものと思われます。この場合には、A社においても旧税率の8%で仕入税額控除を行う必要があります。

(2) 令和元年施行日前後の返品などの取扱い
施行日前後において、商品の返品を受けることも想定されます。例えば10月中に返品を受けた商品は9月中の販売に対応するものとしている場合において、売上げに係る対価の返還等は旧税率8%または新税率10%のいずれで計算すべきかという問題も生じることが想定されます。

① 原則的な取扱い
令和元年9月30日までの間に行った商品の販売について、令和元年10月1日以後に返品をされ、対価の返還等をした場合には、旧税率8%として売上げに係る対価の返還等を計算することとされています。

② 例外的な取扱い
継続取引を前提とした場合に、合理的な方法により返品処理を行っている場合には、事業者が継続している方法により、売上げに係る対価の返還等を計算しても差し支えないとあり、その計算方法により計算した税率か新税率10%である場合には、新税率10%による売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を計算することができます。

この取扱いを行う場合には、取り交わす請求書等に適用税率を明記し、相手側(仕入側)は、請求書に記載された税率により仕入れに係る対価の返還等に係る消費税額を計算することとなります。

経理部の方必見!旅客運賃等の税率に関しての経過措置の確認

まず初めに旅客運賃等の定義の確認になりますが、旅客運賃等には、旅客運賃、映画・演劇、音楽、スポーツなど、見せ物を不特定多数の人に見せ、または聴かせる場所等への入場料金が含まれます。また、ディナーショーの料金は経過措置の対象となりますが、ディナークルーズといった、クルーズで遊覧航行しながら飲食を提供する場合には、サービスの主目的は飲食の提供であることから経過措置の対象外となります。

 この旅客運賃等の税率に関して判断に迷いそうなものとして、(1)乗車券が発行されないいわゆるチケットレスサービスを利用した場合、(2)ICカードのチャージによる乗車等の2点を取り上げたいと思います。

(1) 乗車券が発行されないいわゆるチケットレスサービスを利用した場合
この経過措置が適用されるかどうかの判定は、乗車券が発行されているかどうかではなく、令和元年9月30日までに料金の領収(支払)をしている場合に適用されるものであるため、同日までに料金を支払った場合には旧税率8%が適用されることとなります。
上記でいう料金の領収している場合とは、令和元年9月30日までに乗車券などを販売(購入)した事実を指します。

(2) ICカードのチャージによる乗車等
ICカードの場合には現金がチャージ(入金)された時点では、乗車券等の販売は行われたわけではないため、9月30日までにチャージをされ10月1日以後に乗車券を購入する又は乗車する場合には、経過措置は適用されないことになります。

実は工事だけとは限らない!工事の請負等の税率に関する経過措置について

一見すると建設業のみの経過措置と思いがちですが、対象業種は他にもあり、与える金額的な影響も大きいため、内容並びに対象業種の契約の内容を確認したいと思います。
 
経過措置の内容は以下のようになります。
平成25年10月1日から平成31年3月31日までの間に締結した工事の請負に係る契約、製造の請負に係る契約及びこれらに類する一 定の契約に基づき、令和元年10月1日以後に当該契約に引渡等を行う場合には、旧税率(8%)が適用されます。

なお、この経過措置の適用がある契約は具体的には以下のものが該当します。

(1) 工事の請負に係る契約

(2) 製造の請負に係る契約
製造業に係る製造につき、その製造に係る目的物の完成を約し、かつ、それに対する対価を支払うことを約する契約をいい、見込み生産によるものは除かれます。

(3) これらに類する契約 測量、地質調査、工事の施工に関する調査、企画、立案及び監理並びに設計、映画の 制作、ソフトウェアの開発その他の請負に係る契約(委任その他の請負に類する契約を含みます。)で、仕事の完成に長期間を要し、かつ、当該仕事の目的物の引渡しが一括して行われることとされているもののうち、当該契約に係る仕事の内容につき相手方の注文が付されているものをいいます。
製造やソフトウェアの開発業などを営む会社の経理の方は契約内容を再確認する必要があると思われます。
 
なお、上記に「仕事の完成に長期間を要し」や「目的物の引渡しが一括して行われること」とありますが、これらの請負の性質上、仕事の完成までに長期間を要することが通例であることから、実際の仕事の完成までの期間の長短については問わないものとして取り扱って差し支えがないとされており、目的物の引渡しが一括でなくとも、建設工事等を大量に請け負った場合で、引渡し量に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合、建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合といった、いわゆる部分完成基準を適用している場合にも「目的物の引渡しが一括して行われること」の要件を満たすこととなります。
また、契約書を作成していないケースもあると思われますが、契約書などの書類を作成しているかどうかは、この経過措置の適用を受ける要件となっていません。
ただし、経過措置の適用があることを明らかにするためには、契約の締結時期や工事内容が経過措置の適用要件を満たすことについて契約書その他の書類により明らかにしておく必要があるため注意が必要となります。
また、令和元年10月1日までに工事について着手していなければならないといった要件はありません。

なお、平成31年4月1日以後に対価の額の増額があった場合において、その増額部分が経過措置の対象となるかどうか疑問が生じるかと思われます。結論としては増額部分については経過措置の対象とならないことから注意が必要になります。

不動産貸付業の方必見!住宅を除く事務所などを賃貸(賃借)している場合の経過措置について

住宅の貸付はそもそも消費税の非課税取引であることから、今回の消費税率引き上げによる影響が及ぶことはありません。ただし、住宅以外の事務所や住宅関連であっても駐車場料金を別途収受(支払)している場合には、消費税の経過措置の対象となるため注意が必要になります。


なお、この経過措置は資産の貸付に係る契約の締結の締結日が平成25年10月1日から平成31年3月31日までの間の場合に限られます。資産の貸付が消費税の経過措置の対象となる場合は、下記の⑴及び⑵を満たすことにより該当します。

(1) 契約に係る資産の貸付期間及びその期間中の対価の額が定められていること。

(2) 事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと。

なお、「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の定めは、「事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定め」 に該当しないため、上記の文言が契約書においてある場合にも経過措置の対象となることに留意しましょう。

今回は、上記の経過措置が適用されている資産の貸付について、自動継続条項が定められいる場合の取扱いについても確認をしたいと思います。具体的に事例をあてはめて考えてみましょう。

・ 貸付期間が平成30年10月1日から2年間(令和元年10月1日を含む2年間)
・ 自動契約条項には、「解約を希望する場合には、解約する場合は貸付期間満了日の2月前までに申し出ること」とされており、申出がない場合には賃貸借期間は2年間延長される。
・ 令和2年7月31日時点において、いずれか一方から解約に関する申出はなかった。

この場合には、令和元年10月1日から令和2年9月30日の1年間については経過措置の対象となりますが、令和2年10月1日以後の自動継続部分に関しては経過措置の対象とはなりません。これは上記のように、解約する場合は貸付期間満了日の○月前までに申し出ることとされている場合、解約申出期限を経過したときに当事者間の合意、すなわち新たな契約 の締結があったものと考えるためです。したがって、解約申出期限(令和2年7月31日)経過時点では既に消費税引上げの施行日後となっているため、そこで締結された自動継続部分は経過措置の対象とはならないことになります。

まとめ

今回取り上げた経過措置はほんの一部となります。消費税の引上げの施行期間をまたぐ会計期間はいつも以上に慎重な経理処理が求められてきます。少しでも疑問に感じた論点がございましたら、国税庁消費税室から出ているQ&Aを参考にし、実務を行う必要があると考えられます。

筆者プロフィール

南山 圭

  • 2011年9月から大手資格専門学校にて税理士講座の専任講師(所得税法担当)を務め2015年8月末をもって退社。2015年9月に辻・本郷税理士法人に入社。
  • 2018年10月より川口東事務所の所長を務める。
  • 税理士試験合格(簿記論、財務諸表論、所得税法、法人税法、消費税法)。
  • URL:https://www.ht-tax-c.com/
  • URL:https://www.ht-tax.or.jp/