今さら聞けない旬ワード「VUCA(ブーカ)」

2023/09/01 10:00

新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。「変化が激しく、予測不可能なことが連続して起こる状態」を指すビジネス用語「VUCA」について解説します。

【問い】VUCAの時代を生き抜く技術を答えなさい

【ヒント】それは楽しいですか?

世界が激動する時代を言い表す略語

新語はさまざまな分野から生まれてきます。この10年あまりで、ビジネス用語として目にする機会が増えてきたVUCAという言葉のルーツは、軍事方面。最初に使われたのは、1987年のアメリカ陸軍戦略大学のカリキュラム開発資料とされています。

その由来は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。「変化が激しく、予測不可能なことが連続して起こる状態」を指します

最初は学問的な視点から生まれたわけですが、1990年代に冷戦が終結し、ソビエト連邦崩壊などの激動の時代を迎えて、国際情勢を理解するための軍事用語として定着。2010年代になるとビジネス用語としても使われるようになりました。今では、世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議でも頻出する単語になっています。

ちなみに日本では、経済産業省が2019年に発表した企業競争力強化に関する提言案の中で使われたことが、注目を集めるきっかけといわれます。

VUCAという言葉は知らなくても、世界の変化がどんどん加速していることは、実感している人が多いでしょう。たとえばインターネットに代表されるIT技術の進化は、人々の暮らしを大きく変え続けています。

昔は書籍や新聞、雑誌で最新情報を収集し、一枚でも多くの名刺を交換してチャンスを掴み、さまざまな企業や役所を汗だくで駆けずり回ってようやく終えていたような仕事でも、今では自席のPCの前や、ことによると散歩しながら手にしたスマートフォンで済ませられることも増えました。

消費者の行動も変わり、スマートフォンから通販のサイトにアクセスすれば、どこに住んでいても最新の製品が指先ひとつで買えます。みんなと同じ流行モノを安く手に入れるのはもちろん、他人が持っていない希少なモノも簡単に見つかります。

リアルワールドの人的交流も活発になった結果、常識のような安定的な概念も、揺れ動いています。日本の地方の街でもさまざまな国籍の外国人が普通に働き、観光を楽しみ、公衆浴場の入り方といった日本人の暗黙の了解事項も、各国語で掲示される時代になりました。

ダイバーシティの進展とともに、ジェンダーレスタレントの方がテレビで活躍し、起業やベンチャービジネスが身近になったことで、Tシャツにジーンズ姿の若き社長が、一流ホテルのドアマンを困惑させたりもします。

大地震や集中豪雨などの予期せぬ災害が増え、異常気象や凶作に苦しむ人々が世界にあふれる一方で、先進国では少子高齢化が進んで労働力不足や福祉の負担増がのしかかります。

VUCAという言葉は、そんな時代の様相をじつに的確に表現しているというわけです。

変化の中で変わらぬ自分を愛そう

では、私たちはVUCAの時代にどのように対応すればいいのでしょうか。おそらくそこに、正解はありません。世の中のすべてが激しく変化し、どこで何が起こるか分からない中では、正解を用意すること自体がリスクになりかねません。

ところが、日本人は特にそうした状況が苦手な傾向にあります。高度経済成長からバブル時代のころまで、日本は安定した組織や教育や常識の元に、昨日の延長の明日を地道に積み重ねて繁栄を築きました。けれどVUCAの時代には、つねに明日は今日とはまったく違う日であることを意識しながら、あらゆる可能性に備え、チャンスの前髪をいち早く掴んだ者が勝者になるのです。

そんな混迷の時代を反映して、新しい組織論や人材論が盛んに語られ、最先端のマネジメントやマーケティングのもっともらしい方法論を載せた書籍やウェブサイトも、数多く見かけるようになりました。

曰く、新しいテクノロジーやツールを使いこなせ。曰く、自分の頭で周囲を見て、考えて、行動せよ。曰く、変化を恐れず、柔軟な発想と行動力で物事に立ち向かえ。曰く、世界のどこでも、誰とでもコミュニケーションできるようになれ。

すべて実践すれば、映画「ミッション・インポッシブル」の主人公、イーサン・ハントみたいなスーパーヒーローになれそうですが、よくよく見ればどの時代でも通用する普遍的な能力だったりもします。

それでも大多数の人は、そんなの無理、と思うはず。でも、それが健全なのだと思います。激動する時代にもみくちゃにされながらも、自分を見失わず、できれば好きな道を、頑張って自分なりに歩いていく。

どんな時代にも、人はそうやって生き抜いてきたという事実は、VUCAの時代でも変わりないのですから。

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。