業績アップ&人材育成を実現する中小企業の人事評価制度

2022/09/01 02:10

■PSS会報誌 2022年 秋号(2022.09.01発行)に掲載された記事です。現在の情報とは異なる場合があります■

昨今、中小企業において人事評価制度を構築したいというご要望が増えています。背景には、採用難という現状があります。人手不足から来る採用難を乗り切るためには、今いる人材に成長してもらうことが必要です。一方、社員にとっても何をどう頑張れば会社から評価してもらえるのかが分からないと先行きに不安を感じ、モチベ―ションも上がらず離職につながりやすくなります。人事評価制度の構築というと中小企業には難しいというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、業績アップ、さらに人も育つような制度であれば、これほど組織にとって心強い武器はありません。これから説明する制度構築における手順を参考にイメージをつかんでいただき、評価制度の重要性を理解して頂けたら幸いです。またコロナをきっかけにテレワークが増えていますが、人事評価制度の運用において気を付けるべき点についても触れたいと思います。

1.制度構築

本稿では人事評価制度について述べていますが、一般的には賃金制度もあわせて構築し、人事評価と連動させることが多いと思います。会社の規模にもよりますが、制度構築にかかる時間として少なくとも3ヶ月から半年はみておいた方が良いです。それでは制度構築の手順を見ていきたいと思います。

(1)会社の目指す方向性を考える

どの会社にも経営理念があり、ビジョンや事業戦略があると思います。まずはここを検討します。5年後の会社の姿、どうやって利益を上げるのか、既存事業の強化なのか新規事業を立ち上げるのか等、なるべく具体的に描きます。また評価制度を導入する目的も明確にできると良いです。

(2)求める人材の明確化

(1)のビジョンを達成するためにはどのような人材が必要なのか、求める社員像を検討します。その際、一律の社員像とすることは不可能ですので、あらかじめいくつかの段階に分けておく必要があります。すでに等級(グレード等)があればそのまま使ってもいいですし、これを機に組織改革も進めたいということであれば、等級を刷新する機会になります。ただし、等級は多すぎても少なすぎてもいけません。多すぎると等級の差が分かりにくくなりますし、少なすぎると次の段階へ上がるのが何年も先のことになりかえってモチベーションを下げることになりかねないからです。中小企業の場合、5から8等級が適切です。求める人材が等級ごとに明確になったらそれを一覧表にまとめます。表2では、求める人材を具体的に期待される役割として定義づけています。

(3)何を評価するのか

(2)で定義した役割を果たしているかどうかを評価するために、期待される役割からブレークダウンして評価項目に落とし込んでいきます。例えば表3の期待役割が「人材育成:次世代の幹部人材を育成する」の場合、社員のどこに着目するのか(評価項目)を考えます。そして具体的にどういう行動をとれば役割を果たすのか(求められる行動)を考えます。

また期待役割が同じ「業務遂行」でも、等級によって評価項目を変えることもあります。
例えば表4は管理職レベルの業務遂行の評価項目ですが、表5は管理職一歩手前の係長クラスの評価項目です。

表4と表5を比較すると、係長レベルでは確実な仕事を求められていますが、管理職レベルでは先を見通すこと、緊急時の対応、業務改善まで求められていることがわかります。
以上のように、評価項目は、それぞれの等級ごとに会社が期待する役割から選定していきます。人事評価では、できるだけ多面的な評価を行い評価の穴を作らないことが大切です。役割から導き出された評価項目を再確認し、抜けている視点があれば、それを追加します。注意する点は、類似の項目に偏っていないか、各等級に見合った項目か、各等級でバランスがとれているかなどです。そして、最終的には会社の目指す方向性と整合性が取れているかを確認します。

(4)評価シートの作成

評価項目が決まったら評価シートを作成します(表6)。各項目ごとのウェイトを設定し(ウェイトの合計は100点になるようにします)、評価者が付けた点を掛けて各項目の得点とします。得点の合計を100で割った数字が評価結果の得点となります。さらに得点をS~Dの5段階評価に置き換えてそれを最終結果とします(表7)。なお、この最終結果が昇給や昇格と紐づくことになります。

(5)目標管理制度

業績の目標管理については、目標設定が難しい、高い運用能力も求められるといったことから行わない会社も多いかもしれませんが、「会社の今期目標を達成するために個人が何をすれば良いか」ということを考えることは大切です。人事評価制度の目的が企業の業績向上である以上、たとえ導入時はうまくいかなかったとしても、回数を重ねるごとに慣れるので、私はやるべきと考えます。個人別の目標は上司と部下が話し合って、レベルや会社の目標と同じベクトルかを確認して設定する方法が良いです。そして目標は本人の120%の努力で達成できる水準が望ましいです。100%だとできて当たり前、150%になると倒れる寸前までのパフォーマンスを求めることになってしまうので注意しましょう。一度設定した目標は、原則変えないことが望ましいですが、状況等の変化に応じて、一定の条件下では変更も有りという運用も考えられます。(4)の評価シートに個人目標の評価項目を入れて一体化すると運用もしやすいと思います。

2.運用

(1)評価期間

評価期間は6ヶ月ごとが望ましいです。ただし、期初に目標設定した後、期中は放置して、期末の評価の時期がきて、慌てて評価するのでは、納得性の高い評価はできません。半年に1回、部下の行動を思い出しながら評価することにより、直前の行動のみに評価査定が偏る「期末誤差」というエラーが生じやすくなります。日頃の観察や面談を行ったりして、メモにまとめておくと評価の時に慌てません。できれば週次での進捗管理が望ましいですが、それが難しくても月次で1on1ミーティングを設定するなど、部下とのコミュニケーションは意識して取る必要があります。

(2)評価者研修

人事評価制度をスムーズに運用するために評価者研修は重要です。評価者研修ではどうすれば納得性・公平性のある評価ができるのか、基本的な考え方や手法を学び、評価者の目線合わせを行います。評価者は適切な目標設定力、円滑なコミュニケーションの前提となる傾聴力、部下の力を引き出すコーチング力など多くのスキルが求められます。またスキルだけではなく、評価制度の意義や目的なども伝えることによって、業績アップや人材育成のためにどのように生かしていくのかを意識してもらいます。人事評価制度を絵にかいた餅に終わらせないためにも、時間の経過とともにブラッシュアップし定期的に研修を行うことをお勧めします。

3.テレワークにおける人事評価制度

コロナ後もテレワークを続ける企業は多いと思います。テレワークにおいて人事評価を行う際、気を付けるべきポイントを 3 点にまとめました。

(1)目標を明確化

いつでもコミュニケーションを取り合える距離にいるオフィス勤務とは異なり、テレワークの場合、何をいつまでにやればいいのか明確にし、上司と部下で共有する重要性が一層高まります。目標管理制度を活用してもいいでしょう。また目標達成のための業務プロセスを可視化しておきます。そうすれば、部下の進捗確認もしやすくなりますし、どこで躓いているのかも把握しやすくなります。

(2)コミュニケーションを密にする

出社していれば上司は部下の働きぶりを見ることができますが、テレワークだと上司は「ちゃんと仕事は進めているのか、さぼっていないか」といった不安、部下は「このやり方でいいのか、ちゃんと頑張りを見てくれているのか」といった不安を抱えています。これを解消するには、コミュニケーションを密に取り、進捗確認を行う必要があります。ある程度の頻度で1on1をやる、困ったときはすぐに連絡を取り合う、などルール化しコミュニケーションのハードルを下げておきましょう。

(3)評価項目、評価基準の統一化

テレワークを導入して間もない時期は、評価者によって評価にバラツキがでてしまうことがあります。特に成果とプロセスの評価のバランスが統一されていないと不公平感が生まれてしまいますので、評価項目と評価基準を統一し、それを部下にも周知しておきましょう。

4.まとめ

ここまで、主に人事評価制度構築の手順について見てきました。人事評価制度が形骸化するか否かは運用を開始してからが本番です。時間が取れないといった声も聞かれますが、人事評価制度は大切な業務のひとつであるという認識を企業幹部から評価者である管理職までが持つことが非常に重要です。評価制度は納得性と公平性が大事ですが、すべての社員が納得し公平と感じることができる制度の実現は難しいかもしれません。しかし、数年先を見据え、改善を重ね制度の運用を続けていくことは企業独自の風土や文化を形成していくことでもあります。評価制度は法律ではないので、いろいろな方法がありますが、ここで説明した内容を参考にして、ぜひ、業績アップと人材育成を実現する御社にマッチした人事評価制度構築に取り組んでみてください。


高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者

佐藤 美穂子(さとう みほこ)

さとう労務オフィス 代表
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

埼玉県出身。大学卒業後、航空会社に勤務。育児に専念するため退職。専業主婦を経て会計事務所で働き始め、社労士の資格を取得。2018年開業。「人」にまつわるあらゆる事をサポートし、「人」がその能力を最大限発揮できる職場環境づくりを経営者とともに目指している。
【事務所 HP】https://sato-roumu.com/

この記事の監修者

土屋 雅子(つちや まさこ)

千代田区の共永総合法律グループ内、土屋労務管理事務所代表
特定社会保険労務士 1級FP技能士
社労士「高志会」のメンバー

関与する企業の規模や業種は多種多様で、会社それぞれに合わせた幅広いサービスを行ない、適切かつ丁寧な対応を心がけている。現在、人事制度構築士として、中小企業を対象とした人事評価制度導入に注力。
【事務所 HP】http://www.masako-sr.com/