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カスタマーハラスメントへの会社の対応について

更新日:2025/10/16

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カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が不適切な言動や過剰な要求を通じて、企業やその従業員に精神的・身体的な負担を強いる行為を指します。例えば、理不尽な苦情、威圧的な態度、無理な要求などが含まれます。この問題は従業員の働く環境を悪化させるだけでなく、企業全体のサービス提供にも悪影響を与えます。

カスタマーハラスメントを防止するために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となることを主な内容とした「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律63号)」が令和7年6月4日に国会で可決・成立し、6月11日に公布されました。施行期日は、公布の日から起算して1年6月以内で政令で定める日(令和8年度中)となりますので、それまでに、カスタマーハラスメントに対する基本方針の公表、従業員を守るガイドラインの策定や組織内での支援体制の整備が求められることになります。

これにあわせて、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」、「相談体制の整備・周知」、「発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置」について、事業主が講ずべき具体的な措置の内容について、今後、国が指針において示す予定です。

今回の法改正に至る前段として、令和7年4月1日に、東京都で全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(通称:東京都カスハラ防止条例)が施行されました。この条例は、カスハラの一律禁止を明確に掲げた画期的な内容となっており、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならず、東京都内に限らずあらゆる場面で防止することが重要である」と明記されました。合わせて、店舗や事業所での直接的な行為だけでなく、電話やインターネットを通じた行為も対象としています。なお、条例には罰則規定はありませんが、カスハラが違法である旨が明記されたことで、国や他の自治体でのカスタマーハラスメント対策のきっかけとなりました。現在では、啓発ポスターを掲示する店舗が増えてきており、カスタマーハラスメント対策への意識が浸透しはじめています。

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厚生労働省「カスタマーハラスメント対策啓発ポスター」

 

カスタマーハラスメントの定義

カスタマーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものとなります。

①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、

②社会通念上許容される範囲を超えた言動により、

③労働者の就業環境を害すること。

つまり、顧客等からのクレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものがカスタマーハラスメントにあたると考えられます。

クレームかカスタマーハラスメントかの見極め

企業は、苦情やクレームおよびクレーマーに対応していくなかで、どのような行為がカスタマーハラスメントに該当するか否かの判断基準(正当なクレームとの間の線引き)として、二つの観点で判断することが考えられます。

①要求の内容に妥当性があるか
顧客からの主張について、まず事実関係、因果関係を確認し、根拠のある主張がされているかを判断します。例えば、顧客が購入した商品に瑕疵がある場合は、謝罪とともに商品の交換や返金に応じることは妥当ですが、自社の過失や商品の瑕疵などがない場合は、顧客の要求は正当性がないと考えられます。

②要求のやり方が社会通念上妥当な範囲か
顧客の要求の手段や態度について、例えば、長時間に及ぶクレームは、社会通念上妥当でないと考えられます。また、顧客の要求が妥当であるとしても、暴力的、威圧的、拘束的などの方法で度が過ぎる場合は、カスタマーハラスメントに該当することになります。

実際の現場で判断に迷わないために、会社としてあらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を明確にして、企業の考え方と対応方法を取り決めて、社内で共有することが必要です。

カスタマーハラスメント対策の必要性

カスタマーハラスメントから大切な従業員を守ることは、企業の責務であると同時に、持続的な成長と発展の基盤となります。つまり、カスタマーハラスメント対策が職場環境の向上につながり、会社がカスタマーハラスメントに対する姿勢を示すことで、従業員の安心感が生まれることになり、安心して働ける環境を確保することで、事業全体の生産性を高め、顧客満足度の向上にもつながると考えられます。

①従業員のモチベーション維持と定着率の向上
カスタマーハラスメントは、従業員に精神的・肉体的な負担を与え、ストレスや疲労の大きな原因となります。企業が対策に積極的に取り組むことで、従業員は安心して働くことができるようになり、職場の心理的安全性が高まります。これにより、従業員のモチベーションが向上し、離職率の低下にもつながります。

②業務効率の向上と生産性の向上
カスタマーハラスメントの発生は、対応に多くの時間や労力を要し、他の業務を圧迫することがあります。対策を講じることで、対応にかかる負担が軽減され、従業員は本来の業務に集中できるようになります。結果として、業務効率が向上し、企業全体の生産性向上にもつながります。

企業が取り組むべきカスタマーハラスメント対策

これからは、企業のカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」として策定することが必要になります。このなかで、カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できる窓口を決め、担当者を配置して適切に対応できる相談対応体制を設けて、さらに、被害を受けた従業員への配慮のために、事案が発生した場合、事実関係の正確な確認と事案への対応を行い、従業員の安全を確保し、精神面及び身体面のケアなどに取り組む内容を整えることが必要です。

また、企業のカスタマーハラスメントへの対応が不十分であれば、カスタマーハラスメントを受けた従業員から安全配慮義務に違反しているとして訴えられる可能性が考えられます。

カスタマーハラスメントに対する取り組みの公表について

最近では、企業や団体、自治体が、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定し、ホームページに公開して事業者としての対応姿勢を対外的に示す企業や自治体が増えています。カスタマーハラスメント対策の基本方針や基本姿勢を明確にし、外部に対して周知することで、事業者の姿勢が明確になり、心身を不当に傷つけるカスタマーハラスメントから従業員を守ることに繋がります。

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「お客様は神様」という旧態依然の考え方のなかで、サービスの現場では従業員が心身の負担を感じるような対応を求められることも少なくありませんでした。このような顧客との関わり方を改善していく考えのもとで、ハラスメントの種類のひとつとして「カスタマーハラスメント」が定義されました。

これからは、企業(従業員)と消費者(顧客)が互いに防止や配慮について取り組んでいくことが望まれます。

 

【参考資料】

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」、「カスタマーハラスメント対策リーフレット」
 

高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者
浅井 英憲
浅井 英憲(あさい ひでのり)

浅井社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 賃貸不動産経営管理士
社労士「高志会」のメンバー
法政大学卒業後、芸能プロダクションに入社してタレントマネージメント、広告プロモーションを担当。後に不動産会社に転職。勤務しながら社会保険労務士事務所を平成25年に開所。
労務相談、手続全般、就業規則各規程の作成改訂等と合わせて、職場のコミュニーケーションを整えて心理的安全性の高い企業風土を構築するメンター制度の導入運用のアドバイス・サポートを行っている。
執筆「ビジネスガイド」、共著「労働・社会保険の様式・手続 完全マニュアル」(日本法令)
【事務所HP】https://asai-sr-office.com/index.html

この記事の監修者
原 麻子
原 麻子(はら あさこ)

大学卒業後、システムエンジニアを経て平成9年8月に個人事務所として開業。
平成11年4月に現在のパートナーと共同事務所化、社労士法の改正により平成15年12月に社会保険労務士法人EEパートナーズ設立。
現在は、法人社員2名、勤務社労士と社労士資格者16名、その他の資格者などをあわせて29名で運営。
業種、業界など特定せず、社会保険手続や給与計算といった管理業務から労務相談や労務監査などの相談業務、長期療養者の就労支援まで幅広く対応している。