年1回の定時決定 知識と準備に最新情報を

2023/06/12 10:00

定時決定(算定基礎届)とは、健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額(社会保険料の算定基礎となる額)が、実際に受けている報酬(賃金)と大きくかけ離れないように、毎年1回、各被保険者の標準報酬月額を見直して届出を行うものです。(健保法第41条、厚年法第21条)

今年も算定基礎届の提出の時期が近づいてきました(提出期限は7月10日)。毎年4月~6月に実際に支給した3か月分の報酬月額の平均額を算出して届出し、その後、後述する月額変更届に該当しない限り、当年9月~翌年8月までの1年間の社会保険料額が決定する大切な手続きとなります。

適切な処理を行うために基礎知識と概要について解説をしていきます。

算定基礎届の対象となる報酬

標準報酬月額とは、毎月の社会保険料を算定するための基礎となるものです。標準報酬月額に算入される報酬は、その支給名称に関わらず、労働の対価として受けるものをいい、金銭(通貨)に限らず、現物で支給されるものも報酬に含まれます。
なお、標準報酬月額の対象となる報酬と対象とならない報酬があるので、しっかりと理解しておきましょう。

昨今の社会情勢より在宅勤務などテレワーク導入も珍しくなくなりました。その際に支払われる交通費等の取り扱いも正しく理解し集計するようにしてください。

算定基礎届作成までの流れ

算定基礎届の対象者は、原則として、その年の7月1日現在、社会保険の被保険者であるすべての従業員になります。休職中であっても算定基礎届の提出は必要となります。また、70歳以上被用者に該当している場合でも必ず提出が必要になりますので注意しましょう。
ただし、以下に該当する場合は算定基礎届を提出する必要はありません。

  1. 6月1日以降に資格取得した従業員
  2. 7月に月額変更届を提出する従業員

 

算定基礎届をどのように作成していくか確認していきます

まずは、対象となる被保険者の報酬月額を計算します。
4月~6月に支払った報酬のうち「報酬に含むもの・含まないもの」をしっかりと区別して対象となる報酬を集計してください。

次に各月の支払基礎日数を確認することになりますが、これは、勤務日数が少ない月を含めて計算すると適切な平均額とならないため、対象となる月は支払基礎日数が17日以上ある月となっています。正社員などの月給者は、原則として賃金支払い対象期間の歴日数(31日等)となりますが、欠勤がある場合であって、欠勤日数分だけ賃金が控除されているような場合、賃金規定等で定めた所定労働日数から欠勤日数を差し引いた日数が支払基礎日数となります。

パートタイマー等の短時間労働者については、出勤日数がそのまま支払基礎日数となることと、有給休暇取得分も含める必要がありますので注意してください。
ただし、次のようなイレギュラーケースは、取扱いが異なりますので、主な内容を確認していきましょう。

■ 給与支払対象期間の途中で入社した場合で、入社月の給与が満額支給されなかった場合は、支払基礎日数が17日以上あってもその月は除いて算出を行います。

■ 4月~6月の賃金の一部が遅配になり、7月以降に支払われた場合は、遅配となった月を除いた残りの月の報酬の合計額を平均した額を算出します。

パートタイム労働者である被保険者の算定基礎届については、4月~6月の支払基礎日数に17日以上の月がある場合はその月の報酬で算定を行い、3か月とも17日未満の場合には、15日以上の月の報酬を対象とします。
パートタイム労働者とは、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の労働者の3/4以上(3/4基準)である労働者を指します。

この他、3/4基準を満たしていない場合であっても、特定適用事業所等(被保険者数101人以上等)において週20時間以上勤務し、2か月を超える雇用見込みがある場合で、月額賃金8.8万円以上の短時間労働者(学生除く)は被保険者となり、短時間労働者で被保険者となった場合の支払基礎日数は、11日以上である月が算定の対象なりますので注意しましょう。

算定基礎届作成時の注意すべきポイント

業務の性質上、4月~6月が繁忙期にあたり、残業手当が多く支給されること等から標準報酬月額が高くなってしまう場合であって、前年7月~当年6月までの1年間の報酬の月平均額(支払基礎日数17日未満除く)によって算出した標準報酬月額の間に2等級以上の差があり、この差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる場合は、会社の申し立てにより、過去1年間の月平均報酬月額を使用して標準報酬月額を算定することができます。
この場合、従業員の同意も必要となります。

随時改定(月額変更届)の提出漏れに注意!

毎年届出る算定基礎届以外にも、昇降給などにより報酬に大幅な変更があったとき、実際に受ける報酬と標準報酬月額との間に乖離が生じないように、報酬月額の変更を行う必要があります。(健保法第43条、厚年法第23条)これを随時改定(月額変更届)と言いますが、要件は次の1.から3.のいずれにも該当する場合となります。

  1. 固定的賃金に変動が生じた(昇降給や各種固定手当額の改定)
  2. 変動した報酬が支給された月から継続3か月の支払基礎日数が原則17日以上(特定適用事業所又は任意特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)
  3. 従前の標準報酬月額と比較して原則2等級以上の差が生じた(ただし、1.の固定的賃金が増加の場合は増加方向に、減少の場合は減少方向に2等級以上の差が生じた場合に限ります)

算定基礎届は、毎年4月~6月の平均報酬をもとに9月の保険料から標準報酬月額が改定となりますが、この月額変更届は、随時、例えば、4月に固定的賃金の変動があった場合は、4月~6月の平均報酬をもとに届出をし、7月(固定的賃金の変動から4か月目)の改定となります。
4月に固定的賃金の変動があり、月額変更届の対象となる被保険者は、月額変更届(7月の改定)が優先され、前述の通り算定基礎届の提出は不要となります。

なお、算定基礎届を提出した後に、5月又は6月に固定的賃金の変動があった場合は、その都度、月額変更届を提出することにより、算定基礎届で提出済みの標準報酬月額ではなく、月額変更届の標準報酬月額が優先され適用されます。

今年は特に注意が必要な月額変更届

通勤手当として、交通機関の定期券代の実費相当を固定的に支給している会社も多いのではないでしょうか。通勤手当を毎月同額で支給している場合、通勤手当は「固定的賃金」とみなされます。2023年3月18日鉄道各線の基本運賃が値上がり、オフピーク定期券も販売が開始されました。公共交通機関の基本運賃の値上がりがあれば、固定的賃金が変動することになり、月額変更届提出の可能性がでてくることはイメージがつくと思います。都度、月額変更届に該当するかどうかのチェックを漏らさないようにしましょう。

また、同年4月1日から中小企業では月60時間超の残業に対する割増賃金率が50%(代替休暇取得した場合を除く)となりました。
この場合においては“非固定手当の新設”と考えがちですが、割増率(単価)の変更は賃金体系の変更に当たり、月額変更届の提出が必要となる可能性があるので注意しましょう。

各種手当の増額改定と減額改定とが同時に発生した場合は、その合計額が増額するのか減額するのかを確認し、適宜、増減による改定の判断をすることになります。通勤手当や残業割増率の変更等があり、4月~6月の平均報酬を算定した結果、2等級以上の変動が生じているにも関わらず、誤って算定基礎届での手続きを行わないよう注意し、算定基礎届及び月額変更届の適切な手続きを心がけましょう。

 


高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者

白井 修平(しらい よしひら)

社会保険労務士白井事務所 代表
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

2009年 社会保険労務士白井事務所 開業
労働社会保険諸法令に関わる手続きや給与計算を中心に労務コンサルティングを行う。近年頻発している労務トラブルや働き方改革にも力を入れている。自身もワークライフバランス(極真空手参段)を実践し「文武両道社労士」として活動している。
【事務所HP】http://www.shirai-sr.jp

この記事の監修者

小谷 富士子(こたに ふじこ)

小谷社労士事務所 所長
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

この数年で働き方改革や業務のDX化は一気に加速しました。開業して24年目になりますが、常に最新の情報をキャッチし、変化に柔軟に対応していきたいと考えています。プライベートでは多言語の活動グループに参加し、いろいろな言葉に触れながら、多世代・多国籍の方たちとの交流を楽しんでいます。
共著「人事・労務ビジネスフォーム全書」「労働・社会保険の書式・手続 完全マニュアル」(日本法令)
【事務所HP】https://www.office-kotani.jp/