更新日:2025/06/20
「6時間働いたら休憩って取らないといけないの?」「昼休み中に電話当番させるのは違法?」など、意外と曖昧になりやすいのが「休憩時間」に関する法律の知識です。
労働基準法では労働者の健康や生産性を守るために、休憩時間に関するルールが明確に定められています。
本記事では労働時間ごとの休憩の基準や例外ケース、よくあるトラブルと対処法、そして休憩を適正に管理する方法について、人事・労務の実務目線でわかりやすく解説します。
労働基準法第34条では、休憩時間について以下のように規定されています。
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
② 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
この規定は業種や企業規模を問わず、全ての使用者に適用される義務です。
休憩とは、「労働から完全に解放された自由時間」のことを指し、その間に業務の指示を出したり、労働を義務づけるような対応をさせてはいけません。
労働基準法では、労働時間の長さに応じて休憩時間の付与が義務づけられています。
勤務時間 | 最低限必要な休憩時間 |
---|---|
6時間以内 | 休憩時間なし |
6時間超〜8時間以内 | 45分 |
8時間超 | 1時間 |
労働時間が6時間以内の場合、休憩を付与する法的義務はありません。
ただし5〜6時間程度の勤務でも、就業規則や職場の慣行として休憩を設けている企業もあります。
【例】:10:00〜15:00(5時間勤務)の場合
→ 休憩の付与は任意。ただし実際には、15分〜30分の小休憩を与える企業も多いです。
6時間を超える勤務には、45分以上の休憩時間を与える必要があります。
これは法律で定められた決まりであり、「途中で退勤する予定がない限り、必ず与えるべき時間」です。
【例】:9:00〜17:00(実働8時間)の場合
→ 最低でも45分の休憩が必要。昼休みとして60分設けるケースが一般的です。
1日の労働時間が8時間を超える場合、60分以上の休憩が必要になります。
法的には「9時間勤務でも、10時間勤務でも最低1時間」ですが、実務では長時間勤務に応じて追加の休憩を設ける企業もあります。
原則として、正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく使用者は全ての労働者に対して法定休憩を与える必要がありますが、例外も存在します。
以下の立場の労働者は、休憩時間の付与対象外になることがあります。
企業の経営方針決定や人事権に深く関与する「管理監督者」とされる立場の労働者は、労働時間や休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。
ただしこれは「名ばかり管理職」ではなく、給与や権限、実態などを踏まえて厳密に判断されるべきもので、形式的な肩書だけでは認められません。
なお、残業時など深夜労働に対する割増賃金の支払い義務は除外されませんので、注意が必要です。
【起こりうるトラブル例】
店長やリーダーに「管理職」という肩書を与えたうえで長時間勤務させていたが、実際には権限も裁量もなかったとして「名ばかり管理職」と認定され、未払い残業代を遡及請求されたケースがあります。
外回り営業や取材業務など、労働時間を使用者が客観的に把握できない業務に就く場合、労使協定に基づいて「みなし労働時間制」を適用することができます。
この制度のもとでは、実労働時間にかかわらず所定の時間を働いたとみなされるため、時間単位での厳密な休憩付与義務は実質的に緩和される場合があります。
ただし、内勤時間や指示可能な状況では通常の休憩規定が適用されます。
【起こりうるトラブル例】
営業職にみなし制度を適用していたが、実際は日報やGPSによって行動が詳細に管理されていたため、「みなし労働制の要件を満たしていない」として労働時間全体が再計算され、違法残業とみなされた事例があります。
法人に雇用されていない個人事業主や業務委託契約を結ぶフリーランスは、労働者としての法的保護の対象外であり、労働基準法による休憩時間の付与義務は一切適用されません。
そのため、労働時間や休憩の管理はすべて自己責任となります。
ただし、契約内容や労務の実態によっては「偽装請負」とみなされるリスクもあるため、企業側にも一定の注意が求められます。
【起こりうるトラブル例】
業務委託契約を結んでいたフリーランスに対し、実態として勤務時間・仕事内容・指揮命令が雇用と変わらなかったため、「偽装請負」と判断され、労働者としての権利(休憩・残業代など)が認められた判例があります。
休憩時間は、単に「働いていない時間」ではありません。
労働基準法では、休憩が“形式だけでなく実質的にも労働者が休息できること”を担保するために、「3つの原則」が設けられています。
これらを正しく理解しないまま運用すると、違法な労働時間管理になってしまう恐れもあります。
ここでは、それぞれの原則を詳しく解説します。
休憩時間は、原則として「同一事業場においてすべての労働者に対して、同じ時間に一斉に与えなければならない」と定められています(労基法第34条第2項)。
これは「労働者の健康確保や職場全体の秩序」を考慮した規定です。休憩中に働く人がいれば、その人が業務に引き戻される可能性があり、全体として休憩の実効性が失われるリスクがあることがその理由となっています。
ただし、この一斉付与の原則は、業務の都合上やむを得ない場合(シフト制、交代勤務、工場ラインなど)には、労使協定を結ぶことで例外が認められます(「一斉休憩の適用除外に関する労使協定」)。
【例】
・飲食店のホールスタッフ全員が同時に休憩を取ると営業が成り立たないため、交替で休憩を取得 → 労使協定があれば適法。
また以下の業種については、業務上の特性から一斉付与の原則の適用外となります(労働基準法40条・労働基準法施行規則第31・32条)。
休憩時間は、労働者が完全に業務から解放され、自分の裁量で過ごせる時間である必要があります(労基法第34条第3項)。
ここでは「昼食を外に食べに行ける」「仮眠が取れる」など、業務指示がなく、行動の自由が確保されていることが重要です。
この原則が守られていない場合、たとえ「休憩時間」と名目がついていても、実質的には労働時間とみなされる可能性があります。
このような状況では、休憩が「自由利用」といえず、休憩ではなく労働時間としてカウントすべきという判断が下されることもあります。
ただし、以下の職性については本ルールの例外となります。
法第三十四条第三項の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者
二 乳児院、児童養護施設及び障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者
三 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六条の三第十一項に規定する居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者(同条第九項第一号に規定する家庭的保育者をいう。以下この号において同じ。)として保育を行う者(同一の居宅において、一の児童に対して複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除く。)
② 前項第二号に掲げる労働者を使用する使用者は、その員数、収容する児童数及び勤務の態様について、様式第十三号の五によつて、予め所轄労働基準監督署長の許可を受けなければならない。
労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分以上の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません(労基法第34条第1項)。
これは「労働による心身の疲労を途中で回復させる」という趣旨に基づいたものです。
したがって、勤務前や勤務終了後に休憩時間をまとめて与えても、休憩としては認められません。
※適法ではあるが、心身を回復させるには不十分と判断されないよう、まとまった休憩時間を設けるなどの配慮が必要
また、勤務時間の分割(例:午前・午後の短時間勤務)などを採用している場合も、1勤務ごとの所定時間に応じて休憩付与が必要かどうかを判断する必要があります。
原則名 | 具体的なケース | 判断 | 備考・補足説明 |
---|---|---|---|
一斉付与の原則 | 飲食店のスタッフが交代で昼休憩を取っている | 適法(要協定) | 労使協定(36協定とは別)により一斉付与の適用除外が可能 |
工場で一部の従業員だけ別時間帯に休憩を取らせているが協定がない | 違法 | 労使協定がなければ全員同じ時間に一斉休憩を取らせる必要がある | |
自由利用の原則 | 昼休み中に電話番・来客対応を指示されている | 違法 | 実質的に労働から解放されておらず、休憩ではなく労働時間とみなされる |
仮眠室で過ごすことが許可されていて、指示もなく自由に過ごせる | 適法 | 行動の自由がある限り、休憩と認められる | |
昼休み中に上司から「その場に待機するように」と口頭で指示されている | 違法となる恐れあり | 暗黙の拘束・業務の待機状態がある場合は自由利用の原則に反する | |
途中付与の原則 | 勤務前(始業時刻前)に30分の「休憩」を与えている | 違法 | 労働時間の「途中」で与えなければならない |
実働8時間のうち、12:00〜13:00で休憩を与えている | 適法 | 労働時間の途中にあり、時間も適正 | |
勤務終了の1時間前に60分休憩 → その後すぐ退勤 | 違法となる可能性あり | 実態として休憩ではなく早上がりとみなされる恐れがある |
休憩時間であっても、実質的に労働から解放されていない場合は、労働時間とみなされる可能性があります。
「昼休み中でも電話は取ってほしい」「来客対応はお願い」といった状態では、休憩時間が形式だけのものとなり、違法とされる可能性があります。
タバコ休憩や仮眠時間は「休憩」とみなされるかどうかは状況次第です。
他の従業員と公平性がなく、実働時間を削って行われている場合は問題となることがあります。
所定外労働(残業)が長時間にわたる場合、会社の判断で休憩を設けることは可能です。
ただしこの場合も、「自由利用」の原則が守られていないと労働時間としてカウントされる可能性があります。
ケース例 | 判断 | 理由・解説 |
---|---|---|
社用車での移動中を「休憩」として扱う | 労働時間扱い | 行動が拘束されており時間を自由に利用できないため |
昼休憩中に会議やミーティングに参加 | 労働時間扱い | 業務指示があり、実質的に労務提供しているため |
制服を着たまま現場で「何かあれば対応」と言われ待機する | 労働時間扱い | 拘束性があり、行動の自由がないため |
私用スマホで休憩中に社用の電話対応をさせられる | 労働時間扱い | 会社の業務に従事しているため |
昼食を取りながらメール対応や業務報告などの業務を行う | 労働時間扱い | 業務を行っており、休憩の自由利用性が失われているため |
上記は繁忙期や人手不足の企業にありがちな事例ですが、これらはすべて労働時間扱いになります。
認識の誤りや業務状況などにより、企業と従業員との間で休憩時間に関するトラブルが発生するケースは少なくありません。
本項では休憩時間に関するトラブルや、違反時の罰則について解説します。トラブル防止のためにも、あらかじめしっかりと把握しておきましょう。
「休憩時間が取れない」「昼休み中も業務が発生している」といった場合、労働基準監督署への相談や、社内の労務担当部門への報告が適切です。
休憩が取れない状況が慢性化している場合は、企業側が是正勧告を受ける可能性もあります。
また企業としては「自由利用の原則を満たしておらず、実際には労働していた」と主張された場合、未払い残業代としての賃金請求リスクが発生します。
労基署は即罰則に移るのではなく、まず「調査・是正勧告・報告徴収命令」といった手続きを経ます。
よって企業は、休憩時間の実態を正しく把握するとともに、「実質的に休憩が取れていない」といった状況に陥っていないかを定期的に確認することが重要です。
休憩時間の未付与は、労働基準法第120条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象になります。
また未払賃金が発生する場合は、遡って請求される可能性もあるため、企業側には慎重な運用が求められます。
休憩時間の管理ミスは法的リスクに直結するため、ツールの活用が不可欠。
法定の休憩ルールを守るためには、勤怠管理システムの活用が有効です。
紙や自己申告では「実際に休憩が取れていたか」の把握が難しく、未払い残業などのトラブルにもつながりかねません。
勤怠管理システムを導入すれば、打刻による休憩時間の可視化や、法定基準(6時間超で45分、8時間超で60分)との自動チェックが可能になります。
交代制勤務やテレワークでもリアルタイムで管理でき、休憩の取り忘れや偏りを防げます。
また休憩時間の実態を記録しておくことで、労基署対応やコンプライアンス強化にもつながります。
企業においては、休憩時間を「ただ与えるだけの制度」として運用するのではなく“しっかり取れて、しっかり休める環境”を作り上げることが重要です。
適正な休憩管理を通じて、従業員の健康と生産性の向上につなげていきましょう。
休憩時間は労働者の健康やパフォーマンスを守る上で欠かせない制度です。
そのため労働基準法では、労働時間に応じた休憩の付与や、その自由な利用など、明確なルールが定められています。
正しい運用のためには、法律上のルールを把握するだけでなく、業務とのバランスや実務上の運用方法を工夫することも大切です。
制度の形骸化を防ぐためにも、勤怠管理の仕組みを整え、働きやすい職場づくりを目指していきましょう。