今さら聞けない旬ワード「リスキリング」
2023/02/27 07:50
新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。岸田文雄首相の所信表明演説に登場し、2022年末の新語・流行語大賞の候補にもなった「リスキリング」の意味、話題となった社会的な背景などについて解説します。
【問い】 リスキリングで得をするのは誰ですか?
【ヒント】ひとりではありません
「リスキリング」という言葉が話題になった背景
リスキリングというワードは、2022年10月の臨時国会における岸田文雄首相の所信表明演説で、今後5年間で1兆円を投入するとアナウンスされ、2022年末の新語・流行語大賞の候補ともなったことで一躍注目された感があります。事実、日本では経済産業省の主導で2021年から本格的に使われるようになった、まだ新しい言葉です。
しかし、海外では10年ほど前から取り組む企業が出現していました。世界の政財界のリーダーが集まって地球規模の課題を議論する世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)では、2018年から3年連続で「リスキリング革命」と称するセッションが催され、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言されています。
ダボス会議によればその理由は、「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれる」からです。
第4次産業革命とは、英国で18世紀末に起こった水力や蒸気機関による工場の機械化という第1次、20世紀初頭の、分業(流れ作業)に基づく電力を用いた大量生産という第2次、1970年代初頭からの電子工学や情報技術の生産現場への導入によるオートメーション化という第3次に続く、現在進行形の産業革命です。
その推進力となるのは、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットなどの次世代技術。そこからもたらされる社会の革新が、DX(デジタルトランスフォーメーション)ということになります。
ただし、そうは言ってもそれらが具体的にどんなサービスや恩恵を社会や個人にもたらすのか、イメージできない方もいるでしょう。かつて、「FAXが戻ってきてしまう」とボヤきながら同じ書類を何度も相手に送りつける課長や、若い部下にPCの操作を丸投げする部長が、ギャグのように語られたことがありました。今回の社会のDX化についていけない人は、それ以上に多いはずです。
ざっくりと言うと、リスキリングとはそうした人を教育によってなくすことで、企業や社会の効率をより高め、新しい産業の創出や経済発展につなげようという国家レベルの取り組みなのです。
全員がWIN-WINになれる「リストラ」の手段?
リスキリングを直訳すると、Re=ふたたび、skilling=技術を習得すること。経済産業省では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
それなら就職希望者が受ける職業訓練所のカリキュラムや、企業内で実施される各種の研修、またはOJTと呼ばれる日常業務を通した教育と、どこが違うのでしょう。また、以前から言われてきた生涯学習や、ちょっと前によく耳にしたリカレント教育との違いも、もうひとつわかりません。
リカレント教育とは、Re=ふたたび、current=最新になる学び。すなわち、これまで手がけてきた業務の知識を、大学や専門機関に通ってバージョンアップするのが主眼です。営業マンが大学の社会人講座でMBA(経営学修士)を取る、といった例です。一方、従来の企業内の研修やOJTでは、これまでの業務内容ややり方をレベルアップさせることが目的。いずれも、まったく畑違いのことを学ぶのではありません。
また、生涯学習や職業訓練は、企業が受けさせるのではなく、個人がスキルや教養の習得により自分の価値を高めるために、主体的に受けるのが一般的です。
対してリスキリングは、企業が業務を効率化したり新規事業に進出するために、社員にそのための専門教育を新たに受けさせるのが主なスタイル。つまり社員を学ばせることで事業をRe:structuring(リストラクチャリング/リストラ)、すなわち再構築する取り組みなのです。分野はデジタルに限定されませんが、先に述べた第4次産業革命への対応が主目的であることから、DX関連のカリキュラムが人気です。
従来のリストラには人員整理というネガティブなイメージがありますが、リスキリングは新しい技術を身に着けた社員が力強く企業のDX化を推進する、全員がWIN-WINになれる前向きなリストラの手段として、捉えるべき言葉なのだと思います。
この記事の執筆者
横田 晃(よこた あきら)
ライター
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。
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