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PCA FES 2025

労務監査を受ける際のポイント!

更新日:2025/06/24

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 労務監査とは、法令や就業規則等のルールにしたがって適正に労務管理が行われているかを専門家(監査員)がチェックする作業となります。主にIPOやM&Aの際に実施されることとなりますが、それ以外にも労務監査を受ける機会は増加しています。今回は、労務監査を受ける際のポイントについて解説します。

01.労務監査の目的

 労務監査は、主に次のケースで用いられる手法になります。
ケースにより何を目的として労務監査が実施されるかを把握しておくと、受ける側の立場として勘所を押さえやすくなるでしょう。

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(1)IPOやM&Aの際

 企業価値を算出するという目的が主としてあり、労務管理上の将来発生する可能性がある債務リスクの有無の把握に重点が置かれます。将来発生する可能性がある債務リスクとは、例えば、未払い賃金(残業代など)の請求、ハラスメントの発生による損害賠償、あるいは、社会保険手続き誤りにより従業員の将来の年金額が減るようなことがあれば、当該従業員から差額補填を求められる、などが挙げられます。
したがって、労務監査の実施により、未払い賃金や労務トラブルの有無等を調査し、将来問題が発生しうる労務管理体制であればその是正を図り、また、同時に、過去分の債務を清算することになります。

(2)公共施設運営の受託や補助金の対象となる際

 図書館など公共施設の運営を受託する企業にもその必要に応じて労務監査が実施されることがあります。これは、公共サービスの担い手として相応しい企業かどうかを判断することを目的とし、従業員の労働環境に問題がないか、適正な労務管理が行われているか等の調査が行われます。また、補助金の対象となる企業においても、同様に、補助金を出す企業として相応しい労務管理を行っているか、補助金の用途に問題ないか等について調査が行われます。

(3)その他

 他の求めに応じてではなく、企業が社労士などの協力を得ながら、自主的に労務監査を実施することがあります。これは、現状の労務管理において法令遵守が確保されているかを確認し、確保されていない問題点がある場合には、PDCAサイクルなどにて改善に向けて取り組み、労務リスクによる経営へのダメージを軽減させることが目的です。
最近では、大企業だけでなく、中小企業においても、人材確保(採用・離職防止)という観点から、従業員が安心・安全に勤務できる職場環境の整備を進めるにあたって、労務監査を活用する事例を良く耳にするようになりました。

02.労務監査の内容

 ここからは、上記(1)および(2)のケースにおける労務監査の一般的な流れやそれぞれの項目についてのポイントを解説します。
 

労務監査の流れ

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1 資料の提出

 労務監査を実施する監査員より指示された資料を、企業が提出します。一般的には電子データによるやりとりが多くなります。紙媒体の帳簿等は普段からPDFで保存しておくと提出しやすくなるでしょう。なお、主な資料は以下のとおりですが、必要に応じて追加資料の提出を求められることがあります。

【主な準備資料】

  • 賃金台帳
  • 出勤簿(タイムカード)
  • 労働者名簿
  • 雇用契約書(労働条件通知書)
  • 就業規則および諸規程
  • 各種労使協定
  • 年次有給休暇管理簿
  • 労働・社会保険手続き書類
  • 労働・社会保険料領収書
  • 組織図、人事制度関係書類  など

2 書面調査

 監査員が企業から提出された資料を調査します。不足等があれば追加で提出を求められます。調査項目は多岐にわたりますが、主な項目は以下のとおりです。原則過去2年程度について調査され、問題がないかどうかチェックされます。

【主な調査項目】

  • 帳簿類・諸規程の整備状況、法改正対応状況
  • 労基法・安衛法の届出等の遵守状況
  • 労働・社会保険手続きの適正さ、未加入者の妥当性、保険料支払状況
  • 雇用契約書・就業規則・勤怠記録と賃金台帳の整合性
  • 労働時間に関する問題の有無(未払い賃金など)
  • 解雇や雇止めの発生状況  など

3 従業員ヒアリング

 書面調査だけではわからないことを中心に、管理職・一般社員・パートといった幅広い雇用区分を対象に、監査員による聞き取りが行われます。原則として聞き取り対象はランダムに選出され、ヒアリングはプライバシー保護のため職場ではなく別室で実施されます。当然のことながら、企業担当者は同席できません。

【主なヒアリング項目】

  • 過重労働の有無
  • 休憩や休暇の取得状況、働きやすさ
  • 残業申請状況
  • ハラスメントや労使トラブルの有無
  • 労災の発生やその対応状況
  • 会社から従業員への必要な通知・周知の実施状況
  • 入社後の労働条件の相違の有無
  • その他労務管理上問題と思われる点について  など

4 質疑応答

 監査員が調査する中で発生した疑義を、企業担当者との間で確認します。書面上問題と思われる事項があっても、背景・詳細聞き取りの結果問題とならないケースもあるため、情報共有して調査内容の精度を上げます。

5 調査報告

 監査員が作成した報告書をもとに、企業に結果を報告します。
労務監査における指摘事項は様々ありますが、調査報告で指摘されやすい事項として、次のような事例が挙げられます。

(1)未払い賃金(残業代など)

  • タイムカードと実際の残業代に大きな差があり、乖離理由が不明である(未払い残業代が発生している可能性がある)
  • 固定残業代を超えて残業しているが、超過分の支払いがされていない
  • 管理監督者が深夜勤務した場合に割増手当を支払っていない  など

(2)諸手当

  • 賃金規程に明記のない諸手当が支給されており、支給基準が不明確である(不支給の者から請求される可能性がある)
  • 残業単価に含めるべき諸手当を含めずに割増賃金を計算している  など

(3)労働時間管理

  • タイムカード(客観的な入退室記録)がなく勤務実態が把握できない
  • 一律30分単位など日々切り捨てを行っている、または切り捨てて申告させている
  • 年次有給休暇の取得義務である年5日に満たない従業員がいる  など

(4)就業規則、規程類

  • 就業規則・諸規程が従業員に周知されていない
  • 就業規則・諸規程の適用を正社員に限定しており、非正規社員のルールが明確に定められていない
  • 就業規則・諸規程と運用実態に違いがある
  • 正社員と非正規社員との間で、合理的理由のない待遇差がある
  • 法改正に伴った改定がされていない(特に育児・介護休業法の改正)
  • ハラスメント等の対応体制が整備されていない  など

(5)雇用契約書

  • 雇用契約書が更新されていない
  • 雇用契約書の記載事項に不備がある  など

(6)社会保険

  • 社会保険に本来加入すべき従業員(試用期間中の者、パート等)を加入させていない
  • 社会保険の加入日が適切でない
  • 固定的賃金が変動し随時改定に該当するが手続きをしていない  など

(7)36協定

  • 定められた上限をオーバーして残業している従業員がいる
  • 36協定を期限(開始日)までに労働基準監督署に届出していない
  • 過半数従業員代表を会社が指名している  など

03.まとめ

 労務監査の実施後は、企業担当者が中心となり、必要に応じて社労士などの専門家にも相談しながら、指摘事項の改善を進めます。
指摘事項の改善を進めるにあたっては 、それ相応の困難が伴うかと思いますが、それら一つひとつを乗り越えることで、企業と従業員間の信頼関係は強化され、従業員のモチベーションや満足度、労働生産性の向上といった効果が現れるようになり、ひいては、従業員の離職率低下、企業業績の向上といった好循環をもたらします。企業担当者におかれましては、「厳しい経営環境の中で企業が存続するためには、職場環境・労働条件の整備を徹底的に行い、働き手から選ばれ続けなければならない」ということを肝に銘じ、「ピンチはチャンス」と捉え、前向きに取り組んでいただきたいと思います。
 最後に、本記事を通じて、労務監査への理解が深まり、特別なケースだけでなく日常的に活用する企業が少しでも増えることにつながれば幸いです。

 

高志会から一言

「高志会」は、意欲と熱い気持ちを持った社会保険労務士の集まりです。メンバー全員が能力と収入をアップさせて、令和の時代を勝ち抜いていきます。「できる(社会保険労務士業務・コンサルティング)」は当然として、「しゃべれる(講座 ・ 講演)」、「書ける(本や雑誌の原稿)」の3拍子そろった社会保険労務士を目指して日夜、スキルアップに励んでいます。

この記事の執筆者
宮田和季先生
宮田 和季(みやた かずき)

社会保険労務士法人DCコンサルティング代表社員
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

ファイナンシャルプランナー
1級DCプランナー・企業年金管理士

企業人事部で勤務後、社会保険労務士として独立。
確定拠出年金や人事制度に強く、ウェブ・ITツールの活用を推進している。
著書に『図解 労働・社会保険の書式・手続完全マニュアル』(日本法令)がある。

この記事の監修者
柏木寿人先生
柏木 寿人(かしわぎ ひさと)

UKマネジメントパートナーズ
特定社会保険労務士
社労士「高志会」のメンバー

大手企業を退職後、平成17年10月に独立開業。
「働き手から選ばれる会社(人が集まり、人が育ち、人が辞めない)」をゴールに掲げ、主に「経営会議」や各種プロジェクト・研修を通じて、従業員が安心・安全に働ける職場環境の整備や個人・チームの育成支援に力を入れ活動している。

【座右の銘】
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
「人の成長なくして会社の成長なし」
「すべきことをする」