更新日:2025/06/24
労務監査とは、法令や就業規則等のルールにしたがって適正に労務管理が行われているかを専門家(監査員)がチェックする作業となります。主にIPOやM&Aの際に実施されることとなりますが、それ以外にも労務監査を受ける機会は増加しています。今回は、労務監査を受ける際のポイントについて解説します。
労務監査は、主に次のケースで用いられる手法になります。
ケースにより何を目的として労務監査が実施されるかを把握しておくと、受ける側の立場として勘所を押さえやすくなるでしょう。
企業価値を算出するという目的が主としてあり、労務管理上の将来発生する可能性がある債務リスクの有無の把握に重点が置かれます。将来発生する可能性がある債務リスクとは、例えば、未払い賃金(残業代など)の請求、ハラスメントの発生による損害賠償、あるいは、社会保険手続き誤りにより従業員の将来の年金額が減るようなことがあれば、当該従業員から差額補填を求められる、などが挙げられます。
したがって、労務監査の実施により、未払い賃金や労務トラブルの有無等を調査し、将来問題が発生しうる労務管理体制であればその是正を図り、また、同時に、過去分の債務を清算することになります。
図書館など公共施設の運営を受託する企業にもその必要に応じて労務監査が実施されることがあります。これは、公共サービスの担い手として相応しい企業かどうかを判断することを目的とし、従業員の労働環境に問題がないか、適正な労務管理が行われているか等の調査が行われます。また、補助金の対象となる企業においても、同様に、補助金を出す企業として相応しい労務管理を行っているか、補助金の用途に問題ないか等について調査が行われます。
他の求めに応じてではなく、企業が社労士などの協力を得ながら、自主的に労務監査を実施することがあります。これは、現状の労務管理において法令遵守が確保されているかを確認し、確保されていない問題点がある場合には、PDCAサイクルなどにて改善に向けて取り組み、労務リスクによる経営へのダメージを軽減させることが目的です。
最近では、大企業だけでなく、中小企業においても、人材確保(採用・離職防止)という観点から、従業員が安心・安全に勤務できる職場環境の整備を進めるにあたって、労務監査を活用する事例を良く耳にするようになりました。
ここからは、上記(1)および(2)のケースにおける労務監査の一般的な流れやそれぞれの項目についてのポイントを解説します。
労務監査の流れ
労務監査を実施する監査員より指示された資料を、企業が提出します。一般的には電子データによるやりとりが多くなります。紙媒体の帳簿等は普段からPDFで保存しておくと提出しやすくなるでしょう。なお、主な資料は以下のとおりですが、必要に応じて追加資料の提出を求められることがあります。
【主な準備資料】
監査員が企業から提出された資料を調査します。不足等があれば追加で提出を求められます。調査項目は多岐にわたりますが、主な項目は以下のとおりです。原則過去2年程度について調査され、問題がないかどうかチェックされます。
【主な調査項目】
書面調査だけではわからないことを中心に、管理職・一般社員・パートといった幅広い雇用区分を対象に、監査員による聞き取りが行われます。原則として聞き取り対象はランダムに選出され、ヒアリングはプライバシー保護のため職場ではなく別室で実施されます。当然のことながら、企業担当者は同席できません。
【主なヒアリング項目】
監査員が調査する中で発生した疑義を、企業担当者との間で確認します。書面上問題と思われる事項があっても、背景・詳細聞き取りの結果問題とならないケースもあるため、情報共有して調査内容の精度を上げます。
監査員が作成した報告書をもとに、企業に結果を報告します。
労務監査における指摘事項は様々ありますが、調査報告で指摘されやすい事項として、次のような事例が挙げられます。
(1)未払い賃金(残業代など)
(2)諸手当
(3)労働時間管理
(4)就業規則、規程類
(5)雇用契約書
(6)社会保険
(7)36協定
労務監査の実施後は、企業担当者が中心となり、必要に応じて社労士などの専門家にも相談しながら、指摘事項の改善を進めます。
指摘事項の改善を進めるにあたっては 、それ相応の困難が伴うかと思いますが、それら一つひとつを乗り越えることで、企業と従業員間の信頼関係は強化され、従業員のモチベーションや満足度、労働生産性の向上といった効果が現れるようになり、ひいては、従業員の離職率低下、企業業績の向上といった好循環をもたらします。企業担当者におかれましては、「厳しい経営環境の中で企業が存続するためには、職場環境・労働条件の整備を徹底的に行い、働き手から選ばれ続けなければならない」ということを肝に銘じ、「ピンチはチャンス」と捉え、前向きに取り組んでいただきたいと思います。
最後に、本記事を通じて、労務監査への理解が深まり、特別なケースだけでなく日常的に活用する企業が少しでも増えることにつながれば幸いです。
「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。
社会保険労務士法人DCコンサルティング代表社員
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー
ファイナンシャルプランナー
1級DCプランナー・企業年金管理士
企業人事部で勤務後、社会保険労務士として独立。
確定拠出年金や人事制度に強く、ウェブ・ITツールの活用を推進している。
著書に『図解 労働・社会保険の書式・手続完全マニュアル』(日本法令)がある。
UKマネジメントパートナーズ
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー
大手企業を退職後、平成17年10月に独立開業。
「働き手から選ばれる会社(人が集まり、人が育ち、人が辞めない)」をゴールに掲げ、主に「経営会議」や各種プロジェクト・研修を通じて、従業員が安心・安全に働ける職場環境の整備や個人・チームの育成支援に力を入れ活動している。
【座右の銘】
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
「人の成長なくして会社の成長なし」
「すべきことをする」