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スタートアップ企業の開業手続 失敗しないスタートアップ 第1回

更新日:2020/12/25

スタートアップ企業の開業手続 失敗しないスタートアップ 第1回

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失敗しないスタートアップ 序章

昨今、上場企業を中心とした所謂大手企業と呼ばれる企業において、終身雇用制度の崩壊やその企業の不祥事等を契機とした破綻、低収益化を原因として、その企業に永続的に勤務するという伝統的な働き方の意識を持たない方が増え、より良い条件を求めて転職するという選択肢を持ちつつも、自分自身で価値を創造し収益を生み出したいという意欲を持って起業するという方が増えています。

我が国を見渡すと、ハードビジネスからソフトビジネスへの変革が図られ、日本を代表する企業のビジネスもそのように取って代わられていることは言うに及ばず、またスポーツコンテンツを提供するプロ野球においても、運営母体が新聞社、鉄道、メーカーといった伝統的な企業ではなく、IT、ソフトといった社歴がそう長くない企業がイノベーションを図りながら成長しているという現状下、アントレプレナーがマクロ経済の起爆剤として、その企業を次世代の我が国を代表する企業に育てていただくことが大変重要となります。また先般では福岡市が国家戦略特区の「創業特区」として、官民挙げてスタートアップ支援を推進し、行政を巻き込んだスタートアップ活性化の動きも顕著となっております。

しかし、アイディアややる気だけでは成長できる訳ではなく、ビジネスが広く認知されないことによる低収益、ファイナンス(資金調達)手段の手薄さ、また大手企業と異なりスタッフが少ないことによるコーポレート・ガバナンス体制や各種コンプライアンスといいた課題が山積し、チャレンジが失敗に終わるケースも多数あることは事実です。

筆者は、次世代のビジネスを創造するイノベーションエンジンとして、少しでも多くのアントレプレナーの皆様に、そのビジネスの成長を支えるスムーズなスタートアップを心より祈念し、今回を含めて全8回にわたり以下の内容で「失敗しないスタートアップ」を解説してまいりたいと思います。

  • 第1回. スタートアップ企業の開業手続
  • 第2回. スタートアップ企業の事業計画書
  • 第3回. スタートアップ企業のファイナンス(1) デット・ファイナンス
  • 第4回. スタートアップ企業のファイナンス(2) エクイティ・ファイナンス
  • 第5回. スタートアップ企業の会計制度
  • 第6回. スタートアップ企業の税務対応
  • 第7回. スタートアップ企業の出口戦略(1) M&A
  • 第8回. スタートアップ企業の出口戦略(2) IPO


1. 開業形態の選択

(1)開業形態別の対応事項

新規に事業を開始する場合には、開業形態の選択からスタートすることになります。

選択肢としては大別して個人事業とするか法人を設立するかの選択となり、どちらが自分自身のビジネスに適した形態となるかを把握する必要があります。

販売業務や購買業務といった事業活動の点では両者に相違はありませんが、自分自身のビジネスの今後の展開に関するビジョンによりいずれかを選択することとなりますが、まずはそれぞれの要対応事項について押さえる必要があり、以下の表を参考としてください。


対応事項 個人事業 法人の設立
開業手続 特になし 法人の設立登記が必要
税務署への届出 開業届出の提出が必要 同左
開業後の税務

① 国税
所得税(個人の事業所得)・
消費税(地方消費税含む)

②地方税
住民税(都道府県・市町村)・
個人事業税 

①国税
法人税・消費税(地方消費税含む)

②地方税
住民税(都道府県・市町村)・
⇒課税所得がマイナスの場合でも「均等割」という定額の住民税が必要
法人事業税

その他の届出 許認可が必要とされる事業の場合は関連する官庁に届出し、許認可を受ける必要がある 左記に加えて、都道府県税事務所、市区町村への届出も必要
創業費用 事業開始としての費用は不要

法人設立に当たり下記の費用が必要

① 登録免許税

  • 株式会社 15万円又は資本金の0.7%
  • 合同会社 6万円又は資本金の0.7%

② 定款認証料

株式会社のみ 5万円

③ 会社実印

実費

代表者の責任 最終責任は事業主個人として無限責任を負わなければならない 株式会社・合同会社については、基本的に出資額を限度として有限責任を負う。但し金融機関からの借入に際して代表者が連帯保証人となるケースが多くその場合は無限連帯責任を負うこととなる。

(2) 開業形態別の特徴

① 個人事業

個人事業は、開始に当たっては許認可を必要とするビジネスでない限りは、何時事業を開始するかは自由であり、事業開始後にその地域の所轄税務署に届出を行えば足ります。

一方で代表者の交代は、事業譲渡やその方の死亡による相続といった事業承継の場合を除いて不可となり、代表者は個人事業者であることからその事業から役員報酬や給与の支給を受けるという形態はあり得ないこととなりますので、退職金等も受けることができません。併せて配偶者や家族に給与を支払いたいとする場合でも、専従者給与として税務上認められている金額は制限されています。


② 法人の設立

株式会社や合同会社といった法人形態が代表例として挙げられ、これらの形態の場合は、設立準備の段階から資金の出資者を募ることができ、設立後はこれらの出資者は株主といった持分所有者となります。

また法人とは、法律において人格を付与されているいわば擬制人ですので、この法人格が事業主体となります。その関係で出資者が必ずしも経営者となる必要はなく、法律上与えられた人格の枠組みの中で取締役といった役員を選任して経営を委ねることができます。勿論、一人で法人を設立し自分自身が役員・経営者となって運営することも可能であり、単独でビジネスを行う場合に一人株式会社として起業するケースも多くみられます。

(1)に記載した通り、法人設立には費用や各種手続きの面での煩雑さがあり、ビジネスを早く行いたいアントレプレナーが当初は個人事業としてスタートし、その後の見通しがついた段階で法人成りするケースも見受けられます。

しかし、法人の場合は従業員の確保や取引先の確保などにおいて信用力がある傾向にあり、とりわけ個人事業においては代表者の死亡などにより取引関係が消滅する恐れがある一方で、法人は代表者の死亡でも法人が消滅することがないことから、取引先が取引継続先と看なす傾向もあります。外部からの資金調達の容易さなどを勘案して、スタート時点から法人の設立を検討することが望ましいでしょう。併せて、自身のビジネスが成長するビジネスであると自負するのであれば、利益の増加に伴い個人事業の場合は所得税の対象となるため累進課税となって税率が高くなりますが、法人税の場合は中小法人と大法人の差異があるものの基本的には一定税率であるため、税負担の観点からも法人化することを推奨します。

この記事の執筆者
重見 亘彦
重見 亘彦(しげみ のぶひこ)

株式会社サンライトコンサルティング 代表取締役CEO、公認会計士・税理士。
(株)ミズホメディー(現在東証二部)社外監査役、九州大学大学院非常勤講師。
その他IPO準備中の企業の社外役員、顧問、中小監査法人のパートナーを務める。

主な著書(共著) 会計が分かる事典(日本実業出版社)、7ステップで分かる株式上場マニュアル(中央経済社)
セミナー実績 名古屋・札幌・福岡各証券取引所のIPOセミナーを中心に講演多数

URL:https://www.slctg.co.jp/