更新日:2026/09/08
同一労働同一賃金については、2018年(平成30年)の働き方改革関連法によって、パートタイム労働者及び有期雇用労働者と通常の労働者(以下、「正社員」)との間の不合理な待遇差を禁止するための法整備が行われ、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期法」)が、制定されました。大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月より施行され、約5年が経過しています。
今回、この5年間の裁判例や実務上の状況等を踏まえ、「パート・有期法」の施行規則、同一労働同一賃金ガイドライン、雇用管理の改善等に関する措置についての指針(以下、「雇用管理指針」)が改正されました。2026年(令和8年)10月1日から施行・適用されます。
今回の改正では、雇入れ時の労働条件明示事項が追加されるほか、賞与、退職手当、各種手当、休暇などについて、どのような待遇差が不合理となり得るのかが、これまで以上に具体的に示されています。
今回の改正への対応で重要なのは、単に「正社員と非正規雇用労働者の待遇を同じにする」ことではありません。
「なぜ、この待遇なのか」を会社として整理し、必要な場合には労働者に説明できる状態にしておくことが重要です。
では、会社は具体的に何を確認し、何を準備すればよいのでしょうか。
2026年10月1日から、パートタイム労働者及び有期雇用労働者を雇い入れる際の労働条件の明示事項に、「通常の労働者との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」が追加されます。厚生労働省の改正後のモデル労働条件通知書にも、この内容が反映されています。
出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html
※文字書式等を一部編集
したがって、まずは自社で使用している労働条件通知書等を確認し、2026年10月1日以降の様式に対応できるよう準備しておく必要があります。
ただし、今回の改正への対応は、労働条件通知書に一文を追加して終わり、というものではありません。
会社がまず行いたいのは、正社員とパートタイム労働者及び有期雇用労働者の待遇を洗い出し、「違いがある待遇」と「その違いが設けられている理由」を整理することです。
例えば、「パートだから」「契約社員だから」「昔からこの制度だから」という説明だけでは、その待遇差の根拠を十分に説明できない可能性があります。
確認したいのは、その手当や賞与、休暇等が何を目的として設けられているのかということです。
その上で、その待遇の性質・目的や、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情などを踏まえ、正社員とパートタイム労働者及び有期雇用労働者との待遇差が不合理なものとなっていないかを確認します。
もし会社として十分に説明できない待遇差が見つかった場合には、待遇の見直しが必要になる可能性があります。
まずは自社の制度を一つひとつ確認することから始めましょう。
改正された同一労働同一賃金ガイドラインでは、賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、福利厚生施設、病気休職、夏季・冬季休暇、褒賞について、不合理な待遇差に関する記載が追加されています。
ここで大切なのは、待遇の名称だけを見て判断しないことです。
「その待遇は、何のために設けられているのか?」
という視点から、自社の制度を確認してみましょう。
賞与は、会社によって支給の目的が異なります。会社への貢献や業績による成果配分、勤務成績等を評価するものなのか、あるいは賃金の後払い、将来への期待や功労への報償という性質を持つのかなど、その目的を確認することが重要です。
退職手当についても、長期勤続への功労、賃金の後払い、退職後の生活保障など、さまざまな性質が考えられます。制度の目的を明確にした上で、その目的がパートタイム労働者及び有期雇用労働者にも及ぶのかを検討する必要があります。
無事故手当は、安全運転や事故防止を奨励することを目的として、無事故で勤務したことを評価するという性質を持つ場合、その評価の対象となる業務に従事するパートタイム労働者及び有期雇用労働者について、正社員との待遇差が不合理でないかを検討する必要があります。
家族手当についても、単に「正社員向けの制度」として考えるのではなく、扶養家族のいる労働者の生活保障という制度の目的を確認することが重要です。相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム労働者及び有期雇用労働者についても、待遇差が不合理でないかを検討する必要があります。
住宅手当が、転居を伴う配置転換への対応という目的で支給されている場合には、正社員と同様に転居を伴う配置変更があるパートタイム労働者及び有期雇用労働者との待遇差について確認が必要です。
食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設は、旧ガイドラインにおいて、通常の労働者と同一の事業所で働くパートタイム労働者及び有期雇用労働者に対して同一の福利厚生施設の利用を認めなければならないとありましたが、今般の改正で、利用料金や割引率等について、不合理な待遇差を設けてはならないという内容が追加されました。
病気休職は、旧ガイドラインにおいてパートタイム労働者及び有期雇用労働者にも認めなければならないとありましたが、今般の改正で、正社員に病気休職期間中の給与保障を行っている場合には、パートタイム労働者及び有期雇用労働者だからという理由だけで一律に対象外とするのではなく、相応に継続的な勤務が見込まれるかなどを踏まえ、待遇差が不合理でないかを確認する必要があります。
休暇については、休息や心身の回復など、その休暇を設けている目的を確認します。また、一定期間の勤続や功績を評価する褒賞であれば、その目的がパートタイム労働者及び有期雇用労働者にも当てはまるかを確認します。
このように、今回追加された具体例を見ると、共通するのは「正社員か非正規雇用労働者か」という名称だけで判断するのではなく、その待遇の性質・目的と、実際の働き方との関係を確認するという考え方です。なお、ガイドラインは原則となる考え方や具体例を示すものであり、実際の判断では個々の待遇の性質・目的等を踏まえて検討する必要があります。
不合理な待遇差を解消するために、正社員の待遇を引き下げるという方法は、基本的に望ましい対応とはいえません。待遇差を確認した場合には、非正規雇用労働者の待遇改善を図る方向で検討することが重要です。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者について、「定年後再雇用だから待遇が低くても問題ない」と一律に考えることはできません。
待遇差が不合理かどうかは、それぞれの待遇の性質・目的等に照らして判断されます。したがって、定年後再雇用者についても、待遇ごとにその理由を確認する必要があります。
「優秀な正社員を確保するため」「正社員の定着を図るため」という会社側の目的があったとしても、それだけで非正規雇用労働者との待遇差が当然に正当化されるわけではありません。
重要なのは、その手当や賞与等が何を目的として設けられているのか、その目的が正社員とパートタイム労働者及び有期雇用労働者のどちらにどの程度当てはまるのかを確認することです。
同一労働同一賃金というと、「正社員とパートタイム労働者及び有期雇用労働者を比較する」ということに目が向きがちです。しかし、無期雇用フルタイム労働者や多様な正社員についても、労働契約の締結・変更に当たって均衡を考慮することが求められています。
今回の改正を機に、正社員、パートタイム労働者及び有期契約社員、定年後再雇用者など、自社の雇用区分全体を一度俯瞰してみることも重要です。
今回の改正では、待遇の決定に当たって、非正規雇用労働者の意向を十分に考慮せず、事業主が一方的に待遇を決定した場合には、「パート・有期法」第8条における「その他の事情」として考慮され得ることが示されています。
これは、すべての待遇について労働者の合意がなければ決められない、という意味ではありません。
重要なのは、制度を会社側だけで決めて終わりにするのではなく、労働者に制度の趣旨や考え方を説明し、必要に応じて意見を聴くなど、コミュニケーションを含めた雇用管理を行うことです。
今回の改正では、同一労働同一賃金ガイドラインだけでなく、雇用管理指針も改正されています。
ここで示されているのは、単に「待遇差をなくす」という考え方だけではありません。公正な評価に基づく賃金決定、待遇差についての分かりやすい説明、非正規雇用労働者との話し合いの機会など、公正な雇用管理を進めるための考え方が示されています。
例えば、待遇差について説明を求められた場合には、資料を活用して口頭で説明する方法や、説明すべき事項を記載した分かりやすい資料を交付する方法などが示されています。
つまり今回の改正は、「制度を法律に合わせる」だけでなく、会社と非正規雇用労働者とのコミュニケーションを見直す機会ともいえるでしょう。
では、2026年10月1日を前に、会社は何を確認すればよいのでしょうか。
正社員、パートタイム労働者及び有期契約社員、定年後再雇用者など、自社にどのような雇用区分があるのかを確認します。
基本給、賞与、各種手当、退職手当、休暇、福利厚生、教育訓練などを雇用区分ごとに並べ、違いを確認します。
「パートだから」ではなく、「なぜこの待遇を設けているのか」という制度の目的・性質を整理します。
「なぜ、この手当は正社員だけなのですか?」と聞かれた場合を想定し、会社の担当者が具体的に説明できるか確認します。
説明が難しい待遇については、制度そのものを見直す必要がないか検討します。
ここで注意したいのは、「説明できない待遇差=直ちに違法」という意味ではないことです。
ただし、説明できないということは、会社自身がその待遇差の根拠や制度の目的を十分に整理できていない可能性があります。
「説明できるか」という視点で制度を点検することは、自社の人事制度を見直す有効なきっかけになります。
2026年10月1日から、パートタイム労働者及び有期雇用労働者を雇い入れる際には、正社員との待遇の相違について説明を求めることができる旨を労働条件として明示することが必要になります。また、実際に説明を求められた場合には、待遇の相違の内容・理由等について説明することが事業主に求められます。説明を求めたことを理由として、解雇などの不利益な取扱いをすることも禁止されています。
このため、会社としては「説明を求められてから考える」のではなく、あらかじめ自社の待遇制度を点検しておくことが重要です。
同一労働同一賃金は、「正社員と非正規雇用労働者の待遇をすべて同じにする」という制度ではありません。
大切なのは、職務の内容や責任の範囲、配置の変更の有無やその範囲などを踏まえ、なぜ待遇が異なるのかを会社として整理し、必要な場合には労働者に分かりやすく説明できることです。
そして、同一労働同一賃金への対応は、「法律違反にならないようにするため」だけのものでもありません。
自分の仕事や貢献がどのように評価され、それがどのような待遇につながっているのかが分かることは、非正規雇用労働者にとって、働く上での安心感にもつながります。
今回の改正を機に、「待遇差をなくす」だけでなく、「待遇差を説明できる」「納得できる人事制度にする」という視点から、自社の雇用管理を見直してみてはいかがでしょうか。
「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

社労士・FP事務所 オフィス ビサイド 代表
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー
総合商社、社労士法人勤務を経て、2008年開業。
一社一社の企業に向き合い、それぞれのニーズに応じた人事・労務のコンサルティングを行っています。また、ハラスメント防止コンサルタント、メンタルヘルス対策支援員として、企業のコンプライアンス意識の向上や、働く人が安心して力を発揮できる職場づくりに向けた安全衛生対策にも力を入れています。これからも「かかりつけ医」のように、気軽に相談できる身近なアドバイザーとして、企業の健やかな成長を支えていきたいと思っています。
・共著「図解労働・社会保険の書式・手続完全マニュアル」(日本法令)
・共著「人事・労務ビジネスフォーム全書」(日本法令)

朝比奈・川﨑社会保険労務士法人 代表社員
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー
大学を卒業後、社労士事務所に10年間勤務し、2000年4月に独立開業して現在に至る。開業後は、就業規則の作成業務を中心に賃金・退職金制度の構築などを通してIPO(新規株式公開)支援業務にも労務管理の専門家として携わる。また、「労働集約型事業」のお客様が数多く、労使紛争や労働災害など様々な労務管理に関する相談に応じる日々を過ごしている。
【事務所HP】https://sr-asahina.jp