更新日:2026/03/10
2026年以降、労働基準法における大規模な改正が検討されています。
今回の改正案は、連続勤務の上限規制や勤務間インターバル制度の義務化など、企業の労務管理に直接影響を与える重要な事項を多数含んでおり、「約40年ぶりの大改正」と評されています。
従来は個別制度で対応してきた働き方の課題に対し、働き方の前提そのものを見直す動きが含まれている点が特徴です。
改正案は当初、2026年の通常国会へ提出される予定でしたが、2025年12月「2026年の通常国会への改正案提出を見送る」と報じられました。背景には、当初は労働時間の規制強化が検討されていたものの、政府内において労働時間規制の緩和の検討を行う声が出てきたためです。ただし、改正案が白紙になったわけではなく継続審議となりましたので今後の動向を注視する必要があります。
本記事では、労働基準法改正の背景やスケジュールを整理したうえで、企業が押さえるべき主な改正ポイントと、実務上どのような準備が必要になるのかを解説します。
経営者の方や、人事・総務・労務担当者の方は、ぜひ今後の対応検討にお役立てください。
今回の労働基準法改正は、働き方や労働環境の変化を背景に検討が進められています。
単なる制度調整ではなく、労働時間や休日の位置づけそのものに踏み込む点が今回の改正の特徴です。
これまでの労働基準法は部分的な改正が中心でしたが、今回の見直しでは働く人の健康確保と持続可能な雇用環境の整備が強く意識されています。
企業にとっては負担増と感じる場面もありますが、長期的には人材定着や労務トラブルの予防につながる改正といえるでしょう。
現時点では「2027年前後」の施行を想定して労働基準法改正の検討が進められていますが、具体的な時期は未定です。
またすべての改正項目が一斉に施行されるとは限らず、内容によっては段階的な施行となる可能性もあります。
企業側としては、「施行後に対応する」のではなく、事前に影響範囲を把握しておく姿勢が重要です。
■企業側が意識しておきたいスケジュール感
特に今回の改正では、連続勤務日数や勤務間インターバルなど、日々の労務管理に直結する項目が含まれています。
そのため、施行直前に対応するのではなく、段階的に準備を進める姿勢が重要です。

ここからは、今回の労働基準法改正で特に影響が大きいとされるポイントを整理します。
今回の改正では、連続勤務や休日の考え方、副業・兼業時の労務管理など、企業実務に直結する複数の項目が見直される予定です。
| 改正項目 | これまで(現行制度) | 改正後(想定される変更内容) |
|---|---|---|
| 連続勤務の上限規制 | 明確な上限規制はなく、法定休日を付与していれば長期間の連続勤務が可能だった | 原則として13日を超える連続勤務を禁止。一定期間内で必ず休日を確保する運用が求められる |
| 法定休日の特定化 | 休日は複数設定していても、どれが法定休日かを明示する義務はなかった | 就業規則などで「法定休日」を特定し、割増賃金計算の根拠を明確にすることが義務化される |
| フレックスタイム制の部分活用 | 原則として制度全体の導入が前提で、限定的な適用はしづらかった | 部署・職種・期間などを限定した部分的なフレックスタイム制の活用が進む見込み |
| 副業・兼業の割増賃金算定 | 複数の雇用先の労働時間を通算し、後から契約した企業が割増賃金を負担する仕組み | 健康管理目的の労働時間通算は維持しつつ、割増賃金算定は自社分のみで完結する方向へ整理 |
| 「つながらない権利」 | 法的な定義や指針はなく、対応は企業ごとに委ねられていた | 業務時間外の連絡ルールについて国がガイドラインを策定し、対応方針の明確化が求められる |
| 勤務時間インターバル制度 | 努力義務にとどまり、導入企業は一部に限られていた | 勤務終了から次の始業までの休息時間確保が義務化される可能性があり、制度設計が必須になる |
※上記は現時点で議論中であり、変更される可能性があります。
今後の法改正においては、連続勤務日数に上限を設ける方向での規制が検討されています。
労働基準法では、法定休日(週1回または4週4日)の確保は求められていましたが、「何日まで連続勤務が可能か」という明確な上限は定められていませんでした。
そのため、法定休日があれば理論上は長期間(48日)の連続勤務が可能であり、長期間の連続勤務が発生するケースがありました。
改正により、13日を超える連続勤務が原則禁止され、勤務日数そのものに上限が設けられます。
休日の与え方だけでなく、勤務の“連続性”が直接規制対象になります。
今回の報告書においては、変形週休制の特例を「2週2日」へ、連続勤務の上限13日までとすると提言されています。
この改正が実現すると、「休日を形式的に与えていれば問題ない」という運用は通用しなくなります。
特に人手不足の部署や、月末・繁忙期に稼働が集中する業種では、知らないうちに連続勤務日数が上限に達してしまう可能性があります。
企業としては、以下のような運用面の見直しを早めに検討しておくことが重要です。
就業規則上「週1日以上の休日」とだけ定め、具体的にどの日が法定休日かを明示していない企業も少なくありませんでした。
その結果、「週1日以上の休日」といった抽象的な定めのまま、法定休日と法定外休日が明確に区別されていない運用が行われているケースも少なくありません。
改正により、法定休日をあらかじめ特定することが義務化されます。
「どの日が法定休日か」を曖昧にした運用は認められなくなります。
企業においては就業規則や勤怠ルールを確認し、「法定休日」「所定休日」「振替休日」の整理を行っておくことが実務上の対策となります。
フレックスタイム制は、全従業員または特定部署単位で一律導入するケースが一般的でした。
しかしその一方で、業務内容によって柔軟に使い分ける運用はしづらい面がありました。
今回の法改正ではフレックスタイム制を、部署・職種単位で柔軟に活用できる方向が検討されています。
これは、通常の始業終業時間で勤務する「コアデイ」を設けながら、別の日にフレックスで始業終業するというものです。
部分活用が進めば、育児・介護を抱える従業員や専門職・企画職など、特定の条件で働いている従業員、および特定の職種や部署に限定した導入が現実的になります。
導入する場合は以下の3点の対策が重要です。
制度だけ作って運用が追いつかない状態を避けるため、管理職への事前説明も欠かせません。
現行の労働基準法では、従業員が複数の企業で働く場合、すべての雇用先での労働時間を通算して労働時間を管理する必要があります。
その結果、通算後に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分については、後から雇用契約を結んだ企業が割増賃金を支払うという整理が取られてきました。
しかし実務では、
といった課題があり、副業・兼業を認めるうえで大きなハードルとなっていました。
改正に向けた議論では、健康確保の観点から労働時間の通算管理は維持しつつ、割増賃金の算定については通算を不要とする方向が示されています。
つまり、以下のような形に整理される可能性があります。
これにより、複数企業にまたがる割増賃金精算の煩雑さが解消され、副業・兼業を受け入れる企業側の実務負担が軽減されると見込まれています。
今後の正式な制度化を見据え、副業を前提とした労務管理の考え方へ切り替えていく準備が重要になります。
勤務時間外の連絡を制限する「つながらない権利」について、ガイドライン策定が予定されています。
これまでは業務時間外の連絡については、明確な法規制がなく、企業ごとの判断に委ねられている状態でした。
改正に伴い、業務時間外の連絡や対応に関するガイドラインが策定される予定です。
このガイドラインについては法的拘束力が弱くても、実務上の指針として重視される可能性があります。
業務時間外の連絡は、無意識のうちに常態化しているケースが多く見られます。ガイドラインが示されることで、「暗黙の了解」で行われていた対応の見直しが必要になる可能性が高いでしょう。
ガイドライン策定を見据え、企業側には次のような点の整理が求められます。
ルールがないままでは、現場判断にばらつきが生じ、管理職・従業員双方の負担が増えやすくなります。
よって企業としては「どこまでが緊急対応か/誰が連絡するのか」を事前に整理し、ルールとして共有することが重要です。
法改正後は「勤務時間インターバル制度」が義務化される方向です。
勤務間インターバルとは、勤務終了から次の勤務開始まで原則11時間の休息時間(インターバル)を空けるという制度です。
従業員の休息確保を目的とした制度ですが、現行法では努力義務であり義務ではないことから、2024年の導入実績は5.7%、導入予定(または検討)している企業はわずか15.6%と少ない割合でした。
原則11時間の休息確保が義務化されることで、「忙しいから仕方ない」という理由での短時間休息は認められにくくなります。
そのため、単に「残業を減らす」だけでなく、勤務間の休息設計が求められます。
■影響が出やすいケース
勤務時間インターバル制度の義務化にあたって、企業側には以下のような対策が求められます。
特に中小企業では影響が大きいため、現行の勤務実態を早めに把握し、インターバル確保が可能か検証しておく必要があります。
今回の労働基準法改正は、制度そのものだけでなく、企業の日常的な労務管理や従業員との関わり方にも影響を及ぼします。
そのため、法改正への対応は「施行直前に慌てて調整する」のではなく、段階的に準備を進めることが重要です。
特に次の3点は、早めに着手しておきたい実務対応といえるでしょう。
まず対応が必要となるのが、就業規則や雇用契約書の内容です。
今回の改正では、休日や労働時間の考え方、副業・兼業の扱いなど、規程と実態のズレが表面化しやすくなります。
見直しの対象となりやすいのは、次のような項目です。
これらが曖昧なままだと、改正後の運用で「規則上は問題ないが、実態としてはリスクがある」状態に陥りやすくなります。
就業規則はトラブル発生時の判断基準にもなるため、制度変更に合わせて整合性を取っておくことが重要です。
制度を整えるだけでなく、それを正しく運用できる仕組みがあるかも確認が必要です。
特に勤怠管理や給与計算システムは、今回の改正の影響を受けやすい領域といえます。
チェックしておきたいポイントは以下のとおりです。
システム対応が不十分な場合、手作業での管理が増え、人的ミスや計算誤りのリスクが高まります。
法改正を機に、現行システムで対応可能か、アップデートや入れ替えが必要かを整理しておくと安心です。
制度や仕組みを整えても、従業員に正しく伝わらなければ実効性は高まりません。
今回の改正は、従業員一人ひとりの働き方に直結する内容が多いため、周知の仕方も重要になります。
特に説明が求められるのは、次のような点です。
これらを単に文書で配布するだけでは、「結局何が変わったのかわからない」という状態になりがちです。
説明会や研修、管理職向けのレクチャーなどを通じて、背景や意図も含めて共有することで、現場での誤解や混乱を防ぎやすくなります。
今回の労働基準法改正は、休日の考え方や時間外労働、副業・兼業の扱いなど、日々の労務管理に直結する内容が中心です。
企業には、改正内容を把握するだけでなく、実務への影響を踏まえた対応が求められます。
特に「就業規則や勤怠管理の運用が改正後の考え方とズレていないか」を早い段階で確認しておくことが重要です。
あわせて、管理職や従業員に対し、変更点を整理して共有しておく必要があります。
いずれにしても早めの見直しが、改正後の混乱やトラブルを防ぐことにつながります。
まずは「どこが変わるのか」「自社にどんな影響があるのか」を洗い出し、対応が必要なポイントから順に準備を進めていきましょう。