更新日:2025/06/06
令和6(2024)年元旦の地震で、大きな被害を受けた能登半島。地元を走るのと鉄道はいち早く運行を再開して地元の足としての使命は取り戻したものの、風光明媚な観光地として元の姿を取り戻すまでにはもう少し時間が必要です。そこで同鉄道ではこの春から、観光客に人気だった観光列車を利用して震災の体験を語り継ぐ、新しいタイプの列車を走らせています。被災地の一刻も早い復旧を応援しに、足を運んでみませんか?
旧国鉄七尾線の一部を受け継ぐ第三セクター鉄道として七尾-穴水間33.1㎞を結ぶのと鉄道は、七尾湾に面した美しい風景の中を走っています。景勝地では一時停止してアテンダントが観光案内をしてくれる、豪華な内装の観光列車「のと里山里海号」や、地元が舞台のアニメにちなんだラッピング列車も運行。北陸地方随一の人気を誇る和倉温泉も沿線にあり、令和元(2019)年度には61万人ものお客様を乗せていました。
ところが、能登半島地震では鉄道施設も大きな被害を受けました。斜面の崩壊やレールのずれ、最大で1.4mに達する盛土沈下やホームの沈下など、約50箇所もの損壊箇所が出たのです。国や県、JR西日本等からの支援も受けて令和6(2024)年4月6日には全線で運転再開にこぎつけたものの、ホームや待合室、事務所などは傷ついたまま。当地の主要産業だった温泉街も大損害を受けており、観光客を笑顔で迎えることができなくなってしまったのです。
そうした中で、地元の人々とともにある鉄道事業者として何ができるのかを考えて誕生したのが、令和6(2024)年9月から運行を始めた「語り部列車」です。そして、能登復興に向けた更なる取り組みとして、運行中に地震に遭った観光列車「のと里山里海号」を活用し、当時の状況をより臨場感を持って伝えようと、仮復旧から1年となる令和7(2025)年4月6日から「震災語り部観光列車」の運行を開始しました。最初のタームとして5月11日までの土日祝日に運行された後、夏休み中の7月19日から8月31日までの土日祝日の運行が予定(2025年6月現在。以後の予定は夏頃に発表)されているこの列車は、一般の列車に併結した「のと里山里海号」の車両内で、震災を経験した語り部たちから体験談や避難生活の様子を聞くという有料のイベント列車です。
宮下左文さん、牛上智子さん、坂本藍さんの3人の語り部は、もともと「のと里山里海号」で乗客に美しい車窓風景をガイドしていたアテンダントたち。震災当日、観光列車内での乗務中に地震に遭い、停車中の車両から運転士とともに乗客を安全な高台まで避難誘導した話や、自身の仮設住宅での暮らし、能登各地の被災者の皆さんから直に取材した防災に役立つ経験談は、車窓から生で見る被災状況と相まって、乗客の心を動かします。
「車窓から見える光景と重ねて被災状況を話してもらえるのでとても分かりやすかった」といった感想のほか、「被災しても前向きに生きようとなさっているお話が聞けてうれしかった」「語り部の方のお話はもちろん、列車の旅そのものも本当に素晴らしかった」といった声が寄せられているそうです。
のと鉄道の担当者は、震災から時を経て報道が減っていく中で、ニュースやネットではわからない今の能登の状況や人々の暮らしを伝えることで風化を防ぎ、災害の教訓を自分事として感じてもらいたいといいます。
「震災語り部観光列車」の乗客には、南海トラフ地震の可能性が叫ばれる中、防災意識が高まっている該当エリアからの来訪客が増えているほか、通訳付きで訪れる海外からのグループ客も見かけるとのこと。
能登に足を運んで語り部の話に耳を傾け、今なお美しい日本の原風景と人々の温かみに触れて、そっと寄り添うことも、立派な復興支援。夏休みの旅行ルートに、ぜひ組み込んでみてはいかがでしょうか。
写真提供・のと鉄道株式会社
アニメーション雑誌を皮切りに、自動車雑誌や男性誌の編集者として多くの新雑誌やヒット企画の立ち上げに参画。94 年に独立後も、芸能インタビューから政治経済まで、幅広いジャンルの企画・制作・執筆に携わる。