「収益認識に関する会計基準」の強制適用

2021/09/01 02:10

■PSS会報誌 2021年 秋号(2021.09.01発行)に掲載された記事です。現在の情報とは異なる場合があります■

上場企業などの一部の企業において「収益認識に関する会計基準」(※以下、収益認識基準)の強制適用がスタートしました。国際会計基準であるIFRSの基本的な会計原則を取り入れることを出発点とし、収益認識に関する包括的な会計基準の開発に着手し、2018年3月に公表され、 2020年3月の改正を経て2021年4月1日から強制適用されることとなりました。

1.収益認識基準における基本となる原則

(1)収益認識の5つのステップ

収益認識基準で最も重要なことは、次の5つのステップを理解することです。

・ ステップ1  顧客との契約を識別
・ ステップ2  契約における履行義務を識別
・ ステップ3  取引価額の算定
・ ステップ4  履行義務に取引価格を配分
・ ステップ5  履行義務の充足による収益の認識

5つのステップについて具体的に見ていきましょう。

(2)5ステップの適用例

出典:企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例 一部抜粋


ステップ1
で顧客との契約を識別し、ステップ2で「商品の販売」と「保守サービスの提供」をそれぞれの履行義務と識別し、収益認識の単位が決まります。

ステップ3で取引価格12,000千円と算定されますが、値引き、リベート、返金等取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合は、その変動部分の金額を見積り、その部分を増減して取引価格を算定します。

ステップ4ではステップ2で識別した収益認識の単位ごとに、独立販売価格に基づき、ステップ3で算定した取引価格 12,000 千円を、商品の販売10,000千円、保守サービスの提供2,000千円にそれぞれ配分します。

ステップ5でそれぞれの履行義務の性質に基づき、商品の販売は一時点で履行義務を充足すると判断し、商品の引渡時に収益を認識します。また、保守サービスの提供は一定の期間にわたり履行義務を充足すると判断し、当期及び翌期の2年間にわたり収益を認識します。

その結果、当期に商品の販売に係る10,000千円と、保守サービスの提供に係る1,000千円(=2,000千円×1/2)の合計11,000千円の収益を計上し、翌期に、保守サービスの提供に係る残りの1,000千円の収益を計上することになります。

2.収益認識基準の税務上の取扱い例

(1)割戻しを見込む販売

A社は、B社と商品Zの販売について2年契約を締結しています。この契約における対価には変動性があり、B社が商品Zを1,000個よりも多く購入する場合には、1個当たりの価格を4,000円に、さらに2,000個よりも多く購入する場合には3,000円に減額すると定めています。A社は、B社への2年間の販売数量予測は2,000個になると予想しています。×1年5月に1,000個を販売し、×2年5月に1,000個を追加販売しました。なお、消費税率10%とします。

出典:平成30年5月 国税庁 収益認識基準による場合の取扱いの例 一部抜粋


会計及び法人税では、値引き、割戻し等により対価の変動の可能性がある場合において、次に掲げる要件のすべてを満たすときには、資産の引渡し等があった日の属する事業年度において、会計上収益の額を減額または増額して経理した金額は、当該事業年度の引き渡しの時の価額等の算定に反映することとされています。

値引き等の客観的な算定基準が、契約や取引慣行等により相手方に明らかにされていること又は内部的に決定されていること。

合理的な方法で継続しての値引き等の可能性が見積もられ、その見積もりに基づき変動対価が算定されていること。

③ ①を明らかにする書類及びの算定根拠となる書類が保存されていること。

一方、消費税では、課税標準は収受した販売対価の額であるため、このような変動要因は加味しません。
このように、会計、法人税と消費税の取扱いは異なることに注意する必要があります。

(2)返品権付き販売

A社は、顧客へ1個200円の商品(原価120円)を100個販売し、その返品予想は2個と見込みました。なお、消費税率10%とします。

出典:平成30年5月 国税庁 収益認識基準による場合の取扱いの例 一部抜粋


会計では返品見込み額を返金負債、返品資産として計上するが、法人税では返金負債等の計上は認められていないため、税務申告調整が必要となります。消費税でも返金負債等の計上は認められないため、売上対価の総額が課税売上の対価となり、仕入対価の総額が課税仕入れの対価となります。
このように、会計と法人税、消費税の取扱いは異なることに注意する必要があります。
また、出版業等を営む法人について、経過措置が講じられてはいますが、返品調整引当金制度は廃止されました。

(3)消化仕入

百貨店Aは、B社と消化仕入契約を締結しています。百貨店Aは顧客に1個20,000円の商品(卸値19,000円)を1個販売しました。百貨店Aは、自らを(この消化仕入に係る取引における)代理人に該当すると判断しています。なお、消費税率10%としています。

出典:平成30年5月 国税庁 収益認識基準による場合の取扱いの例 一部抜粋


通常の買取仕入契約では、小売店は店舗への納品時に検収を行ない、そのタイミングで商品の所有権は仕入先から小売店に移転します。一方、消化仕入契約の場合には店舗に納品された商品の所有権は仕入先にあり百貨店には移転しません。顧客への商品販売時に商品の所有権が仕入先から百貨店に移転すると同時に顧客に移転します。百貨店は商品の販売代金を顧客から受取り、販売代金にあらかじめ定められた料率を乗じた金額を仕入先に支払います。顧客はあくまでも百貨店の顧客であり、仕入先の取引先はあくまで百貨店となります。
消化仕入契約の場合、企業が財又はサービスを自ら提供する履行義務である場合には、企業は「本人」に該当し、財又はサービスを他の当事者によって提供されるように手配する履行義務である場合には、企業は「代理人」に該当します。
「本人」に該当する場合には、収益を総額(収益20,000-費用19,000=利益1,000)で表示することになり、「代理人」に該当する場合には、収益を純額(収益1,000-費用0=利益1,000)で表示することになります。
消化仕入は代理人取引に該当しますので、百貨店が顧客に商品を販売した時点であらかじめ決められた料率の手数料収入が純額にて会計に計上されます。法人税においても同様の考え方になります。
消費税では、総額で課税売上と課税仕入が認識される必要がありますので、会計や法人税と不一致となり、管理は難しくなります。

3.おわりに

収益認識に関する会計基準は、5つのステップによって収益を認識します。契約の履行義務を識別し、取引価格を算定・配分し、収益認識時期等を判断していきます。
2018年に公表された比較的新しい会計基準であり、2021年4月1日以後開始事業年度から強制適用がスタートしました。会計と法人税、消費税の取扱いでの認識に違いがあることから、非常に複雑な処理となるものもあります。
自社が新しい会計基準の適用対象企業である場合は、早めの対応が必要です。連結グループでは会計処理の統一が求められることから、連結財務諸表のみならず個別財務諸表単体についても収益認識基準が適用されます。

この記事の執筆者

山下 紗弥香(やました さやか)

辻・本郷税理士法人

出身地 神奈川県。勤務履歴:2008年9月 藤上聖二税理士事務所入社。2016年10月 経営統合により辻・本郷税理士法人入社。中小企業から上場企業まで幅広い顧客層に対し、会計・税務のコンサルティング業務に従事。
【連絡先(URL)】
https://www.ht-tax.or.jp/
https://www.ht-tax.or.jp/youtube/