更新日:2026/01/16
今回改正の主要な目的は、デフレからの完全脱却を確実なものとし、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を実現することにあります。 昨今の物価高騰を踏まえ、個人の手取り額を増やす所得税改革や、企業の国内投資を強力に促す攻めの税制が数多く盛り込まれています。
今回の改正では、2040年度に国内投資額200兆円を目指すという政府目標に向け、企業の投資意欲を喚起する大胆な措置が講じられました。また、いわゆる「103万円の壁」を打破し、人手不足の解消と労働者の所得向上を同時に図るための所得税の課税最低限の引き上げが最大の目玉となっています。企業経営においては、これらの減税措置をいかに戦略的に活用するかが、今後の競争力を左右する鍵となります。
国内投資を飛躍的に拡大させるため、原則全ての業種を対象とした画期的な税制が創設されます。中小企業の場合、5億円以上の投資を含む計画が認定され、15%以上の投資利益率が見込まれる場合、対象設備について「即時償却」または「7%の税額控除」を選択できます。これにより、大規模な設備投資を行う企業のキャッシュフローが劇的に改善され、次なる成長への再投資を加速させることが期待されています。
中小企業が取得した30万円未満の資産を全額損金算入できる「少額減価償却資産の特例」について、対象となる取得価額の基準が40万円未満に引き上げられました。あわせて適用期限も3年間延長されます。昨今の物価高による設備価格の上昇に対応した措置であり、PCや事務機器などの更新を検討している企業にとっては、より高機能な設備を一度に経費化できる大きなメリットとなります。
訪日外国人による免税品の不正転売を防止するため、販売制度が抜本的に見直されます。購入時に一度消費税を支払い、出国時に税関で商品の持ち出しが確認された場合にのみ税額を還付する「リファンド方式」が令和8年11月1日から導入されます。免税店を運営する事業者にとっては、システム改修やオペレーションの変更が必要となるため、施行日に向けた早めの準備と、観光客への周知対応が求められます。
小規模事業者の負担を軽減するため、納税額を売上税額の2割に抑える「2割特例」の終了後、新たに「3割特例」が2年間講じられます。また、免税事業者からの仕入れに係る税額控除の経過措置(8割控除)も令和8年10月以降の控除率を引き上げ、2年間延長されました。これにより、急激な税負担の増加が緩和されるため、免税事業者との取引を継続している企業や、新たに課税事業者となった個人事業主にとって、資金繰りの予測が立てやすくなります。
所得税の基礎控除が最大104万円へ、給与所得控除の最低保障額が74万円へとそれぞれ引き上げられ、課税最低限が実質的に178万円まで拡大します。令和8年分所得税から適用されるこの措置は、パートや学生アルバイトの就業調整を解消し、深刻な人手不足の緩和を狙ったものです。従業員の手取り額が直接的に増加するため、企業にとっては実質的な賃上げ効果と同等のメリットを提示できるようになります。
人手不足対策として企業が行う福利厚生を支援するため、従業員に支給する食事の非課税限度額が、現行の月額3,500円から7,500円(税抜)へと大幅に引き上げられます。この枠内であれば、給与として課税されることなく従業員に実質的な手当を支給できるため、物価高に苦しむ従業員への生活支援策として非常に有効です。企業側も福利厚生費として損金算入できるため、法人・個人双方にメリットがある改正です。
経営者の高齢化が進む中で、円滑な世代交代を支援するため、特例承継計画の提出期限が令和9年9月末まで1年6ヶ月延長されました。個人版も令和10年9月末まで延長されます。ただし、実際に贈与や相続を実行して納税猶予を受けるための「適用期限」は、現行の令和9年12月末(個人版令和10年12月末)から変更されていません。計画の提出が済んでいない企業は、この猶予期間を活かして早期に承継準備を進める必要があります。
令和8年度税制改正は、個人の課税最低限を大幅に引き上げることで消費を活性化させ、同時に企業の投資を即時償却等で後押しする「成長型」の内容となっています。特に所得税改革は、従業員の働き方や企業の給与戦略に大きな影響を及ぼします。経営者の皆様は、これらの優遇措置を単なる減税としてだけでなく、人材確保や競争力強化のための戦略的なツールとして活用していくことが望ましいでしょう。

OAG税理士法人 株式会社OAGコンサルティング 執行役員 ビジネスコンサルティング事業部 事業部長
税務会計顧問、経営コンサルティング業のほか、経営幹部を始め、経理担当者・営業担当者等を対象に全国各地で講演・セミナー講師としても従事。明快かつ実践的な内容には定評がある。「管理会計手法を用いた投資・経営管理」及び「税務を活かしたキャッシュフロー経営」等に強みを持つ。
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