更新日:2024/12/13
私鉄の特急には、停車駅が少ないだけの通勤電車のような車両や運行形態も少なくありません。しかし私鉄最長の営業距離を誇り、沿線に多くの有名観光地を擁する近畿日本鉄道には、乗ること自体が目的になるような、個性的な特急が走っています。歴史ある古都や風光明媚なリゾートへ、わくわくしながら向かってみませんか。
都心から郊外へと放射状に伸びる路線が多い関東の私鉄と比べると、関西の私鉄は大阪、神戸、京都、奈良などの、広域に点在する都市間を網の目のように結ぶ路線が多いのが特徴です。同じ都市を違うルートで結ぶ競合路線も多く、旧国鉄をふくむライバルとの激しい競争を勝ち抜くために、古くから各社が個性的なサービスや車両で乗客を呼び込んできました。
京阪神地域を中心に、奈良、三重、愛知県内まで路線網を張り巡らせる近畿日本鉄道も、昭和33(1958)年に登場した2階建てのビスタカーを筆頭とする魅力的な特急を各線に走らせてきたことで知られます。
現在も、私鉄最長の営業距離となる501.1㎞の長大な路線網を走る一日4433本(平日)の列車のうち、372本が特急。土休日ともなれば4192本中特急が389本と、その比率はさらに高くなります。
特急はすべてリクライニングシートや大きな窓を備えた快適な専用車両で運行されますが、中でも豪華なしつらえで注目を集めているのが、「しまかぜ」「あをによし」「青の交響曲(シンフォニー)」と名づけられた観光特急たち。それぞれ大阪難波・京都・近鉄名古屋~賢島(伊勢志摩)、大阪難波~近鉄奈良~京都、大阪阿部野橋~吉野(奈良)という、著名な観光地に向かう特急です。
平成25(2013)年に運行を開始した50000系「しまかぜ」の先頭車両は、高いフロアと天井近くまである大きな窓を備えた展望ハイデッカー。標準車両では横に4列並ぶシートをゆったりと3列に配置。シートは背もたれにエアクッションによるランバーサポート機能などを内蔵した本革で、風光明媚な伊勢志摩へ向かう旅の時間を快適に過ごせます。
ほかにもグループや家族でくつろげる大型テーブルつきのサロン席や、掘りごたつのように靴を脱いでまったりできる和風個室など、さまざまなタイプの席が用意され、2階建てのカフェ車両では、沿線の名産品を使った食事や、クラフトビールにワイン、スイーツなども味わえます。
6両編成が3本在籍する「しまかぜ」は新造車ですが、平成28(2016)年に走り始めた「青の交響曲(シンフォニー)」と、令和4(2022)年運行開始の「あをによし」は、それぞれ既存の特急車両を改造して生まれた、各1本ずつしかないスペシャル編成。
「青の交響曲(シンフォニー)」は3列シートのゆったりとした座席スペースと、革張りソファとバーカウンターを備えた、豪奢なラウンジスペースから成る3両編成。「あをによし」は家具メーカーによる特注デザインで、会話を楽しめるツインシート車と、パーテーションで区切られた半個室感覚のサロンシート車の4両編成で、いずれも大人のゆったりとした旅を演出してくれる空間です。
どの特急も人気が高く、中でも「しまかぜ」の個室や「あをによし」のサロンシートは発売開始となる乗車1か月前から購入されるお客様も多いとのこと。コロナ禍で一時は減少した乗車率も今は回復していて、とくに「あをによし」と「青の交響曲(シンフォニー)」は、海外からのインバウンド客も目立つといいます。
数ある近鉄の特急の中でも、これらの観光特急は乗ること自体が楽しみになる車両を目指して、走行する区間に沿ったコンセプトや車内設備にこだわって開発されたそうです。春秋の観光シーズンには特に乗車率が高まるほか、「青の交響曲(シンフォニー)」はブライダルトレインとして利用もされました。
個性的な特急車両はただの移動の足ではなく、非日常感覚が楽しめるエンターテインメント空間としても愛されているようです。
近畿日本鉄道HP:https://www.kintetsu.co.jp/
写真提供・近畿日本鉄道株式会社
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。