更新日:2026/06/22
社会保険料の計算は、給与計算業務の中でもミスが起きやすい項目です。標準報酬月額や標準賞与額の考え方を正しく理解していないと、控除額の誤りや届出漏れにつながる可能性があります。
また、保険料率の改定や適用拡大など制度変更も頻繁に行われるため、常に最新情報を押さえておく必要があります。
本記事では、社会保険料の基本的な仕組みから、給与・賞与別の計算方法、負担割合、計算表の見方、適用拡大のポイントまでを体系的に整理します。
実務で迷わないための基礎を確認していきましょう。
社会保険は、病気やけが、出産、失業、老後などのリスクに備える制度で、保険料は毎月の給与や賞与から控除されます。
会社員や一定の条件を満たすパート・アルバイトなどが加入対象となり、保険料を負担することで給付を受けられます。
社会保険料の主な特徴は、次のとおりです。
特に重要なのは「労使折半」である点です。健康保険や厚生年金保険は、従業員が負担している金額とほぼ同額を会社も負担しています。
給与明細に表示されている金額は、保険料全体の半分にあたります。
なお、社会保険料は税金とは性質が異なります。
税金は国や自治体の一般財源となりますが、社会保険料は特定の保険制度の給付に充てられます。そのため、計算方法や料率の決まり方も税金とは異なります。
社会保険料とひと口にいっても、その内訳はいくつかの制度に分かれています。給与明細に記載されている控除項目も、実際には複数の保険料の合計です。
企業で働く従業員が関係する主な保険は、次の5つです。
健康保険・厚生年金保険・介護保険は「社会保険」、雇用保険・労災保険は「労働保険」に分類されます。
実務では両方をまとめて管理するため、まとめて社会保険料と呼ばれることもあります。
■社会保険の種類と特徴一覧
| 保険の種類 | 主な目的 | 主な給付内容 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 医療保障 | 医療費の自己負担軽減、傷病手当金、出産手当金 | 都道府県や保険組合ごとに料率が異なる |
| 厚生年金保険 | 老後・障害・遺族保障 | 老齢・障害・遺族厚生年金 | 保険料率は全国一律(18.3%) |
| 介護保険(40歳以上) | 介護保障 | 介護サービス利用 | 40歳以上が対象、健康保険料に上乗せ |
| 雇用保険 | 失業・育児休業保障 | 失業給付、育児休業給付など | 料率は毎年度見直し |
| 労災保険 | 業務・通勤災害保障 | 休業補償給付、障害補償給付など | 業種ごとに料率が異なる |
それぞれの制度の概要を確認してみましょう。
健康保険は、病気やけがをした際の医療費を補助する制度です。医療機関で支払う自己負担が原則3割で済むのは、健康保険に加入しているためです。
主な給付内容には、次のようなものがあります。
【利用できる制度や給付の例】
健康保険の保険料率は、加入している保険者によって異なります。中小企業の多くが加入している「協会けんぽ」では、都道府県ごとに料率が設定されています。一方、大企業などが設立する健康保険組合では、独自の料率が定められています。
厚生年金保険は、老後や障害、死亡などに備える公的年金制度です。会社員は国民年金に加えて厚生年金にも加入するため、将来受け取る年金額が上乗せされます。
【主な年金給付例】
厚生年金保険料率は全国一律で、現在は18.3%です。このうち半分を従業員、半分を会社が負担します。
介護保険は、40歳以上の従業員が対象となる制度です。健康保険料に上乗せされる形で徴収されます。
40歳以上65歳未満の人は「第2号被保険者」として加入し、介護が必要になった場合に介護サービスを利用できます。
介護保険料率も毎年度見直され、健康保険料と同様に労使折半が原則です。
雇用保険は、失業した際の生活を支えるための制度です。いわゆる「失業手当(基本手当)」が代表的な給付です。
【主な給付例】
雇用保険料は、労働者と会社がそれぞれ一定割合を負担します。ただし、健康保険や厚生年金と異なり、負担割合は折半ではありません。料率は毎年度見直されます。
労災保険は、業務中や通勤中のけが・病気に備える制度です。
労災保険料は全額会社負担であり、従業員の給与からは控除されません。料率は業種ごとに異なり、建設業や製造業などは比較的高く設定されています。
社会保険料は、実際の給与額そのものをもとに計算しているわけではありません。
計算の基準となるのは「標準報酬月額」や「標準賞与額」と呼ばれる区分された金額です。
これらは給与や賞与を一定の幅ごとに区分し、その区分ごとの金額を保険料計算の基準にする仕組みとなっています。
毎月の給与が多少増減しても、すぐに保険料が変わらないのは、この標準報酬制度があるためです。
社会保険料の計算では以下の3点が重要です。
それぞれの内容を確認してみましょう。
標準報酬月額とは、毎月の給与を一定の等級に当てはめた金額です。
実際の給与額をそのまま使うのではなく、あらかじめ定められた報酬月額表に基づいて区分します。
たとえば月給が30万円の場合、そのまま30万円を基準にするのではなく、「標準報酬月額30万円の等級」に当てはめ、その等級に対応する保険料を計算します。
標準報酬月額は、原則として毎年4月から6月までの給与の平均額をもとに決定され、9月から翌年8月まで適用されます。これを「定時決定」といいます。
また、昇給や降給などで給与が大きく変動した場合には、「随時改定(月額変更届)」により途中で標準報酬月額が変更されることもあります。
標準報酬月額の算定対象となるのは、労働の対価として継続的に支払われる賃金です。
標準報酬月額の算定対象に含まれるものは以下の5点です。
一方、次のような費用は原則として算定対象に含まれません。
どの手当が対象になるかを正しく理解していないと、標準報酬月額の算定を誤る可能性があります。計算ミスを防ぐためにも、給与項目ごとの扱いを把握しておきましょう。
賞与についても社会保険料の対象になります。ただし、給与とは計算方法が異なります。
賞与は、実際に支給された額から1,000円未満を切り捨てた金額を「標準賞与額」として計算に使用します。さらに、健康保険・厚生年金それぞれに上限額が設けられています。
標準賞与額×保険料率によって保険料を算出し、会社と従業員でそれぞれ負担します。
賞与は支給のたびに個別に計算されるため、月例給与とは別に処理する点に注意が必要です。
社会保険料は、従業員だけが負担しているわけではありません。健康保険や厚生年金保険などの多くは、会社と従業員が分担して支払う仕組みになっています。
まず押さえておきたいのは、保険ごとに負担割合が異なる点です。
■社会保険料の主な負担割合
| 保険の種類 | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 原則50% | 原則50% |
| 厚生年金保険 | 原則50% | 原則50% |
| 介護保険 | 原則50% | 原則50% |
| 雇用保険 | 一部負担 | 一部負担(本人より多い) |
| 労災保険 | なし | 100% |
健康保険・厚生年金保険・介護保険は「労使折半」が原則です。
たとえば厚生年金の保険料率が18.3%の場合、その半分である9.15%を従業員が負担し、残りを会社が負担します。
一方、雇用保険は折半ではありません。業種や年度によって料率は異なりますが、一般的に会社負担の割合のほうが高く設定されています。
労災保険は全額会社負担です。従業員の給与から控除されることはありません。
給与明細に記載されている社会保険料は、本人負担分のみです。「実際には会社が同額、またはそれ以上を負担しているケースもある」と理解しておくと、保険制度の全体像が見えやすくなります。

社会保険料の計算は「標準報酬月額 × 保険料率」を基本に行います。
ここでは、給与にかかる健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の計算方法を整理します。
※実際に給与から控除されるのは「本人負担分」です。計算の際は、保険料率の半分を用いる点に注意しましょう。
健康保険料は、次の式で計算します。
【計算式】
※健康保険料率は加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合)や都道府県によって異なります。
■計算例
300,000 × 10.00% = 30,000円(総額)
→÷2で本人負担分は15,000円
この15,000円が給与から控除されます。
厚生年金保険料率は全国一律で18.3%です。
【計算式】
■計算例
54,900円÷2で本人負担分 = 27,450円
厚生年金は料率が固定されているため、標準報酬月額が分かれば比較的計算しやすい保険料です。
介護保険料は、40歳以上の従業員にのみ適用されます。計算方法は健康保険と同様です。
【計算式】
介護保険料率は毎年度見直され、健康保険料率に上乗せされる形で設定されています。
■計算例
300,000 × 1.60% = 4,800円(総額)
÷2で本人負担分 = 2,400円
■給与にかかる社会保険料の合計イメージ
標準報酬月額30万円、40歳以上の場合(仮定の料率)
合計:約44,850円
実際の控除額は、ここに雇用保険料が加わります。
賞与(ボーナス)にも社会保険料はかかります。給与と同様に健康保険・厚生年金保険の対象となり、40歳以上の場合は介護保険料も発生します。
ただし、給与とは計算方法が少し異なります。
賞与の場合、「標準賞与額」を基準に計算します。
標準賞与額とは、実際に支給された賞与額から1,000円未満を切り捨てた金額です。
【例】
→ 標準賞与額:500,000円
この標準賞与額に保険料率を掛けて算出します。
なお、健康保険・厚生年金それぞれに年間上限額が設けられています。
特に高額な賞与の場合は、上限の影響を受ける可能性があります。
【健康保険】
500,000 × 10.00% = 50,000円(総額)
本人負担分 = 25,000円【厚生年金】
500,000 × 18.3% = 91,500円(総額)
本人負担分 = 45,750円このように、賞与支給時には給与とは別に社会保険料が控除されます。
給与と賞与の違いを整理すると、次の違いがあります。
給与は等級制度に基づいて一定期間固定されますが、賞与は実際の支給額に応じてその都度計算される点が大きな違いです。
賞与支給月は控除額が大きくなるため、手取り額が想定より少なく感じることがあります。
雇用保険と労災保険は「労働保険」と呼ばれ、健康保険や厚生年金とは計算方法が異なります。
標準報酬月額を使うのではなく、実際の賃金額を基準に計算します。
雇用保険料は、次の式で計算します。
【計算式】
ここでいう賃金総額とは、給与・賞与・各種手当など、労働の対価として支払われる金額の合計です。
雇用保険料は労使折半ではありません。最新(令和8年度・2026年度)の一般の事業における負担割合は次のとおりです(参照:厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」)。
※賃金や年度、事業区分によって料率は変わります。
会社負担が労働者負担より高いのは、失業給付に加えて雇用の安定や能力開発支援のための財源(いわゆる「雇用保険二事業」等)も企業側が一部負担しているためです。
300,000 × 0.50% = 1,500円
この1,500円が給与から控除されます。
会社は別途、300,000 × 0.85% = 2,550円を負担します。
なお雇用保険は、給与だけでなく賞与にも同様にかかります。
労災保険料も、実際の賃金総額を基準に計算します。
【計算式】
ただし、労災保険料は全額会社負担です。従業員の給与から控除されることはありません。
労災保険料率は業種ごとに異なっており、建設業や製造業などは比較的高く、事務職中心の業種は低く設定されています。
■労災保険料率(令和6年度〜)
| 項目 | 労災保険料率(1/1000) | %換算 |
|---|---|---|
| 最小(下限) | 2.5 | 0.25% |
| 最大(上限) | 88 | 8.8% |
(例:
参照リンク:令和8年度の労災保険率について|厚生労働省
健康保険や厚生年金は「標準報酬月額」を基準に計算しますが、雇用保険と労災保険は「実際の賃金額」を基準に計算します。
この違いを整理すると、次のようになります。
計算の基準が異なるため、給与計算ではそれぞれの取り扱いを正しく区別することが重要です。
社会保険料は、計算式を理解していても「実際いくらになるのか」がイメージしづらいものです。
ここでは、月収別・年収別に目安を出す方法と、計算表の見方を整理します。
社会保険料を確認する際は、「標準報酬月額表」を使います。
協会けんぽや日本年金機構のホームページに掲載されており、実際の月給を該当する等級に当てはめることで保険料が分かります。
計算の流れは次のとおりです。
たとえば月給30万円の場合、標準報酬月額も30万円の等級に該当します。
その等級の健康保険料・厚生年金保険料を確認すれば、本人負担額がすぐに分かります。
毎月の給与額が多少変わっても、等級が変わらない限り保険料は一定です。これが標準報酬制度の特徴です。
年収ベースで社会保険料の目安を知りたい場合は、次の手順で概算できます。
一般的に、本人負担分の社会保険料は年収の約14〜15%程度が目安になります(40歳以上はやや高くなります)。
たとえば年収400万円の場合、本人負担分の社会保険料は1年間でおおよそ60万円前後になるケースが多いです。
あくまで概算ですが、手取り額をシミュレーションする際の参考になります。
※正確な金額は、実際の標準報酬月額と最新の料率を用いてご確認ください。
保険料率は毎年度見直される可能性があります。
とくに健康保険料は、協会けんぽや健康保険組合ごとに料率が設定され、都道府県によっても異なります。そのため、最新の料率を確認せずに過去の数値で計算すると誤差が生じます。
また、雇用保険料や介護保険料も、国の方針変更や制度改正により料率が変わることがあります。
【計算時の基本ポイント】
社会保険料の計算を正確に行うには、料率や計算基準、制度適用要件などを正確に理解しなくてはなりません。
基本的な仕組みを押さえたうえで、制度改正や会社の給与体系に応じた取り扱いについても把握しておきましょう。
社会保険料の計算では、端数処理にもルールがあります。
また、算出した社会保険料を給与から控除するタイミングも注意が必要です。
多くの会社では、当月給与から控除されたのち、会社がまとめて納付しますが、賞与と給与では控除時期が異なる場合があります。
【ポイント】
標準報酬月額や標準賞与額は「区分化された金額」であり、実際の支給額とは必ずしも一致しません。
よくある失敗として「実務担当者が単純に支給額に保険料率を掛けてしまうケース」が見られますが、これは誤りです。
【ポイント】
社会保険の適用範囲は、労働時間・雇用形態によって異なります。
たとえば、短時間労働者や一定の要件を満たすパートタイマーなどは(拡大適用の制度が進んだとはいえ)例外的な取扱いになる場合があります。
【ポイント】
社会保険料は、従業員の給与から本人負担分を控除し、会社負担分と合わせて事業主がまとめて納付します。労災保険料は会社が全額負担し、給与からの控除はありません。
健康保険・厚生年金保険の保険料は、原則として翌月末日までに納付します(例:1月分は2月末日)。一方、雇用保険・労災保険は年度更新により年1回精算します。
納付は口座振替や電子納付が一般的です。期限を過ぎると延滞金が発生します。
口座残高不足などで振替不能となった場合も、未納扱いとなるため注意が必要です。
給与計算・控除・納付までのスケジュールをあらかじめ整理し、月次業務の中で確実に処理できる体制を整えておきましょう。
2024年10月から、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲がさらに拡大されました。
これにより、一定の条件を満たすパート・アルバイトも健康保険・厚生年金保険の加入対象となっています(参照:政府広報オンライン「社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック」)。
主なポイントは、企業規模要件の撤廃です。
従来は「従業員数(※)51人以上」の企業が対象でしたが、2024年10月以降はこの要件が廃止され、規模にかかわらず適用対象となりました。
※ここでいう「従業員数」は単純な在籍人数ではなく、厚生年金保険の被保険者数で判定します。フルタイム従業員と、週所定労働時間および月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員(雇用形態は問わない)を合算した人数が基準となります。
現在の主な適用条件は次のとおりです。
これにより、これまで社会保険の対象外だった従業員が新たに加入対象となるケースが増えています。適用漏れがないよう、労働条件の確認と定期的な見直しを徹底しましょう。
A. 原則として、資格取得日(入社日など)から加入対象となり、その月分から保険料が発生します。
A. 社会保険料は「月末時点で加入しているかどうか」で判断します。
月の途中で入社した場合でも、その月の月末に在籍していれば1か月分の保険料が発生します。逆に月末前に退職した場合は、その月の保険料は発生しません。
A. 毎年1回の定時決定(算定基礎届)により、通常は9月から改定されます。
また、大幅な賃金変動があった場合は随時改定(月額変更届)が行われます。
A. 賞与に対する保険料は、支給があった月のみ発生します。
ただし、給与に対する保険料は毎月発生します。
A. 産前産後休業や育児休業を取得している期間は、本人負担分・会社負担分ともに社会保険料が免除されます。
免除期間中も被保険者資格は継続し、将来の年金額にも反映されます。
ただし、所定の届出が必要となるため、手続きを忘れないよう注意しましょう。
社会保険料の計算は複雑に見えますが、仕組みを分解すると「標準報酬月額(標準賞与額)を基準に、保険料率を掛ける」というルールに沿っています。重要なのは、対象となる報酬の範囲、労使の負担割合、給与と賞与の扱いの違いを整理して理解することです。
また、保険料率の改定や適用拡大などの制度変更は、実務に直接影響します。
毎月の給与計算に加え、定時決定や随時改定、年度更新などの手続きもあるため、業務は想像以上に煩雑になりがちです。
そのため、給与データや勤怠データを一元管理できるクラウド型の「PCA Arch 人事労務」のようなシステムを活用し、計算や届出処理を効率化する方法も有効です。
仕組みを理解したうえで業務を標準化すれば、計算ミスの防止と安定した労務運営につながるでしょう。
給与からの控除は、会社の締め日や支給日により翌月控除となるケースが一般的です。