更新日:2026/03/11
新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。
今回は企業の人事戦略として注目されている「アルムナイ制度」について解説します。
アルムナイとは、卒業生や同窓生を意味する英語です。そこから転じたビジネス用語としては、企業を中途退職した社員を意味します。アルムナイ制度は何らかの事情で退社した社員を、再雇用する手続きや採用基準などを制度化したもの。それが最近注目され、導入例も増えてきているのです。
長年、年功序列の終身雇用が常識だった日本の企業では、退職と同時に縁が切れてしまうのが普通でした。近年は転職や起業も増えてきたとはいえ、古巣の会社に戻ることはできないというのが通り相場。結果、同じ会社に勤め続ける忠誠心の篤い社員には居心地がいい一方で、社内ではできないチャレンジをしたり、より自分らしい活躍の場を求めたりするような“生きのいい”社員はリスクを背負って去っていくしかない状況だったのです。
けれど世の中は大きく変わっています。新卒で入社した会社に一生勤めるのではなく、いくつかの会社を渡り歩くことも、視野を広げる貴重な経験として評価される時代になりました。人材スカウト会社や転職アプリといった、キャリアチェンジを実行に移すツールが増えたことも、転職のハードルを下げています。
ベンチャービジネスやITなどの新しい産業の勃興による経済活性化にも繋がることから、政府も人材の流動化を後押ししています。やがては日本でも一生同じ会社に勤める人の方が、珍しい社会になるのかもしれません。
一方、日本社会はこの先も少子高齢化の進行が避けられません。ロボットやAIで代替できる仕事はいざ知らず、多くの業務で即戦力の中堅ビジネスマンは各社の争奪戦になっていくことでしょう。
一度外に出た社員をふたたび迎え入れるアルムナイ制度は、そんな時代を見据えた人事戦略のひとつと言えるでしょう。
元社員なら会社の社風や業務内容も理解していて、まったくの新人のような念入りな研修はいりません。そのうえで退社後に手がけた仕事で得たスキルや人脈、新しい視点などが活かせれば、社内に新鮮な風を吹き込んで活性化してくれるかもしれません。企業にとっては、まるで留学先でひと回り成長して帰ってきた社員のような活躍が期待できるというわけです。
ただし、元社員なら誰でもOKというわけにはもちろんいきません。大前提として、会社や同僚との良好な関係を保った円満退社だったことは必須でしょう。会社にさんざん文句を言って、喧嘩別れするように出ていった人が、不満の種が解消されないまま戻ってきても、なかなかうまくいかないと思われます。
再雇用後の配属や業務内容、待遇についても、退社後の経験も踏まえつつも、以前の在職中とは必ずしも同じではないことも、しっかり話し合っておく必要があります。再雇用の条件として、在職期間や在職中の役職などに一定のルールを設けることも、安易な退職と再雇用の乱発を防ぐためには大切でしょう。
迎え入れる生え抜き社員に制度の周知と理解を徹底することもポイントです。一度は会社を捨てた社員が出戻ったのに、ずっと勤めている自分より待遇がいい、となったら、面白くないのは当然です。彼や彼女を迎え入れることで、会社がどんなメリットを期待しているのか、再雇用される本人と迎える社員の双方が理解していなければなりません。
そうした点をおろそかにしては、既存社員の不満を呼んでモチベーションを低下させたり、余計な退職者を玉突き発生させたりする可能性もあります。
しかし、そこをきちんとクリアすれば、新しい世界に挑んだ経験を正当に評価するいい会社として、再雇用社員はもちろん、既存社員の会社への愛着も高めることができ、社内の風通しを良くしたり、日々の業務を新しい視点で活性化したりするといった効果も期待できるでしょう。
アルムナイ制度は、たんなる人手不足解消策やわがまま社員の救済策ではなく、企業と従業員のエンゲージメントを高め、新しい制度を取り入れて人材を柔軟に活用できる会社という周囲の評価にもつながるのです。
これからの企業は、社員からも社会からも支持される“もっといい会社”を目指すことが求められるようになるでしょう。アルムナイ制度は、それを導入する企業の魅力や価値を物語るメニューのひとつとして、注目されているのかもしれません。
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。