今さら聞けない旬ワード「MECE(ミーシー)」

2024/03/05 10:00

新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。企業戦略やマーケティングを考える際に使われる機会が増えてきた、「MECE(ミーシー)」について解説します。

【問い】頑張っているのに成果が出ない理由を考えなさい

【ヒント】そこにはどんなお客様がいますか?

取り組むべき課題を正確に把握する前提となる概念

ビジネス用語の中には、コンサルティング業界が発祥の新語が少なくありません。大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーの女性アナリストが開発した概念といわれるMECE(ミーシー)も、そんな言葉のひとつです。

「Mutually(お互いに)」「Exclusive(重複せず)」「Collectivery(全体に)」「Exhaustive(漏れなく)」の頭文字で、対象全体を漏れなく、かつダブりなく分類することを言います。「今回のプロジェクトの対象となるお客様をMECEに抽出しよう」といった具合に使います。

たとえば日本人を年齢で分類すれば、必ず全員を、かつ重複することなく網羅できます。すなわちMECEな状態です。では、同じ日本人を出身都道府県で分類したらどうでしょうか。一見よさそうですが、元横綱の白鳳関のような、外国生まれの帰化日本人は漏れてしまいます。日本人の両親が海外に居住しているときに生まれた人も分類から漏れるし、そもそも「日本人」という前提条件で、外国籍のまま日本に永住している人を分類から漏らしてもいいのかどうか、検討する必要もあるでしょう。

ならば職業別なら?無職、自営業、会社員、学生、アルバイト……。あれ?学生のアルバイトはたくさんいますね。最近は会社員でも休日には副業で自営する人も増えています。つまりダブってしまっているわけです。

このように漏れやダブりのある状態でそこにある商機や課題を考えても、すでに供給過剰な市場に参入する無駄や、ニーズのない商品を開発する空振りのリスクが出てしまいます。逆に市場をよく分析して、他社がまだカバーできていない、つまりMECEではなかったターゲットを抽出できれば、競合相手のいない、独自の商品が開発できるかもしれません。

論理的思考で効率的に対象に取り組もう

かつての日本では、そうした論理的な思考を軽んじる、「理屈を言う前に体を動かせ」的な体育会系の根性論がビジネスシーンにまかり通った時代がありました。しかし、社会経済が高度に成熟し、激しい競争の中で生産性や効率が求められる現代では、無駄や無理を排し、論理的な思考とアプローチで対象を分析し、求められる課題やニーズに的確な解を迅速に提供するという姿勢が求められています。

そのためのツールのひとつとなるMECEのビジネスへの活用に関しては、多くのコンサルタントや研究機関からさまざまな手法が提案されています。

物事の全体像をまず捉えたうえで、それを構成する要素を目的に合わせて分類していく「演繹的」アプローチと、細かな要素をまず洗いだして、グループ化することで全体像を見出す「帰納的」アプローチがその代表です。

ただし、そうしたコンサルタント的知識をあまり勉強しすぎて、MECEな分類自体が目的になってしまっては本末転倒です。日常的かつ現実的な考え方としては、自身が今取り組んでいる課題は、対象をMECEに、つまり漏れなくダブりなく捉えているかをつねに意識するところから始まるのでしょう。

昔から知られるブレーンストーミングなども組み合わせて、多くの人の知見やアイデアを活用して対象を正しく見て、論理的に考える。そのプロセスのひとつとして、MECEは意識されればいいのではないでしょうか。

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。