今さら聞けない旬ワード「Society5.0(ソサエティゴーテンゼロ)」

2023/06/06 10:00

新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で、日本が目指すべき未来社会として提唱され、内閣府が広報に努めているワード「Society5.0」について解説します。

【問い】Society5.0が創る未来の色を答えなさい。

【ヒント】どんな色でもあり得ます。

私たちが暮らす世界はSociety4.0

次々に世に出る新語の中には、政府や行政機関が発信源のものも少なくありません。今回取り上げるSociety5.0もそのひとつです。

じつは初出は意外と古く、2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で、日本が目指すべき未来社会として提唱され、内閣府が広報に努めているワードです。この手の政策関連の新語には海外発のものも目立ちますが、Society5.0については、日本政府がオリジナルのようです。

その言葉が記された「科学技術基本計画」とは、“長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行する”ことを目的に、1995年に制定された「科学技術基本法」に基づいて策定される計画です。

第1期計画が1996年に策定されて以来、概ね5年ごとに計画は見直されてきましたが、2020年に、先端技術の盲目的偏重ではなく、科学技術・イノベーションと人間や社会の在り方との関係性を重視した「科学技術・イノベーション基本法」が成立。2021年度の第6期からは「科学技術・イノベーション基本計画」として策定されています。

「第5期科学技術基本計画」の中で政府は、これまでの人間社会(Society)の歩みを5段階に分類しています。最初のSociety1.0は、生きるために命を懸けた狩猟社会。次のSociety2.0で、人々は互いに助け合い、安定した暮らしを可能にする農耕社会に進化します。Society3.0の工業社会で経済活動は大きく発展し、やがて人や物の情報に価値が置かれて、その情報の処理や伝達が経済の中心となるSociety4.0を迎えました。私たちが暮らす現代社会は、この段階というわけです。

未来社会はもっと豊かでもっと楽ちん?

その先にある未来社会が、Society5.0。そこはサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義されています。

Society4.0の情報社会では、サイバー空間に膨大な情報が蓄積されているものの、それを誰もが適切に利用できるとは限りませんでした。あふれるデータの中から必要な情報を見つけて分析する作業が必要だったり、データがバラバラな形式で保存されているために、分野横断的な連携が不十分だったりしたのです。

そこで、フィジカル空間のさまざまなセンサーから集められたビッグデータをAI(人工知能)が解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでにはできなかった新たな価値を産業や社会にもたらそう、というのがSociety5.0の目指す方向です。

たとえば、Society4.0に住む家族がドライブに出かけようとすると、目的地までのルートや交通状況、宿泊地や途中の食事の場所、天候などを全部自分自身で検索などで調べ、考えたり手配する必要がありました。しかし、Society5.0の住人は、出かけたいという意志をAIに伝えるだけで、休暇期間や予算、家族のこれまでの行動履歴からもっとも楽しめる目的地を選定し、温室効果ガス排出の少ない自動運転車で渋滞のないルートをスムーズに移動して、安全に、快適に美しい景色やおいしい食事を味わって満足する休日が楽しめるというのです。

医療や介護の分野でも、医療機関に保存されている既往歴などのデータと、身に着けたスマートウォッチからの脈拍や血圧、体温などのリアルタイム生理計測データ、気温や天候、病院ベッドの空き情報などをAIが解析。病気を早期発見したり、ひとり暮らしの老人が体調を崩すとすぐに介護や看護のスタッフが駆けつけて適切な医療へとつなげる、といったことが想定されています。

産業界でも需要や在庫、配送などのビッグデータをAIが解析することで、過不足のない効率的な生産計画や人手不足の解消、物流などのバリューチェーンが調整され、ひいては消費者にも特注品が安価に短納期で入手できるなどの利益をもたらすといいます。

そのような恩恵は農業や食品業界、防災、エネルギーなどあらゆる分野に及び、人々は年齢や性別に関係なく煩わしい作業から解放され、より便利で安全・安心な生活を楽に、楽しく送れるというのです。

さて、そんなSociety5.0の世界は何色でしょうか。バラ色、という人は多いでしょう。しかし一方で、「自分の行動をすべてデータ化されるのは監視社会みたいでイヤだ」と赤信号視する人もいそうです。AIに自分の仕事を奪われるのを警戒する人には、黄色に見えるかもしれません。

Society5.0とは、政府が考える科学技術を活用した未来のひとつの在り方。大切なのは実際に現実空間で暮らし、社会を構成している私たちが、どのような未来を望むのかをきちんと考えること。その色はきっと、ひとりひとり違うはずです。

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。