仕事と育児の両立をもっと容易に!

2022/03/18 02:00

■PSS会報誌 2022年 春号(2022.03.18発行)に掲載された記事です。現在の情報とは異なる場合があります■

~育児・介護休業法改正と実務対応のポイント~

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(平成29年推計)によると40年後の日本の総人口は約4000万人減少するだろうとされています。40年後には総人口のうち約半数となる生産年齢人口(15歳~64歳)で日本経済を回していかなければならない厳しい時代がやってきます。こうした人口減少、少子高齢化が止まらない状況下、仕事と育児等の両立を容易にすることを目的として新しい育児休業制度が令和4年4月1日以降、三段階に分けて施行されることになりました。
ここでは、5つの改正点について施行時期ごとに時系列で説明します。

■令和4年4月1日施行

本年4月1日の改正では、従業員への「個別周知と意向確認」、「有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件」の2つが変わります。

1.雇用環境の整備 個別周知と意向確認の義務化

(1)育児休業を取得し易い雇用環境の整備
育児休業と今回新たに創設された「産後パパ育休」の申し出が円滑に行われるよう事業主は以下のうちいずれかの措置を講じなければなりません。
なお、「産後パパ育休」については、令和4年10月1日施行で説明します。

①育児休業・産後パパ育休に関する【研修の実施】
②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等【相談窓口の設置】
③自社従業員の育児休業・産後パパ育休【取得実例の収集・情報提供】
④自社従業員への育児休業・産後パパ育休【制度と取得促進に関する方針の周知】

(2)妊娠・出産の申し出をした従業員(本人又は配偶者)に対する個別周知と意向確認措置
事業主は以下の事項に関する周知と従業員の休業の取得意向は個別に行わなければなりません。当然のことながら、取得を抑制させるような運用は許されません。

(周知事項)
①育児休業・産後パパ育休に関する制度
②育児休業・産後パパ育休の申し出先
③育児休業給付に関すること
④従業員が育児休業・産後パパ育休期間に負担すべき社会保険料の取扱い

(個別周知・意向確認の方法)
①面談  ②書面交付  ③ FAX  ④電子メール  等のいずれか

このように4月以降、会社はこれまで以上に、積極的に従業員へ制度をPRすることが求められます。なお、上記の雇用環境の整備、個別周知と意向確認のうち「産後パパ育休」に関しては令和4年10月1日以降から対象となります。

2.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

現行の育児休業においては、①引き続き雇用された期間が1年以上、②1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでないことが取得要件でした。これが 4月以降は①の要件が撤廃され、②のみでOKとなり、対象者が広がります。
但し、例外として「引き続き雇用された期間が1年未満の労働者」については労使協定により除外することが可能です。この点は介護休業も同様で、従来の要件であった、①「引き 続き雇用された期間が1年以上であること」は撤廃され、②「休業取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと」のみが取得要件となります。
この改正により、近年増加傾向にある非正規従業員の休業取得率上昇が予想されるため、採用計画や人員配置の見直しが必要になる場合もあるかもしれません。

■令和4年10月1日施行

10月からは、一連の改正の中でも最も大きな改正である「産後パパ育休」と「育児休業の分割取得」が施行されます。

3.産後パパ育休(配偶者による出生時育児休業)の創設

4.育児休業の分割取得

産後パパ育休とは、男性の育児休業取得を促進するために、子の出生後8週間以内の期間に4週間(28日)まで育休を取得できる制度です。例えば出産直後に育休を取得し、いったん復職するものの、8週間以内であれば、もう一度育休を取得することができます。
育児休業の分割取得は、従来の育児休業を2回まで分割して取得できるようになりました。なお、今回創設された「産後パパ育休」は「育児休業」とは別に取得可能ですから、両方取得することも可能です。

出典:リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」(厚生労働省) (https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf)より加工して作成


なお、「産後パパ育休」期間においては、労使協定を締結している場合に限り、従業員との個別合意により休業期間中であっても就業することが可能です。
休業中に就業をする場合の具体的な手続きの流れは以下①~④の通りです。

①従業員が就業を希望する場合には、事業主へ希望条件を申出

②事業主は従業員が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示(候補日が無い場合にはその旨を明示)

③従業員が同意

④事業主が通知

なお就業可能日等については、以下のとおり上限がありますので、ご留意ください。
・休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
・休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満

例)所定労働時間が1日8時間、週所定労働日数5日、休業期間2週間の場合。
→ 休業期間中の所定労働日数は10日間、休業期間中の所定労働時間80時間なので、
→ 就業日数の上限:5日間  就業期間の上限:40時間
→ 休業開始・終了予定日の就業は8時間未満となります。

■新設「産後パパ育休」でどう変わる?

育児休業を例に令和4年10月1日以降の具体的なイメージをしてみましょう。
現行法では出生後8週間以内に育児休業を取得した場合には休業の再取得が可能です(パパ育休)が、3回目の取得はできません。これが令和4年10月1日以降は、今回新たに創設された「産後パパ育休」により、出生後8週間までの間に休業を2回まで分割して取得することが可能になります。
例えば、パートナーの出産時や退院時に1回目を取得し、その後、出生後8週間以内に2回目の取得が可能です。更に、この度拡充された「育児休業」では分割して2回まで取得が可能となることから、パートナー同士で育休を交代できる回数が増え、一方が職場復帰するタイミングで、他方が育休に入ることも可能となります。
また、1歳以降の子が保育所等に入所できない等の特別な事情がある場合で、育休を1歳6か月または2歳まで延長する場合も、休業開始日を柔軟に設定することで、パートナーと交代で育休を取得することができます。
このように改正後は産後パパ育休の新設などで、より柔軟な育休取得が可能となりますので、今後は男性の育児休業取得の促進が見込まれるでしょう。

■令和5年4月1日施行

令和5年4月1日からは育児休業取得状況の公表が義務化されます。

5.育児休業取得状況の公表の義務化

従業員数1,000人超の会社では、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられます。公表内容は今後、厚生労働省令で定められますが、「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」などの予定です。

■育児休業等を理由とした不利益取り扱いの禁止・ハラスメント防止

従来から、男女雇用機会均等法や育児介護休業法により妊娠、出産、育児休業を理由に不利益な取り扱い(いわゆるマタニティハラスメント)は禁止されていますが、今回の改正により創設された「産後パパ育休」についても不利益な取り扱いは禁止されます。
育児休業等の申し出・取得を理由に、事業主が解雇や退職を強要したり、正社員から非正規へ契約を変更する等の不利益な取り扱いは当然のことながら禁止されています。今回の改正では、妊娠・出産の申し出をしたこと、産後パパ育休の申し出・取得、産後パパ育休期間中の就業の申し出または同意しなかったこと等を理由とする不利益な取り扱いも禁止されます。
また、事業主には、職場の上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講ずることも義務づけられています。

■法改正を社内へ如何に浸透させるか

このように一定程度の法整備は進みましたが、これをいかに自社内に浸透させ実行性のある制度として運用をしていくか、ということが最も重要です。
社内周知の方法としては社内掲示板や社内報等の活用が思い浮かびますが、しっかりと読む方や全く読まない方など様々なケースが想定されるため、一方的な通知だけでは不十分でしょう。こうした個人差を解消するには、やはり社内説明会・研修等の実施が効果的ではないでしょうか。
今どきは、育児休業は女性のためだけの制度ではなく、男性のための制度でもあります。単なる制度説明に止まらず、実際に育児休業取得の申し出があった場合に管理職や同僚はどのように対応すべきか、他方、休業を取得する方も休業中に自己の担当業務を同僚等に気持ちよく分担してもらうためには事前にどのような段取りをするべきか等、研修ではロールプレイング等を織り交ぜつつディスカッションされてはいかがでしょうか。マタハラ・パタハラを発生させないためには、休業者の業務  を代わりに担当する同僚が納得感を持つことができる社内制度
を構築することも必要かもしれません。
産休・育休中は取得者本人が会社を不在にしているにも関わらず各種手続きが必要です。社会保険等の給付や手続きのタイミング等を解説したハンドブックを社内で作成して、対象者に配布することも考えられます。
法改正をきっかけに、今後の少子高齢化社会を乗り越えていくためには会社がイニシアチブを取り、休業者とこれを支える同僚が共に、何が必要とされ、そのために自分は何ができるのかを見つめ直す機会となるとよいでしょう。

■誰もがもっと働き易い職場環境に

今回の主な改正は、仕事と育児の両立を従来よりも容易にすることを目指すものでした。他方介護については、介護休業の取得要件の一部緩和でした。具体的には本年4月1日以降の申出については「入社1年以上であること」の要件が廃止され、原則として「取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない」場合は取得することができます。
現在日本における介護に要する平均期間は、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査平成30年度」によれば4年7か月。現行の介護休業では全く足りないのが実情です。今後は仕事と介護の両立も更に容易にするための更なる法の拡充を期待したいところです。
40年後、日本の総人口の約半数で日本経済を回していかなければならなくなる時代に向けて、日本の現状を正しく認識し、単に次の法改正を待つばかりではなく、従業員各人の事情に寄り添った社内制度設計、制度運用を拡充していけたならば、日本の労働生産性は更に飛躍するのではないでしょうか。
今回の改正法では男性も育児休業を取得しやすくなり、働きながらも休業することができるなど柔軟な制度となった反面、管理が非常に煩雑となりそうです。制度をスムーズに運用するために、各行政機関や社会保険労務士など専門家にご相談ください。


高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者

橋場 たまき(はしば たまき)

アネトス社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

「法律だけでは解決しきれない人の問題について知識を知恵に代えて伴走する」為に開業。現在セクハラ・パワハラ事案を中心に対応。公益財団法人21世紀職業財団 ハラスメント防止コンサルタント(2010年第2回試験合格)。同財団客員講師。厚生労働省法定講習(派遣元責任者講習)講師。一般社団法人日本経営協会 講師。東京都社会保険労務士会 総合労働相談所 運営委員。全国社会保険労務士会連合会 職場のトラブル相談ダイヤル 相談員。
【事務所 HP】https://anetos.net/

この記事の監修者

酒井 典子(さかい のりこ)

社会保険労務士法人 EE パートナーズ
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

平成9年開業。平成15年に東京都千代田区において社会保険労務士法人 EE パートナーズを設立。代表社員。EE パートナーズでは複数の社労士が在籍していることを強みに、業種・規模を問わず様々なお客様から、日々多くの労務相談を受け、状況に応じた最適なアドバイスを行っている。
【事務所 HP】https://www.eep.co.jp