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月次決算早期化のための業務設計(4)経費精算・給与計算

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第4回 経費精算・給与計算

今回は経費精算と給与計算の業務設計についてです。前回、前々回の請求管理や支払管理とこれらの業務が大きく異なるのが、社内の従業員側での締め作業が必要である、という点です。従業員側への事前アナウンスや経理側で入力されたデータを確認・修正するためのスケジューリングなど、関係者が多くなる分だけきちんとした設計をしておかないと、あっという間に時間を浪費してしまいます。5営業日での月次決算の締めを実現しようとする際に、この2つの処理がネックになるというケースは多いのではないでしょうか。

経費精算と給与計算が月次決算早期化の足を引っ張らないようにするためには、どういう風に業務全体を設計するべきかを見ていきましょう。

毎月最終営業日に従業員側を確定させる必要がある

経費精算と給与計算を早期に完了させるためには、とにかく各従業員に締め処理を迅速に行ってもらうしかありません。5営業日で月次決算を締めるところから逆算すると、最終営業日には「経費精算と勤怠の処理を終わらせてから退社してもらう」ことが必要です。

最終営業日に各従業員の入力が終わっていれば、1営業日目で経費精算と勤怠の上長の承認及び経理・労務側のチェック、修正が可能になります。そして、2営業日で給与計算を実施、3営業日目でチェック作業をして、4営業日目もしくは5営業日目には確定させるというのが最短のスケジュールになります。

非常にタイトなスケジュールになっていますが、これらを滞りなく進めるためには、やはり従業員側の処理が、最終営業日に終わっていることがどうしても必要なのです。特に給与計算を社労士等の外部に委託している場合には、1営業日目で社内の処理を完了させ、2営業日目には給与計算の処理を始めてもらわないといけません。従業員にも協力してもらわないと月次決算早期化は実現しない、ということを理解してもらう必要があります。

この辺は理屈ではなく、経理と各現場のコミュニケーションが重要です。自社が目指すべきところや月次決算早期化の必要性をきちんと説明した上で、丁寧にお願いをしていく必要があります。また、各従業員への説明はもちろんのこと、マネージャークラスには「会社として、月次決算早期化がどれだけ重要で、そのためには経費精算と勤怠の締め処理の早期化が必要不可欠である」ということをしっかりと理解してもらった上で、マネジメントしていただく必要があります。

企業規模が大きくなってくるほど、「月次決算早期化は全社で対応するもの」という意識のもと、現場のマネジメント層をしっかりと巻き込むことが重要です。

勤怠管理のポイント

勤怠が締まらなければ、給与計算はできません。勤怠は毎日、出勤・退勤・休憩などを記録していくものです。しかし、この当たり前を全従業員が実施できているかというと、そうではありません。毎日きちんと記録ができていれば、月末の最終営業日にやる作業は、全体をザッと確認して、申請ボタンを押すだけになります。この状態で最終営業日をむかえられる従業員をいかに増やすか、というのが重要なポイントです。

ただでさえ忙しい月末・月初に勤怠の締め処理に時間を取られるのは、仕事の生産性から見ても問題があります。最終営業日に頑張るのではなく、その前の段階、つまり月中に勤怠の記録状況をチェックしたり、記録漏れがある人にアラートを出す、という取り組みがここでは必要になります。

月次決算という観点から考えると、どうしても月末月初の締め処理に意識が向いてしまいますが、勤怠の記録は毎日の積み重ねであるため、月末になるまえに対応できるものは処理しておく必要があります。ただ、勤怠の取りまとめ担当者が個別にアラートをあげるのも手間がかかりますので、ここでもマネジメント層をしっかり巻き込んで、毎週管轄する部門の勤怠記録状況をチェックしてもらうなど、部門内できちんとやるように指導してもらうのが良いでしょう。

勤怠は毎日記録しなければ正確性にも欠けますし、月末の締め作業の負荷も高くなります。昨今は労務管理に求められる基準が高くなっており、ずさんな管理状況を放置すると大きなリスクを抱えることにもなりかねません。会社の管理責任として取り組むべき優先順位は確実に高くなっています。

勤怠管理ソフトを導入する際は、記録時や集計時の使い勝手も大事ですが、記録漏れなどを簡単に抽出できる機能があるものを選ぶことで、簡単に月中のチェックができるようになります。月末月初の業務負荷をいかに減らすかという観点も、月次決算早期化のためには重要です。

経費精算のポイント

経費精算を効率的に行うために、各従業員のスマホから申請ができるようにしたり、交通系ICカードから電車の利用記録を連携できるようにしたり、という形で経費精算系のツールは進化を続けています。従業員側の利便性を高めることで、正確なデータが素早く集計され、経理側での締め作業も効率化されます。

一方で、経費精算は数百円から数千円程度の少額かつ大量の領収書を経理が収集し、照合し、保管する必要があります。ペーパーレス化に対する施策として期待の大きかった電子帳簿保存法も、現在の内容では導入するためのハードルが高いわりには、思ったほどの効率化にはならない、というなんとも期待はずれの状態であり、経費精算実務は当面は大量の紙による処理を余儀なくされていくでしょう。従業員が立て替えた経費については、正確に処理して精算するのが当然ではあるものの、非常に生産性が低い経理業務の1つでもあります。

いくら経費精算ツールが進化したとしても、経費精算のデータを入力するために各従業員が毎月数時間を捻出しなければいけないことには変わりがなく、会社の規模が大きくなるほど、「経費精算をするためのコスト」は無視できないものになっていきます。

そこで、会社の全体の業務設計として重要になるのが「いかに経費精算をさせないか」という観点です。経費支出の多い職種や役職にはコーポレートカードを持たせたり、Amazonビジネスやアスクルを各従業員から注文できるようにする、出張関連の申請を一元化し全て請求書払いにしてもらうなど、管理部門側で仕組みを整えてあげれば、「経費精算でしか対応ができない」というケースは非常に少なくなります。

各従業員が細かい経費を立て替えて、それを月に1回精算する方法が最もコストが低そう見えますが、経費精算にかかわる各従業員側、経理側の工数を考慮すると、多少は経理側の管理コストが上がったとしても、経費精算自体がなくなった方が効率的になりコストも時間も削減できることがほとんどです。「経費精算を完璧にやらなければならない」という思い込みを捨て、会社全体のコストや時間を最適化するためにどうするか、という視点を持てるかどうか大切なのです。

従業員に責任を押し付けない業務設計

給与計算のための勤怠管理と仕事上の立替を精算するための経費精算は、いずれも各従業員側での正確で素早い締め処理が必要不可欠です。従業員がきちんとやってくれるかどうかを完璧にコントロールすることは難しいため、月次決算早期化を進めていくなかで。経理としては「なんでちゃんとやってくれないんだ!!」と憤りを感じることも多いかもしれません。

しかし、従業員側の対応を含めてきちんと数字を締め切るところまでが、経理の仕事の範疇です。締め日までに締まらない状況を「従業員の責任」という言葉で片付けるのではなく、「どうすれば締め日までに完了させることができるか」という観点で考えていけば、経費精算という処理自体をなくすことを考えたり、勤怠を月中でチェックするような仕組みを構築することなど、管理部門側でもできることは山のようにあります。

勤怠管理や経費精算は、現場の従業員からすると面倒くさくてできればやりたくない仕事の1つです。そのことを理解し、きちんと向き合い、従業員の手間を減らしつつ、全体を効率化させ、処理日数の短縮化を図ることができるかどうかが、経理の腕の見せどころです。

SaaSが当たり前になり、イニシャルコストをほとんどかけずに色々なツールを導入することができるようになりました。勤怠管理や経費精算の世界も日進月歩で従業員側はもちろん、経理の手間を大幅に減らしてくれるようなものがいくつも出てきています。大量のデータを扱う業務だからこそ、処理の自動化やデータ連携の機能が充実しているSaaSを活用することで大幅な効率化が実現可能です。

「月次決算早期化のためだから、ちゃんとやれ!」という押し付けのスタンスではなく、「月次決算早期化のために、こういう工夫をして手間を減らそうと思っていますので、協力してください」というメッセージを経理が発信できるかどうか。月次決算早期化のための最大のポイントは、経理側の思考回路の切り替えなのです。

筆者プロフィール

武内 俊介(たけうち しゅんすけ)

リベロ・コンサルティング代表。

業務設計士、税理士。

クライアントの業務を徹底的にヒアリングして整理した上で、課題解決するためのシステムを運用を設計して提供。
受発注管理から会計処理までを一気通貫して処理できる仕組みの構築を得意としている。

業務設計士、税理士 武内 俊介 氏 連載記事

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