更新日:2022/01/18
令和4年度税制改正大綱が令和3年12月10日に公表されました。
今般の税制改正では、新型コロナウィルス感染症への対応に最大限の配慮をしつつ、企業を取り巻く多様な利害関係者に配慮した経営および積極的な賃上げの強化、また、住宅ローン控除の見直し、固定資産税等の負担調整措置等が主なポイントとなっています。
なお、以前から注目されていた相続税、贈与税の一体課税の議論は先送りされました。「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、(中略)資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」となっており、来年度以降に持ち越されて検討されることになります。
昨年度と違う表現として「経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家庭内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、普段の見直しを行っていく必要がある」が追加されています。
賃上げに関わる税制措置が抜本的に強化されました。大企業については、継続雇用者の給与等支給額および教育訓練費を増加させた企業に最大30%の税額控除の適用があります。中小法人については、賃上げを高い水準で行い、教育訓練費を増加させた場合に、増加額の最大40%の税額控除の適用が設けられました。
交際費等の損金不算入制度について、中小法人は①交際費等を800万円まで全額損金算入、②接待飲食費の50%まで損金算入、のどちらか選択適用の期限が2年延長されました。なお、大法人(資本金100億円超の法人は対象外)は②のみ適用可能となります。
スタートアップ企業への出資額の25%を課税所得から控除するオープンイノベーション促進税制について、出資を受けるスタートアップ企業の要件のうち、設立の日以後の期間に係る要件(現行:10年)について、売上高に占める研究開発費の割合が10%以上の赤字会社は設立後15年未満まで拡充されました。また、対象株式の保有見込み期間が3年(現行5年)に短縮されました。
5G基地局の整備や、企業等が限られたエリアで構築する「ローカル5G」への投資について、取得価額の15%の税額控除または30%の特別償却ができる措置が3年間延長されました(ただし控除率は段階的に見直し)。また、ローカル5G事業者に限り固定資産税の課税標準を1/2にする措置も2年間延長されました。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(取得価額が30万円未満の減価償却資産)の適用期限が2年間延長されました。但し、対象となる資産から、貸し付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものは除外されることになりました。
海外子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避を防止するための措置について見直しが行われました。法人が一定の支配関係にある海外子会社から、一定の配当等を受ける場合、株式の帳簿価額から、その配当等のうち益金不算入相当額を減額することとされていましたが、適用除外要件の判定及び適用回避防止規定が強化されています。
事業者登録について、課税期間の中途に、登録日から適格請求書発行事業者となることができる対象期間が、「令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間」に見直されました。
住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について、適用期限が令和7年末まで4年延長されました。なお、控除率は住宅借入金残高の0.7%(これまでは1%)に縮小されますが、省エネ性能の高い認定住宅等は、借入限度額が上乗せされます。また、適用対象者の所得要件が現行の3,000万円以下から、2,000万円以下に引き下げられました。
上場株式等に係る配当所得の課税の特例について、株式等保有割合が3%以上の株主は総合課税の対象とされていますが、改正後は、一定の支配法人を介して所有する株式も加味して実質的に3%以上の持株割合になるときは、上場会社から受け取る配当が総合課税の対象となり、個人株主は分離課税の適用を受けることができなくなります。
また、今回の改正によって上場株式等の配当等の支払いをする内国法人は、その配当等の支払いに係る基準日においてその持株割合が1%以上となる対象者の氏名、個人番号等を記載した報告書を税務署長に提出する事となります。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税非課税措置の適用期限が2年延長されます。なお、非課税限度額は耐震、省エネまたはバリアフリーの住宅用家屋は1000万円、これら以外の住宅用家屋は500万円に引き下げられます。また、受贈者の年齢要件も18歳以上に引き下げられます。
土地に関する固定資産税の負担調整措置について、22年度限りの措置として、商業地等の課税標準額を、21年度の課税標準額に22年度の評価額の2.5%(現行5%)を加算した額とする。
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承継計画の提出期限が1年延長されました。但し、贈与・相続など行為に係る対象適用期限は令和9年12月末までで延長は行われません。
令和4年3月31日までとされていた住宅等に対する登録免許税・不動産取得税・不動産譲渡契約に係る印紙税の軽減措置について適用期限が延長されます。
住宅用家屋の所有権の保存登記に対する登録免許税は2年延長、不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税は2年延長、新築の認定長期優良住宅に係る不動産取得税の課税標準の特例措置は2年の延長となります。
電子取引の取引情報の電子保存制度について、令和4年年1月1日から令和5年12月31日までの間に行う電子取引で、制度の保存要件に従った電子保存ができない事についてやむを得ない事情があると税務署が認める場合などは、保存要件にかかわらず保存をすることができるとする経過措置を講じました。
納税者が修正申告をする前に税務書職員から帳簿の提出を求められ、帳簿を提示・提出しなかった場合や売上金額や収入金額の記載が著しく不十分だった場合、通常の過少申告加算税または無申告加算税の額に、申告漏れに関する税の5%または10%相当額が加算されることになりました。
経済環境の動向を踏まえ、今後、金融所得課税の強化が総合的な関連から検討されています。
OAGグループ OAG税理士法人 株式会社OAGコンサルティング 執行役員
税務会計顧問、経営コンサルティング業のほか、経営幹部を始め、経理担当者・営業担当者等を対象に全国各地で講演・セミナー講師としても従事。明快かつ実践的な内容には定評がある。「管理会計手法を用いた投資・経営管理」及び「税務を活かしたキャッシュフロー経営」等に強みを持つ。
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