ただの移動の足じゃない!
おもしろ系鉄道の旅「津軽鉄道ストーブ列車」

2023/12/05 10:00

旅の醍醐味のひとつは、自分の住む土地とはまったく異なる気候や風土に出会うこと。地元の住人にとっては辛い地吹雪の中を行くローカル鉄道への乗車も、温暖な土地から訪れる旅人にとっては、得がたい思い出になる体験です。暮らしに密着した足として生まれ、今では多くの観光客を乗せて走る、どこか懐かしいストーブ列車で津軽の冬を尋ねてみませんか?

雪景色の中をディーゼル機関車に引かれたストーブ列車が走る

90年前から走り続ける津軽の冬の風物詩

青森県の津軽鉄道は、JR五能線と接続する津軽五所川原駅から津軽半島を北上し、津軽中里駅までの20.7㎞を結ぶ非電化単線のローカル私鉄。駅数は全部で12駅で、駅員がいる有人駅はわずか3つという小さな鉄道です。

沿線には五所川原市が委託したNPO法人が運営する記念館になっている、太宰治の生家である「斜陽館」や、高さ20ⅿにも達する巨大な五所川原立佞武多(たちねぷた)を収容展示する「立佞武多の館」といった観光施設や景勝地も多く、旅の楽しみには事欠きません。

沿線の旧金木町(現五所川原市)は作家の太宰治の故郷。彼の生家だった豪邸はのちに旅館を経て、現在では太宰治記念館「斜陽館」となっている

とはいえ本州最北端に近いだけに冬の気候は厳しく、強風に舞う雪で視界が奪われる地吹雪に見舞われれば、屋外を歩くこともままならない土地柄でもあります。

そんな厳しい冬期(12月1日~3月31日)に運行されて、この鉄道の名物となっているのがストーブ列車です。もともと昭和5(1930)年の開業当時、蒸気機関車に牽引される客車の暖房設備として石炭を燃やすダルマストーブが備えられたのが起こり。戦後に暖房付きのディーゼルカーが導入された後も風物詩として生き残り、現在では、わざわざこれに乗ることを目当てとした観光客にも人気となっています。

1日2~3往復設定されているストーブ列車は、ディーゼル機関車に引かれた客車にディーゼルカーを併結。地元の通勤通学客は運賃だけでディーゼルカーに乗れる一方、ストーブつきの客車に乗車するためには500円のストーブ列車券が必要です。1月中旬から2月中旬の人気シーズンでもおおむね座れる(ただし、団体での乗車には予約が必要)ものの、指定席ではないので、五所川原発の列車のストーブ近くに着席するためには、遅くとも発車時間の20~30分前には改札前に並ぶ必要があるとのこと。混み具合によっては駅員さんが、往路はディーゼルカーに乗り、復路の津軽中里発でストーブ客車への乗車を勧めることもあるといいます。

使われている客車は、旧国鉄から払い下げられたオハフ33形とオハ46形。定員はそれぞれ72人と80人ですが、2ブロック分の座席を撤去して車両前後に据え付けられたダルマストーブでスルメを焼いて味わう旅情を楽しむには、やはり早めに並んで特等席に陣取りたいところ。ちなみにひと冬に約4トンの石炭を使うそうです。

客車内ではダルマストーブの上で焼かれるスルメの香りが漂い、旅情をそそる

4月から11月までは同客車を貸し切っての貸切列車運行も可能で、かつては結婚披露宴を催した人もいたそうです。コロナ禍で大きく減ってしまった観光客も、2023年春からは大都市圏からを中心に回復傾向にあり、インバウンド客も戻りつつあるとのこと。冬はもちろん、四季折々の津軽を味わいに、足を運んでみてはいかがでしょう。

通常運行のディーゼルカーも、太宰治の代表作のタイトルから「走れメロス」号と名づけられている。冬以外のシーズンも魅力的だ

津軽鉄道公式サイト

写真提供:津軽鉄道

 

この記事の執筆者

横田 晃(よこた あきら)

ライター

アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。