公開日:2022/06/17
DX推進が叫ばれる中、多くの企業に衝撃を与えた「2025年の崖」の問題。
2018年に経済産業省が発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」をきっかけに知られるようになった言葉ですが、具体的にはどのような問題が生じるのでしょうか。
本記事では、2025年の崖とはどのような問題なのか。また、企業はどのように対応していくべきなのかをご紹介します。
2025年の崖とは、問題を抱えた既存ITシステムにより多額の経済損失が発生する問題です。「2025年以降、崖から転落するかのように一気に多額の経済損失・問題が生じる可能性がある」という意味から、2025年の崖と呼ばれています。
企業内で問題を抱えた既存ITシステムは「レガシーシステム」と呼ばれており、システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化といった問題点を有しています。
①老朽化
(例)古い言語を利用したITシステムにより、保守や運用できる人材が減少していく
②複雑化
(例)部署・部門ごとでバラバラのシステムを利用することで、横断的なデータ活用が難しくなる
③ブラックボックス化
(例)過剰カスタマイズによる「独自のシステム」の構築、保守運用人材の退職により、システムの全貌が分からなくなる
DXレポートの表題となった2025年の崖DXレポート※では、日本企業のおよそ8割が老朽化したシステムを抱えているというデータを発表しており、また、それらの現存するレガシーシステムの維持管理には、多くのコストが必要になります。
レガシーシステムに長期的に多額のコストが必要になると、今後企業にとって必要な「DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)」を推進する際の足かせとなっていくことが予想されます。そうなれば、新たなデジタル技術の導入が進まず、未来の経営・事業戦略において大きな損失が生まれる可能性も高くなるのです。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、レガシーシステムを有したまま2025年を迎えた場合、以下のような「問題」が生じると指摘しています。
これらの問題が一気に重なれば、企業は業務内容、経営戦略の見直しを必然的に迫られることになります。また2025年の崖に対応できない企業は、デジタル技術を活用した企業間競争の敗者となります。
その結果として多くの企業が業績悪化の道を辿り、国内で大きな経済損失が生じるのです。
また2025年の崖にユーザー(企業)が対応できない場合、ベンダー(開発者側)にとっても不利益が生じます。
企業が2025年の崖対策を行わない場合、ベンダーも既存システムの保守や運用、受託型業務を続けなくてはならなくなります。そうなれば最先端のデジタル開発の人材育成・確保、クラウドサービスの開発・提供などに参入しづらくなってしまうでしょう。最新の技術が創出されにくくなれば、DXの推進はますます鈍化します。
このようなユーザー・ベンダー双方での悪循環が生まれた場合、経済全体への影響はより計り知れないものとなるでしょう。事実、経済産業省のDXレポート※では、「企業がレガシーシステムを抱えたままである場合、2025年~2030年にかけての年間最大経済損失は12兆円になる」という試算も出ています。
「2025年の崖」において、企業には直接どのような影響が及ぶのでしょうか?
既出のDXレポートによれば、3つの影響があると考えられています。
レガシーシステムの維持に対するコストの増大、人的リソースが増えれば、「技術的負債」を背負う形になります。技術的負債とは、目先のシステム開発により長期的な保守費・運用費が高騰することです。
高騰した維持管理費の影響で新たなIT予算が割けなくなれば、結果的に業務基盤の維持、継承が困難になる可能性が高まります。
またレガシーシステムを現状維持するためにコスト・リソースを割くと、ビジネスモデルの変更が困難になります。従来のビジネスモデルのままでは、データを活用したビジネスモデルが当然になる今後の企業間競争にも負けてしまうでしょう。
レガシーシステムの保守・運用には、古いプログラミング言語を知る人材が求められます。しかしIT業界では常に新たな言語、テクノロジーが開発されており、古い言語に対応できる人材が少なくなっていくことが予想されます。
保守・運用人材の確保が難しくなれば、サイバーセキュリティの問題が生じる可能性が高まります。また事故や災害によりシステムのトラブル、データ消滅等のリスクも高くなるでしょう。
2025年の崖問題を乗り越えるには、デジタル技術を駆使し、業務や事業を抜本的に改革する「DX」が不可欠です。
ただし、DXは「業務のデジタル化」をするのが目的ではありません。
この2つを行い、企業間競争における「優位性」を確立することがDXの目的であり、達成すべき目標だといえるでしょう。
企業がDXを推進した場合、以下のようなメリットが得られます。
DXを推進すれば、新たな製品、サービスの提供ができるようになったり、従業員の生産性・業績アップにつながったりといった効果が生まれるでしょう。
また業務効率向上により、社員のワークライフバランスの実現、古いシステム保守運用のコスト削減も期待できます。IT人材がレガシーシステムの保守運用から解放されれば、他の分野で技術を有効活用することも可能です。
このようにDXの推進には、企業活動において直接的なメリットが多数得られます。
特に「業務効率化の実現」は、現場社員としても実感しやすいメリットではないでしょうか。
企業活動がスムーズに回るようになれば、結果として経済損失を生まないことにもつながるでしょう。
企業が行う2025年の崖への対策としては、老朽化が進む「基幹システム・業務システム」のDXからスタートする必要があります。
その後、既存システムの再構築を行いましょう。既存システムの再構築手順としては、以下の4ステップで進めていくと良いでしょう。
①既存ITシステムの見直しと振り分け
②DXの進捗状況を可視化する
→トップダウンによる推進、各部門間で連携・プロジェクト化
③システムの保守管理に必要な人材の確保・育成
→システム部門を中心に、自社でデジタル人材を確保・育成する
(ベンダーとプロフィットシェアが可能なIT人材を確保する)
④アナログな業務領域のデジタル化
→フロントオフィスや、バックオフィス業務(経理・給与・固定資産管理など)へのITツールの導入
「2025年の崖」を解決するためのDX推進の過程では業務の大幅な見直しが必要になり、現場の反発が生じる可能性も高くなります。現場社員の理解を得るには、トップダウンによる推進を行い、目的を理解してもらうことが重要です。
またDX推進においては、システム部門と各部門が連携し、「実際の業務に即したITシステム」を導入することも大切です。現場社員の意見を参考にすることで、より実務に適したITシステムの選定ができるようになります。
経済産業省のDXレポートでは、「DXが実現すれば、2030年には実質GDP130兆円超の押し上げが実現できる」としています。しかしDXの推進・実行には多くの時間と費用が必要になるものです。
2025年の崖で大きな経済損失を生まないためにも、企業全体で早急にDX推進へ取り組み始めましょう。