更新日:2025/02/04
「働き方改革関連法」により、時間外労働の上限規制が導入されました。2024年からは特例業種にも適用され、基本的にすべての業種で適用されています。時間外労働の上限規制を遵守するには、適正な勤怠管理が不可欠ですが、法律の誤解や運用ミスにより誤った勤怠管理をしている企業があります。本記事では、見落としがちなよくある間違いについて解説します。
労働基準法第36条により、時間外労働の上限は以下のとおり定められています。
月45時間以内
年間360時間以内
月45時間を超えられるのは年6回まで
年間720時間以内
休日労働を含めて単月100時間未満
2~6か月の平均で休日労働を含めて月80時間以内
重要なのは、これらの上限は「最大限の限度」であり、36協定を締結しない限り、企業は法定労働時間を超える時間外労働をさせることはできません。また、自社の上限は36協定で締結した時間であることを認識しておく必要があります。
多くの企業では、所定労働時間を超えた労働をすべて「残業」と呼ぶことがありますが、「残業」=「時間外労働」ではありません。
時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働のことを指します。
例えば、所定労働時間が1日7時間の会社で2時間の残業をした場合、
最初の1時間 → 所定外労働(法定労働時間内の労働)
その後の1時間 → 時間外労働(法定労働時間を超えた労働)
そのため、すべての残業を時間外労働として処理すると、時間外労働時間を誤って多く計上してしまう可能性があります。
労働時間の端数処理については、1か月の合計時間に対してのみ認められています。
1か月の時間外労働の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満は切り捨て、それ以上は1時間に切り上げることが可能です。1日単位での端数処理(四捨五入・切り捨て・切り上げ)出来ません。例えば、18時42分退勤だったにもかかわらず、18時30分退勤として処理することは認められません。
乖離とは、申請された出退勤時刻と実際の打刻時刻の差異を指します。
例えば、申請では19時退勤、実際の打刻は20時の場合、1時間の乖離が発生しています。
労働安全衛生法第66条の8の3により、使用者は労働時間の状況を適正に把握する義務があります。そのため、企業は乖離の有無を管理し、必要に応じてPCログや入退室記録などのデータと照合し、適正に労働時間を把握することが求められます。
振替休日とは、あらかじめ特定の休日と別の日の労働日を入れ替えることを指し、代休とは休日出勤をした後に別日を休日として与えることを指します。よくある間違いとして、振替休日や代休の日における時間外労働や休日労働の計上が正しく行われていないケースが挙げられます。
振替休日を取得した時点では時間外労働は発生しませんが、その結果として週40時間を超える労働が発生した場合、超過分は時間外労働として扱われます。一方、代休は休日出勤をした時点で時間外労働または休日労働として計上する必要がある点に注意しましょう。
残業代は以下の計算式で算出されます。
① 1時間あたりの賃金 × ② 割増率 × ③ 残業時間
1時間あたりの賃金額は、月の所定賃金額 ÷ 月平均所定労働時間数で計算されます。月の所定賃金額から控除できるのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金の7項目のみです。
月平均所定労働時間数は、年間総労働時間数 ÷ 12か月で求められます。控除できない項目を誤って控除したり、月平均所定労働時間数を実態より大きい数字で計算したりすると、残業単価が実際より低くなってしまうため注意が必要です。
時間外労働には25%、休日労働には35%の割増賃金を支払う必要があります。
残業時間の正確な集計が求められます。これまで説明してきた内容に沿って適切に管理しましょう。
企業内の部長や課長といった役職名を持っているだけでは、労働基準法第41条に定める「管理監督者」には該当しません。管理監督者として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
〇 管理監督者の要件
これらの要件を満たしていない場合、管理監督者として扱うことはできず、適切な労働時間管理と残業代の支払いが必要となります。
時間外労働の上限規制を遵守するには、適正な勤怠管理が不可欠です。本記事で解説したように、所定外労働と時間外労働の区別、端数処理の適正な運用、申請と実態の乖離管理、振替休日と代休の違い、正確な残業代計算、管理監督者の適切な判断が重要です。正しい理解と適切な運用を行いましょう。
あかね社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士
京都市出身。同志社大学法学部法律学科卒業。 一般企業の人事部および実父が経営する中小企業の人事部を経て、2009年に29歳でやまなか社会保険労務士事務所を開所。2022年に法人化。中小企業の現場を熟知する社会保険労務士/コンサルタントとして、労務管理のほか、業務効率化を目的とした勤怠システムなどのIT導入支援も多数手がける。
URL:https://akanesr.com/