公開日:2021/04/06
会社を設立するときには会社形態を選択することから始めます。会社形態は重要で設立後の手続きなどもかわってきます。最近では株式会社ではなく、合同会社を設立することも増えているようです。「合同会社」は聞きなれない法人格かもしれませんが、スタートアップ企業にはメリットのある形態です。
この記事では合同会社の概要と設立方法、スタートアップが合同会社を選択するメリットについて詳しく解説します。
合同会社は通称:LLCといい、2006年5月に施行された新会社法で認められた新たな会社形態です。大きな特徴は、社員が有限責任のある出資者であり、意思決定の方法や利益の配分を出資比率によらず決められ、経営の自由度が高いことです。
日本での新会社法施行前より欧米では活用されており、国内でもアマゾンジャパンやアップルジャパンなどの大手外資系企業は合同会社の形態をとっています。
近年は日本でも株式会社の設立よりも合同会社を選択する企業が増えており、東京商工リサーチが実施した調査によると2019年の合同会社の新設は前年より5.5%増え3万424社です。新設法人の総数が13万1,292社ですので23.1%もの企業が「合同会社」という会社形態を選択していることになります。
合同会社の設立数は増えていますが、それでも設立数のトップは株式会社です。東京商工リサーチの調査でも8万8,724社が新設されています。合同会社と株式会社それぞれの特長と違いについて確認しておきましょう。
○経営について
合同会社:出資者が会社を所有して経営する
株式会社:株主が会社を所有し、経営者を株主総会で選出する
○会社の代表
合同会社:代表社員
株式会社:代表取締役
○意思決定
合同会社:社員総会
株式会社:株主総会
○決算公告
合同会社:不要
株式会社:必要(会社法で定められている)
○利益配分
合同会社:出資割合にかかわらず決められる
株式会社:出資割合により配分(持株数に応じた配当金)
このように合同会社と株式会社では大きな違いがあります。
合同会社のメリットについて確認しておきましょう。株式会社と比較した場合の主なメリットは次の6点です。
経営の自由と費用面をおさえられることが大きいですね。
株式会社は株主というステークホルダーがいますので外部からの声も経営に影響してきます。株主総会の決議を経て決められる事項も法律で決められているので、定款にない新しい事業を始めるにも定款変更するために臨時株主総会を招集しなければなりません。そのような状態は時として成長スピードにブレーキをかけることにもなります。
その他にも株式会社では利益配分や役員も株主総会により決められます。会社の業績が好調であっても株主の意向で経営者がかわってしまうこともありえるのです。
それに比べて合同会社は定款変更も社員総会で決められますし、役員に任期がないので現場感覚のある経営者が会社を率いていくことが可能です。
また、株式会社であれば、役員は一定額の給与や役員報酬というリターンですが、合同会社であれば利益配分もその貢献度で定めることができる利点があります。
合同会社の設立はメリットばかりではありません。デメリットもありますので確認しておきましょう。
資金調達は銀行の借入や個人投資家からの投資など限られます。経営の自由を手に入れるかわりに、株式市場で資金を集めることができなくなるのです。設立したばかりの企業が銀行から大きな額を借入することは難しいと思いますので、エンジェル投資家などからの投資が期待できないときは資金繰りが厳しくなることが想定されます。
合同会社という会社形態は株式会社よりも認知度が低いため、個人の信用度という点でも劣ります。なかには代表取締役の肩書が必要な人もいるでしょう。肩書は個人の借入にも影響することがありますので注意が必要です。
意思決定には特段の定めがない限り、原則出資者全員の同意が必要なため方向性が一致しないと話が進みません。株式会社のように過半数の同意など議案によってのラインもないので出資者が増えれば比例して調整が難しくなります。
会社設立をする前にデメリットを確認して会社形態を決定するのがよいでしょう。
スタートアップは成功すると短期間に巨額のリターンを得られますが、市場が未成熟なことが多く、経営にはスピードとタイミングが求められます。不確実な状況下では迅速な意思決定が必要となり、社員が出資者である合同会社は、その経営の自由度の高さからスタートアップに適した会社形態といえます。
社員の意思で事業計画を進められるうえ、有事であっても開拓している市場の状況を知る者で迅速な意思決定できることは大きなメリットです。特にエンドユーザー相手の事業であれば、ユーザーの嗜好の変化は激しくスピード勝負となることもあります。経営が自由で迅速に意思決定できることはスタートアップにとって大きな武器となります。事業をJカーブで急成長させるには、そういった経営環境も時には必要となるのです。
合同会社の設立手続きをご説明しましょう。株式会社とは少々手続きが異なり簡易に設立できます。
設立は(1)~(3)手順で進めます。
それぞれのチェックポイントを確認しましょう。
(1) 定款の作成
定款には必ず定めなければならない項目があります。ひとつでも抜けると定款として無効となりますので注意が必要です。
【必ず定めなければならない項目】
この他にも執行役員を定める場合は定款に記載が必要ですし、意思決定のルールなども定めておけば、後々方向性が一致しない場合の争いを避けることができます。
(2) 出資金の振込み
出資金の振込みには代表社員名の銀行口座が必要です。まずは口座を作成して、その口座に出資者から出資金の振込みをしてもらいます。振込みを確認して「払込証明書」を作成します。
(3) 登記
社名や事業目的などの定款の内容を法務局に登記します。登記は自社で行う場合もあれば司法書士など外部に依頼するなどすることもできます。他者に依頼する場合は委任状が必要です。登記に必要な書類は次のようなものです。
【登記に必要な書類】
会社設立日は法務局への届出日となりますので注意しましょう。
合同会社は経営の自由度が高く、意思決定が迅速で、利益配分を自分たちで決められる会社形態です。急成長するスタートアップにメリットがあるといえます。そのうえ、設立は株式会社よりも簡易な手続きです。
合同会社のメリットを享受したあとに、株式会社に変更することも可能ですので、会社設立時に検討してもよいのではないでしょうか。