今さら聞けない旬ワード「メタバース」
2022/03/18 00:10
■PSS会報誌 2022年 春号(2022.03.18発行)に掲載された記事です■
新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。1992 年に発表されたSF 小説「スノウ・クラッシュ」の中で、架空の仮想空間サービスの名前として初登場した「メタバース」について解説します。
【問い】メタバースに行く方法を説明しなさい
【ヒント】VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を活用します
SF小説の中で登場した「メタバース」
メタバースとは英語で、“超越した”“高次の”という意味のメタと“宇宙”を意味するユニバースを合成して生まれた造語です。初めて使ったのはアメリカの作家ニール・スティーブンソン氏。1992 年に発表されたSF 小説「スノウ・クラッシュ」の中に登場する、架空の仮想空間サービスの名前として登場しました。
作品中の仮想空間「メタバース」は、指定の時間にピザを届けないと殺されてしまうような、殺伐とした未来世界に住む主人公が、仕事の後で他の人々と交流したり遊んだりして安らぎを得るもうひとつの生活の場でした。
以後、メタバースという言葉は、アバター(分身)を通して他者と交流や仕事をしたり買い物や娯楽を楽しんだりできる、オンライン上に構築されたバーチャル空間の意味で使われるようになったのです。
その言葉が、TV や新聞でも取り上げられるほど注目されるようになったのは、巨大SNS 企業のフェイスブック社が2021 年10 月28 日に社名を「Meta」に変更したことがきっかけでした。同社の創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、これからメタバースに少なくとも100億ドル(約1 兆1000 億円)を投資して大々的に事業化に取り組むことを宣言したのです。
30 年前の多くの普通の人にとっては、小説に描かれていたメタバースは宇宙旅行と同じぐらい遠い世界でしたが、IT 技術者にとっては当時から目指すべき目標でした。
インターネット上の仮想空間に世界中から人が集まり、コミュニケーションや買い物や娯楽を楽しみ、仕事をすることは、技術で実現できる近未来だったのです。
とはいえそのためには、大容量で高速なネット環境の充実や、メタバースに参加するための端末の開発など、多くの課題がありました。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術の進化は、そのための要件のひとつです。
今から15 年以上前の2006 年に登場した初期のメタバースサービス「セカンドライフ」では、参加者はPCのキーボードとマウスを駆使する高等技術でネット上の仮想空間にいる自分のアバターを操っていました。しかし、現在ではマイクやステレオスピーカーを内蔵したVRゴーグルや手足の動きを探知するセンサーを装着すれば、誰でもメタバースのショッピングモールや職場に行き、世界中の人々と会話や買い物を楽しめるようになりました。ライブコンサートの会場で、リアルワールドと同じように手拍子や歓声を送ることもできます。
そこで取引きの決済に使われるのは暗号資産(仮想通貨)であり、デジタルの美術品や書類がコピーではない本物であることを証明するのはNFT(非代替性トークン)と呼ばれる技術。そうした新しい技術やデバイスの開発販売だけでも、これから大きな市場になることでしょう。たとえば、メタバースに流れる匂いやアバターが触れた物の感触まで伝えられる技術も研究が進んでいます。自宅にいながらにして、五感で世界を楽しめるようになるのです。
じつは2020 年から、多くの日本人もすでにメタバースの片鱗を経験しています。無人島にアバターとして訪れてテントを張り、散歩や釣り、昆虫採集などのアクティビティを楽しめ、他のプレイヤーとも交流しながら自分だけの仮想世界が構築されていく任天堂「SWITCH」のゲーム「あつまれ どうぶつの森」は、まさに初歩的なメタバースの一種だったのです。
これからも、メタバースを意識した技術や商品は次々と登場してくることでしょう。そうして、誰もが気軽にメタバースにアクセスできるデバイスを持つようになると、一気に当たり前の世界になるのかもしれません。
この記事の執筆者
横田 晃(よこた あきら)
ライター
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。
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