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第12回 メンターの経理とは、次の世代のことを考えてくれている経理

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2026/01/20

先輩・後輩

人口減少による職場環境への影響は待ったなし

「戦後の昭和・平成」の時代と「令和以降」の時代の大きな違いは、前者は人口が右肩上がり前提の組織体制や考え方で乗り越えられてきたものが、後者はそれでは乗り越えられなくなってきたことです。私は就職氷河期世代ですが、就職活動当時は「面接をしていただけるだけでもありがたい」「働かせていただけるだけでもありがたい」という時代でした。「仕事が嫌なら辞めてくれていいんだよ。あなたたちの代わりなんて募集すればすぐ来るんだから」と言われた同世代の知人も一人や二人ではありません。私が実際に転職をした際にも、「何百人の応募者の中からあなたを選んだのだからしっかりお願いしますね」と入社後に言われ、そんなに応募があったのかと驚いたこともあります。

でも今の時代は違います。たとえば、経理社員の一人が退職することになり、新たな求人をかけても、会社が希望する条件の人材はなかなか応募してくれません。それでもその中から良さそうな人に声をかけて一次面接に来てもらっても、実際にイメージが合う人は、何人かに一人でしょう。そしてようやく役員面接に通せるふさわしい人が見つかったと思ったら、その人から「すみません、他社で内定をいただいたので辞退させてください…」と連絡をもらい、また1からやり直し…。これまでにも、このような売り手市場の時代はありましたが、これからはそれが「常態化していく」という点がこれまでとは違う点でしょう。

そのため、私のような就職氷河期世代が、自分が若い時に受けてきた扱いと同じように、若い世代に対して「代わりはいくらでもいるんだからね」という前提のコミュニケーションをしてはいけないのはもちろんのこと、「うちのような人気企業には人手不足など関係のない話」と、人手不足の対策を何も打とうとしない、という上役も、若い世代にとっては「後の世代の人たちのことを考えない老害」と捉えることでしょう。メンターというのは、後の世代の人たちのことを考えらえる人です。メンターは、後の世代の人たちがいかに快適な職場環境でやりがいをもって仕事ができるかを考え、その環境作りのサポートができます。反対に老害は「自分が気持ちよくなること」を優先に考えますから、「自分が現状満足できているからそれでいい。これまでと何も変える必要などない。定年まで逃げ切って、後のことは後の世代の人たちが自分たちでやるだろう」という発想です。もし皆さんが20代、30代で、上司がこのような発想だったらどうでしょうか。ただただ虚しく感じるのではないかと思います。では具体的に経理の環境を令和の時代にも合うようにするためには、どのような考え方、どのような対策をとることが必要になるかを考えてみましょう。

令和は「ヒトからヒト」の前に「ヒトからデジタルツール・外注」へ引き継ぐ時代に

令和の時代に最も必要な発想の転換の一つは、これまでは、退職者などが発生した場合、新たに入社する人にその全てを一旦引き継いでもらう、という「ヒトからヒト」への引継ぎが一般的でした。しかし今後は、退職者が出たらできるだけ「ヒトから機械」「ヒトから外注」へ引き継ぎ、引継ぎきれなかったものだけ後任の社員に引継ぐ、という発想の転換をすることです。

ある会社で、勤続数十年の経理社員が退職することになりました。業務量も多岐にわたり、難易度の高い仕事もあったため、後任候補を募集してもなかなか見つからないまま退職の日が近づいてきました。そのため、一旦求人採用を止めて、既存の経理や総務だけでなく現場部門も含めた社員5名で引継ぎチームを作り、退職される方の業務を一旦そのまま手分けして引き継ぎ、その後、次のステップで精査をしていきました。

  1. 引き継いだ作業自体をもっとシンプルなやり方に改善できないか、または業務そのものを廃止できないかを検討、見直し
  2. 1を行った後、既存のソフトウェア、あるいはAIなどの機能もある新たなクラウドのソフトウェアなど「デジタルツール」に、業務を引き継げないかを検討
  3. 2で引継ぎきれなかったものを「外注」できないかを検討(税理士事務所・経理代行業者・フリーランスなど)
  4. 1から3のプロセスを経てもなお手元に残る作業を、新しい担当者への求人要件として再募集をかけ、採用。その担当者に引継ぎ。

このように行った結果、難易度の高い経理作業は4にはほとんど残っておらず、4には「どうしても直接銀行や郵便局に行かなければいけない時」、「どうしても小口現金が必要な時」など、人が物理的にどうしてもその場で対処しなければならないものが中心に残ったため、再募集の要件は、経理知識に一通り精通したレベルを求めなくてもよくなりました。そのため、求人要件を満たした応募者が増え、最終的に人間性の良い方を採用することができました。そして各社員で一旦引き受けていた業務のうち4の作業だけを新しく入社した社員に引き継ぎ、問題なく引継ぎも完了しました。その後、新しい社員にはご自身の作業マニュアルを入社1か月のうちに全て作っていただきました。

経理業務を引き継ぎの観点から3つに分類して管理・更新をして盤石な経理体制に

このようにしておけば、今後、再度そのポジションの担当者が退職することになっても、「上へ下への大騒ぎ」になることはありませんので、「なかなか良い人を採用できないから辞める日をもう少し先延ばししてくれない?」と、退職希望者を引き止めるということもしなくてよくなりますし、退職する側も、会社側から強引に退職の引き止めをされることもないので、労使のトラブルを避けられます。経理は専門職ですので、人から人へ業務を引き継いでばかりいると、昭和・平成時代は簡単に後任の人材を見つけることができていても、令和の時代では難しいのです。そのため、経理の業務を

  1. 機械に引き継ぎが可能な業務
  2. 外部の人間にも引き継ぎが可能な業務
  3. 社内の人間にしか引き継げない業務

に分類し、それぞれ定期的に管理や更新をしていくことで、人口減少による経理の人材不足にも対応でき、盤石な経理体制を維持し続けることができるでしょう。

ベテラン経理社員は「経験値のメンター」として、若手経理社員は「AIやデジタルツールのメンター」として、お互いに知見を共有し合い、人手不足の時代でも「やるべき時はしっかり仕事をし」、「休むべき時はしっかり休める」職場環境を整えていきましょう。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。