今さら聞けない旬ワード「カーボンニュートラル」

2021/09/01 00:10

■PSS会報誌 2021年 秋号(2021.09.01発行)に掲載された記事です■

新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。2020 年10 月の臨時国会における菅義偉首相の所信表明演説で用いられて、大きなニュースワードになった「カーボンニュートラル」について、意味や社会的な背景について解説します。

【問い】カーボンニュートラルを実現させるのは誰ですか?

【ヒント】政治家や官僚ではありません

カーボンニュートラルという言葉は、2020 年10 月の臨時国会における菅義偉首相の所信表明演説で用いられて、大きなニュースワードになりました。

「我が国は、2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」というのが実際の文言です。

温室効果ガスという言葉は、地球温暖化とセットでよく使われています。地球は太陽光線によってつねに温められていますが、その熱の多くは赤外線として宇宙空間に放出されます。ところが、産業革命以後の工業化で大量に排出されるようになった温室効果ガスが赤外線を吸収するため、地球が温暖化していることがわかりました。

ちなみに温室効果ガスとは、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素、フロンガス(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化窒素)を指します。中でもCO2 が大きな割合を占め、他のガスもCO2 に換算して積算されることから、CO2削減が地球温暖化対策の代名詞になり、二酸化炭素を構成するC= カーボン(炭素)も頻出ワードになったのです。

世界の平均気温は、産業革命以後のこの100 年あまりで1.1℃上昇しています。そのために海面が上昇して世界的に高潮や洪水が増えました。ほかにも異常な熱波や干ばつによる食糧不足、生態系の破壊など、深刻な影響を地球環境に与えつつあります。日本でも近年の集中豪雨などの異常気象は、温暖化の影響が指摘されています。

その対策として、1992 年にブラジルでの国連環境開発会議(通称地球サミット)で気候変動枠組条約が採択され、定期的に締約国による会議(COP)が開かれるようになりました。そして1997 年の第3 回会議(COP3)で採択された初めての具体的なルールが、京都議定書です。

ただし、2020 年を年限とした京都議定書は先進国だけにCO2 削減の目標達成を義務付けており、アメリカとカナダも離脱したため、実効性が疑問視されました。そこで2015 年にフランスで開催されたCOP21 で、2020年以降の目標として採択されたのがパリ協定です。

こちらは途上国を含む世界の参加国に目標設定を義務付ける一方で、達成は義務ではありません。その分、中国やインドなど近年CO2 排出量を増やしている国も、それなら、と目標を掲げることができたのです。2021 年4 月までに、日本を含む126 か国・地域が2050 年までのカーボンニュートラルの実現を表明しています。

菅首相の宣言もその一環というわけですが、カーボンニュートラルという文言は、必ずしもCO2 削減だけを意味しないのがポイントです。それまで日本は「2030 年までにCO2 排出量を2013 年比で26% 削減」という目標を掲げていました。しかしカーボンニュートラルは「全体としてゼロにする」、すなわち「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことが目標です。

引き続き排出量の抑制は必要ですが、一方で植林によるCO2 の吸収や排出されるCO2 を回収・貯蔵する技術の開発など、新たな産業戦略とも組み合わせることで目標を達成します。国民に我慢を強いるのではなく、国家事業としてカーボンニュートラルを目指すことで、次の成長につなげようというのが大きな目的なのです。

再生可能エネルギーや水素の利用促進といった産業界の取り組みはもちろん、環境、社会、ガバナンス(企業統治)を重視するESG 投資やSDGs など、世界的に成長分野として注目されている社会・環境ビジネスの最新トレンドが、カーボンニュートラルというわけです。

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。