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給与のデジタル払いとは?解禁の経緯やメリットやデメリットを解説
多くの企業が銀行口座に振り込みしている給与のデジタル払いが解禁されるかもしれません。給与を電子マネーで支払うには法改正が必要ですので、2021年10月現在政府が検討中になります。
国としてデジタル化を進めキャッシュレスの普及率をあげるためにも、労働力不足を解決するための外国人労働者の確保にも、給与のデジタル払いは必要だと考えられます。
デジタル払いの方法としては、すでに普及している電子マネー以外に、ペイロールカードという海外で利用されている給与受け取り専用のプリペイドカードの導入も選択肢のひとつです。
この記事では給与のデジタル払いが推進される経緯やデジタル払いの仕組み、メリットとクリアすべき課題について詳しく解説します。
2021年9月にデジタル庁新設!給与のデジタル払いが解禁か?
2021年9月にデジタル庁が新設されました。デジタル庁はデジタル社会の指令塔として、今後5年でデジタル時代のインフラを作り上げることを目的としています。すべての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現するためにさまざまなことに取り組んでいきます。
国がデジタル化を進めるひとつとして、給与のデジタル払いがデジタル庁の設置前から検討されていました。2019年12月18日に開かれた政府の国家戦略特区の諮問会議でも議論されており、給与を電子マネーで支払うための法改正も検討されています。課題も多いようで、当初解禁を目指していた時期よりも遅れていますが、検討が重ねられ、給与のデジタル払いに向けて進んでいます。
給与をデジタル払いの仕組み
給与のデジタル払いは、資金移動業者のアカウントを通して給与を支払います。実務では社員が持つ○○ペイといった資金移動業者のアカウントに給与を送金することが想定されます。
他の支払い方法として、日本に先駆けて給与のデジタル払いを行っているアメリカではペイロールカードの利用が普及しています。ペイロールカードは給与振り込み用のプリペイドカードで、銀行口座の代わりとなります。
ペイロールカードの仕組みは次のようになっています。
- 企業が従業員にプリペイドカードを発行。当該カードは再チャージが可能。
- 賃金・給与を当該カードに電子的に即時支給。
- ATMでカードから現金引き出しも可能。
- 店舗に端末機器あれば決済可能(Visa、Mastercard等の国際ブランド付帯カードもあり)。
ペイロールカードと銀行口座の違いは下の図のような点です。
口座振込み(現金) | ペイロールカード | |
銀行口座 開設・閉鎖 |
口座開設が必要。 口座開設・閉鎖時は本人確認等諸資料の 提出が必要(事務煩雑)。 |
申し込み後、すぐにプリペイド口座にて取引可能。 解約手続きも容易。 |
---|---|---|
紛失・盗難対策 | 引き出した現金は保証なし。 |
第三者の利用を本人がブロック可能 (PCやスマホから)。 カード再発行可能(直近の残高が戻る)。 |
利用明細 | レシート保管や家計簿などへの転記が必要。 | 発行会社のサイトで、いつでも利用明細確認 が可能。 |
利用の利便性 | 現金利用の際は渡す現金やお釣りを数える必要がある。 先ずATMで現金を引き出す必要がある。 |
現金を数える必要がない。 ATMに行く必要がない。 |
保管 | 財布(かさばる) | カード1枚 |
インターネット 決済 | 代引き手数料または振込手数料がかかる 場合があり。 | クレジットカードと同様に利用可能。 |
口座の開設や利用方法などでペイロールカードの利便性が高いことがわかります。
政府が行っている会議でもペイロールカードについて触れられていますので、今後に注目です。
給与デジタル払いのメリット
給与をデジタル払いすることで得られるメリットを考えてみましょう。
労働者の便益向上
給与をデジタル払いすると、キャッシュレス決済に利用しやすくなります。振り込まれた給与をチャージする手間がなくなり、チャージする際の手数料も軽減できますし、資金移動によるタイムラグも起きません。
また、給与の支払方法が複数あれば社員の選択肢が広がります。労働者からみてメリットのある制度を導入している企業は採用活動でもアピールできます。人材確保の一助となるでしょう。
外国人労働者等の人材確保
外国人労働者が日本で銀行口座を開くのは、言葉が話せても文字が認識できないなどのハードルが高いようです。
そのような場合、口座開設の書類を記入するのが困難な労働者を人事担当者がサポートして銀行口座を開設することが考えられますが、口座開設が難しい外国人に対しての給与は手渡し、という会社もあるようです。
そのため、給与のデジタル払いは外国人労働者にとっては非常にありがたいシステムになり得ます。日本の銀行に口座を開設する必要がないうえ、母国の資金業者を指定すれば、自分で送金する手数料も減らせます。
これは、外国人労働者等にとっては大きなメリットとなり、企業の人材確保に結びつくでしょう。
給与デジタル払いは法的に可能なのか?
給与のデジタル払いは現状の労働基準法では法令違反となります。労働基準法には賃金支払の原則が定められており、給与は通貨で支払うことになっているからです。
銀行振込は通貨で支払っているわけではありませんが、本人の申し出による場合に認められています。この場合は労働基準法の違反ではありません。
デジタル払いは電子マネーで給与を支払うわけですから口座振込と同じ扱いとはいきません。デジタル払いの解禁に向けて法改正も含めた検討がされていますので、情報をウォッチしていきましょう。
企業も注目する給与のデジタル払い
給与デジタル払いについては多くの企業が注目しています。民間企業が調査した大手法人への調査でも、給与のデジタル払いを検討している法人は約26%にもなり、大手企業の4社に1社は導入に前向きな傾向が見られます。
ただし、一律に給与をデジタル払いすると社内の混乱が懸念されることから、61%の企業が希望者のみの対応とする方針のようです。
給与のデジタル払いを導入した場合の課題としては次の4点が考えられます。
- 資金移動業者の破綻時における労働者の資金保全
- 不正アクセスやなりすましのリスクに対するセキュリティ対策
- 賃金支払日にデジタル払いした給与を出金できる体制の構築
- 出金や資金移動時の手数料の整備
企業としても気になる給与のデジタル払いですが、導入しても運用上の課題あり、といった状況です。
しかし、給与のデジタル払いは解禁される可能性が高く、それを望む労働者も一定数います。特に外国人雇用を進めようとする企業にとっては対応が必須でしょう。
給与をデジタル払いするためには、社内の調整も必要です。就業規則や給与規定の改定、給与計算システムの仕様変更、従業員への周知、デジタル払い希望者にも対応できる届出用紙への様式変更など思い浮かぶだけでも確認することは山積みです。これらをデジタル払いが解禁されてから始めていては導入までに時間がかかってしまいます。
また、解禁前に給与計算システムの入れ替えを行う可能性もあるでしょう。その場合は、支払い方法を銀行口座振込とデジタル払いなど選択できるような仕様にするなどの対策も必要です。
デジタル払いを円滑に導入するためには、導入するにあたっての手続や対応を洗い出しておくとよいでしょう。
まとめ
給与のデジタル払いは人事部門の関心が高く、動向をチェックしている会社もあると思います。労働基準法の調整やセキュリティ対策など課題はありますが、諸外国で導入されていることから、課題がクリアできれば可能だと思われます。
会社として導入を決めても、社員の中にはデジタル払いを希望しない者もいるでしょう。デジタル払いすることを強要することはできませんので、当面は、デジタル払いは給与の支払い方法の一つとして選択肢が増えたくらいの感覚の方がよいかもしれません。
給与計算の実務では、社員により給与の支払方法が異なることから、データ管理が煩雑になる可能性もあります。細かな調整が必要になりますから、政府の対応をウォッチしながら、社内調整の準備を進めるとよいのではないでしょうか。
※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。