更新日:2022/08/02
天災や感染症拡大などの非常事態の対策として、「BCP」の重要性が注目されています。ここではBCP対策の基礎的な知識や、BCM、防災との違いをご紹介します。BCP策定の手順やポイントも解説するので、ぜひご参考になさってください。
BCP(Business Continuity Plan)とは「事業継続計画」のことです。
具体的には『企業が災害や感染症拡大、紛争や事故などの“不測の事態”に遭ったときに、損害を最小限にしつつ事業の継続・早期復旧を実現するための計画』を指します。
もともとBCPでは地震や台風などの自然災害や、火事・紛争などの発生を想定するケースが多く見られました。
しかし2020年の「新型コロナウイルス」の感染拡大をきっかけに、感染症対策を含めたBCP対策の重要性が再認識されるようになった背景があります。
BCPで策定すべき緊急事態には、以下のようなものがあります。
自然災害
台風、地震、集中豪雨、洪水などの水害、落雷、豪雪など
事故
自社設備(および関連施設)の大規模事故、火災など
感染症
新型コロナウイルス、新型インフルエンザなどの感染拡大時
紛争
戦争、テロなど
その他
サイバー攻撃など、事業継続に影響を及ぼす事態
非常事態が起こって会社が壊滅的な損害を受けた場合、事業を一時的に中止しなくてはなりません。
特に会社のメイン事業がストップしてしまえば、その影響は計り知れないものになります。被害が甚大で復旧が難しくなれば、そのまま事業が再開できない可能性もあるでしょう。
そうなると企業にとっての損失はさることながら、雇用中の従業員の失業、商品・サービス提供の終了など、社会的な損失を生むことにもなってしまいます。
緊急事態が発生した場合に想定しうる損害
このように、非常事態が起こったときの損失を最小限に抑え、できる限り早く復旧を目指す計画が「BCP対策」なのです。
BCPと似た言葉に「BCM」「防災」があります。この3つには、どのような違いがあるのでしょうか。
BCM(Business Continuity Management)とは、直訳すると「事業継続マネジメント」という意味です。
BCPは「事業を続けるための計画」であるのに対し、BCMは「BCPを活用し、運用から見直し、企業内への浸透などのマネジメントをすること」を指します。
BCP対策を行っていたとしても、BCPを発動するのが遅れてしまえば無駄になってしまいます。またBCPを作ったものの、その内容が実現可能かどうかは実証しないとわかりません。
策定したBCPを当初の計画通り行って事業継続をするには、BCP戦略の立案、訓練テスト、メンテナンスなどが必要です。これらの活動をとりまとめ、マネジメントするのが「BCM」なのです。
BCP対策と防災は「非常事態に備えた対策」という共通点があります。
しかしBCP対策は「事業の継続、および早期の復旧」を目的としているのに対し、防災は「従業員や自社の設備を守ること」を目的にしているという違いがあります。
また、BCPはあらゆる非常事態が対象ですが、防災は地震や台風、水害などの「自然災害のみ」を想定しているのも大きな違いです。感染症など他の非常事態への対策は、BCPで別途策定する必要があります。
BCP対策で重要な「3つの観点」は以下のとおり。
これらの観点を踏まえて、BCPを策定していきましょう。
はじめに基本方針を決めておくことで、BCP対策がスムーズに進みます。
「何を優先すべきか」と迷ったときの指標にもなるので、上記4点については必ず決めておきましょう。
非常事態が発生したとき、「中核事業(残った設備や労力で最優先する事業)」を決めておく必要があります。
①中核事業の特定をする
自社が手掛ける事業のうち、なにが中核事業にあたるのかを分析していきましょう。
②中核事業に必須の資源を考える
次に、中核事業に必要となる「5つの資源」を挙げます。
特に重要な資源については、手厚い対策を講じる必要があるでしょう。
③復旧までの目標を設定
中核事業がストップしてしまった場合の「復旧目標日数」、および「復旧レベル」も決めておきます。
中核事業についてまとまったら、非常事態が起こった際にどういった被害や影響が及ぶのかをシミュレーションしていきます。
非常事態の種類が変われば、損害の内容も金銭的な被害も変わってきます。また非常事態の内容は、具体的かつ現実的であるほど良いです。できる限り多くのシーンを想定したうえで、シミュレーションをしていきましょう。
3で行った複数のシミュレーション結果をもとに、より詳細なBCP対策を決めていきます。
中核事業に必要な5つの資源の「代替」となるもの
中核事業を行うためのリソースが損害を受けると、事業の継続が危うくなってしまいます。
一方、リソースの「代わりになるもの」を決めておけば、資源の一部を失ったり機能が停止したりしても、中核事業の継続・復旧が実現できます。
たとえば従業員(人的リソース)へ損害が出たときの代替案には、「関連企業から一時的に従業員を派遣してもらう」などの対策が考えられるでしょう。また自社設備のストップが想定される場合は、別拠点にある製造ラインの転用、外注などが検討できます。
事業資金やデータ、企業の体制などについても同様に、非常事態でも実施可能な「代替案」を決めましょう。
BCPを発動する基準、指揮系統を決めておく
BCP対策を細かく決めていても、発動基準があいまいなままではうまく機能しません。初動の遅れは命取りになる可能性があるため、発動基準を明確にしておきましょう。
BCP発動基準を決める際の基準になる要素
また、BCPの発動、および発動後の指揮系統についても決めておきましょう。
中小企業庁の「BCP策定運用指針」では、施設・設備・データなどの直接的な復旧にあたる「復旧対策」、復旧のための資金調達を行う「財務管理」、対外的な連絡・調整をする「外部対応」、従業員対応をメインとする「後方支援」という体制づくりを推奨しています。
非常事態の対応で後れを取らないようにも、誰が何を担当するのかをBCPで決定・周知しておきましょう。
BCP対策のマニュアル化、および文書化
これまでの内容がかたまったら、非常事態の種類ごとにマニュアル化し、文書へとまとめましょう。
マニュアルは「BCP発動」「業務の再開」「業務の復旧・回復」「復旧後」と4段階に分けて策定します。
BCPが完成したあとは、BCM(事業計画マネジメント)を行いましょう。
BCMで「BCPの周知・教育」や「訓練等の実施と結果の検証」」「見直し・改善」というサイクルを回していけば、常に適切なBCP運用ができるようになります。
BCP対策は「中核となる事業の継続」と密接に関わっています。特に自然災害の多い日本では、BCPの有無が会社の存続を大きく左右するケースも多々見られます。
ただしBCPは「ただ策定すればいい」というものではありません。計画の中には、実地訓練を行って初めて「非常事態発生時に実行できるか」が判明する内容もあります。「やってみないと分からないこと」については、あらかじめ訓練として実施し、結果をもとに検証や見直しを行いましょう。
また会社の成長や設備、事業内容の変更、社会情勢の変化などがあれば、その変化に即したBCPのブラッシュアップも必要になります。もしもの時の損失を最小限にするためには、常に最適なBCPを準備しておきましょう。