今さら聞けない旬ワード「物流の2 0 2 4年問題」

2022/09/01 00:10

■PSS会報誌 2022年 秋号(2022.09.01発行)に掲載された記事です■

新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。“旬”と言えるほど目にすることは少なく、「物流の問題なら、自分には関係ない」と思う方もいるかもしれない「物流の2024 年問題」という言葉。その意味と、社会的な背景などについて解説します。

【問い】物流の2024 年問題をあなたが解決する方法を考えなさい

【ヒント】通信販売は好きですか?

物流業界が直面している危機

「物流の2024 年問題」という言葉は、まだ“旬”と言えるほど目にすることはないかもしれません。「物流の問題なら、自分には関係ない」と思う人もいるでしょう。しかし、けっしてそうではありません。

言葉の意味をごく簡単に説明すると、“職業運転手への適用が猶予されていた働き方改革関連法が2024 年4 月1 日から完全実施されることによって発生する、物流業界の諸問題”ということになります。

働き方改革関連法という言葉は、聞いたことがある人も多いでしょう。少子高齢化に伴う労働人口の減少や長時間労働の慢性化、育児や介護と仕事との両立といった社会課題に対応し、労働者が多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現を目的として、既存の労働関係法を改正する形で2018 年に公布され、2019 年から順次施行されている法律の総称です。便宜上、そう呼ばれていますが、その通りの名前の法律があるわけではありません。

主なポイントは以下のようになります。

・時間外労働の上限規制
・月60 時間超の時間外労働に対する
 割増賃金引上げ
・有給休暇取得の義務化
・労働時間の適正把握義務化
・フレックスタイム制の拡充
・高度プロフェッショナル制度の導入
・勤務間インターバル制度の普及促進
・同一労働同一賃金の推進

かえって労働強化につながるといった論議を呼んだ項目もありますが、全体としては働き手にとってメリットの多い条項が並びます。ただし、いくつかの業種と法律については例外規定が用意されており、「自動車運転業務に対する時間外労働の上限規制」は、2024 年3 月31日まで猶予されています。客の行先や荷主の都合などによって勤務時間が大きく変動するタクシーやトラックなどの運転業務は、長時間労働になりやすい特性があり、是正には時間がかかると判断されたのです。

施行済みの働き方改革関連法では、一般労働者の時間外労働時間は、原則月45 時間、年360 時間が上限と定められています。労使間で合意して労働基準監督署に届け出る協定を結んだ場合でも、月100 時間未満、年720 時間が上限。ところが、自動車運転業務に携わるプロドライバーの残業時間は、2022 年秋現在は青天井なのです。

それが2024 年4 月1 日から、協定を結んだ場合でも年間960 時間までに規制されるのです。一般労働者よりまだ上限は緩いとはいえ、労働集約型の物流産業では、一人あたりの労働時間の減少は1 日で運べる荷物量の減少に直結し、労働コストは確実に上がると予想されます。加えて中小企業では猶予されていた、月60 時間超の時間外割増賃金を25%から50%へ引き上げる法律も2023年4 月1 日から施行されます。物流業界全体が、コストアップによる経営悪化の危機に見舞われているのです。

一方、これまで青天井の残業代を生活費に組み入れていたドライバーにとっても、労働時間の減少は死活問題になりかねません。慢性的な人手不足に悩む物流業界には、従業員の労働時間を抑えながら実質賃金の低下をも抑え、魅力的な職場としていく努力も求められています。

それらに対応するために、業界ではAI やロボットを駆使した大規模な物流センターの建設による効率向上や、宅配荷物の配達ボックス普及による再配達の低減、長距離輸送の一部を鉄道などに振り替えるモーダルシフトなどの対策を進めています。国も、弱い立場の物流業者が過剰な値引き競争に陥ることなく上昇したコストを反映した運賃を荷主に請求できるよう、「標準的な運賃の告示制度」を導入するなどしています。

スマホのタップひとつで買い物ができるe コマースもすっかり一般的になりましたが、消費者にも、商品を届けてくれる人々に想いを馳せ、送料無料の謳い文句で泣く人はいないのか、考えることが求められているのかもしれません。みんなが幸せになるために、荷物の送り手も受け手も少しずつ譲りあう。コーヒー飲料のCM の通り、「世界は誰かの仕事でできている」のです。

 

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。