更新日:2025/12/10
新聞やニュース、ウェブサイトなどで当たり前のように使われているけれど、じつは正確な意味を知らない言葉。そんな「旬ワード」をご紹介するコラムです。
今回は企業の経営戦略として近年注目されている「CSV経営」について解説します。
日に日に変化の速度を早める社会と市場に適応して生き残るために、企業も日々新しい概念を取り入れて持続可能な未来戦略を次々と繰り出しています。CSV経営も、そうした新しい概念を表す略語です。
CSVはCreating Shared Valueの略で、日本語では「共有価値の創造」を意味し、ごくごくざっくりと言えば、「利益の獲得と社会課題の解決を両立させる経営」ということになります。もっと分かりやすい言葉で言えば、「本業の営利活動を通して顧客にも社会にも喜ばれよう」という経営戦略です。
初出はアメリカの大手食品企業、ネスレ社が2006年に発表したCSRレポートの一節とされ、当時同社のアドバイザーだった経営学者のマイケル・ポーターとマーク・クレーマーが2011年に論文にまとめて発表したことで、世界的に注目されたと言われています。
字面が似ていることもあって、初出文献のテーマだったCSRともよく混同される言葉ですが、CSR=Corporate Social Responsibilityは企業の社会的責任のことで、たとえば公害を出さない、貧しい国の子供を低賃金で働かせて製品を作らない、操業で得た利益を地元の産業や文化の振興に還元するといった、主に企業活動で守るべきルールやマナーを指します。つまりそこから企業が直接利益を得ることを意味していません。
対してCSVは、企業が本業を通して社会課題を解決することで正当な利益を得て成長することを目指しています。収益を本業以外に還元することではないし、ボランティアや寄付といった、いわゆるメセナ活動とも違います。世のため人のためになる事業で、正々堂々と利益を出そうという話なのです。
CSV経営の実現のために、マイケル・ポーターたちは
1. 製品と市場を見直す
2. バリューチェーンの生産性を再定義する
3. ビジネスを営む地域に産業クラスターを開発する
という方法論を唱えています。
漫然と製品を作り続けるのではなく、つねにそれを進化させるとともに、市場や環境の変化やニーズを敏感にとらえること。仕入れから生産、販売や管理までの一連の企業活動のプロセスを見直し、長期的な時間軸でより環境にやさしく、社会のためになるやり方を考えること。そして自社だけでなく、サプライヤーや得意先、社会や研究機関、自治体などまで巻き込んでコラボレーションや競争を促し、イノベーションを促進すること。
あらためて言われてみれば当たり前のことです。そして日本には古くから、CSVに相当する概念がありました。
「三方よし」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。これは江戸時代から全国を行商して各地の物産を商うだけでなく、情報の流通や縁談まで世話をした近江(現在の滋賀県)商人の経営哲学として言い伝えられているもの。
三方よしとは「売り手によし、買い手によし、世間によし」。すなわち売り手は適正な利潤を得て、顧客は商品に満足し、結果として世間にとってもよい商いをしなさいという理念は、まさに今日のCSV経営につながるものではないでしょうか。
じつはその姿勢は、小規模なスタートアップ企業やベンチャー企業にもマッチします。すでに市場に浸透している大手企業が既存事業をCSVに転換するのは大変です。しかし、これから事業を立ち上げる若い企業なら、最初から三方よしを理念に始めることもできるでしょう。
身体にいい無農薬のおいしい野菜を、その理念に共感してくれる客に直接予約栽培・販売している農業法人。ハンディキャップのある方や闘病中の方の就業を企業とのマッチングで支援している人材会社。賞味期限切れが近い食品を廃棄するスーパーなどから引き取ってこども食堂などに分配する企業など、すでにCSV経営を実践している小さな会社はたくさん生まれています。
本業で顧客にも社会にも喜ばれて自社も成長する会社は、きっとそこで働く人も幸せにしてくれることでしょう。
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。