『士業のための生成AI活用術 ― セキュリティと正確性を担保した効率化のすすめ』
第1回 なぜ今、士業に生成AIか

"チャットで質問するだけ"では、正直もう遅れている

生成AIという言葉を聞かない日はなくなりました。多くの先生方が、一度はChatGPTなどに質問を投げ、答えが返ってくる様子をご覧になったことと思います。ただ、正直に申し上げると、AIを「質問して答えをもらうチャットの道具」としてだけ使っている状態は、いまや一歩遅れ始めています。

かつての生成AIは、確かに「質問すると答えてくれる」チャットの道具でした。ところが今のAIは、「頼めば、作業そのものを代わりにやってくれる」段階——いわゆるエージェントの時代に入っています。資料を読み込ませて論点を洗い出す、フォーマットの決まった書類を用意する、チェックまで走らせる。こうした一連の作業を、指示一つで肩代わりさせられるようになりました。そして、この段階を先行して使いこなしている人たちは、すでに大きく前へ進んでいます。だからこそ今が、追いつき、そして追い越すための最良のタイミングなのです。

"特別な人"でなくても使いこなせる ― 私自身の複数の支援実績から

これは机上の話ではありません。私自身、日々の実務でAIエージェントを当たり前に使っていますし、上場企業の管理部門を支援する現場でも、確かな成果を積み重ねてきました。

そしてお伝えしたいのは、これが「ITに強い特別な人」だけの話ではない、ということです。実際に私が支援した複数の現場では、プログラミングはもちろんITの素養も特にない、純粋に経理業務を担ってきた担当者の方が、自発的にAIエージェントをどんどん使いこなし、担当業務を50%以上効率化しています。これは一度きりの偶然ではなく、複数の現場で共通して起きている——私自身が経験してきた事実です。多くの方が、まだこのことに気づいていないだけなのです。

むしろ、小規模な事務所ほどチャンスがある

意外に思われるかもしれませんが、この波に乗りやすいのは、大きな組織よりもむしろ小規模・中規模の事務所です。

AIを本当に活かすには、「AIが実務で使える」ことを前提に、業務の進め方そのものを組み替える必要があります。つまり、機動的に動けることが強みになる。ところが大きな組織ほど、稟議や合意形成に時間がかかり、いざ導入しようにもなかなか前に進めない——これが正直なところです。その点、身軽な事務所であれば、業務フローを柔軟に見直し、素早く舵を切れます。そして、上場企業に求められるほどの重厚なセキュリティでなくとも、事務所として最低限必要なセキュリティを担保することは十分に可能です。その土台さえ整えれば、あとはどんどん前へ進められる。だからこそ、小規模・中規模の事務所にとって、今は大きなチャンスなのです。

安心して使うために ― まず「土台」を整える

とはいえ、先生方が扱うのは顧問先の機密情報です。ですから、最低限のセキュリティを担保したうえで使う、というのが大前提になります。

この連載では、事務所として整えておきたい環境や設定を、具体的に推奨・提案していきます。一方で、正直に申し上げれば、各事務所のIT環境は細部まで一つひとつ異なり、私がそのすべてを把握できるわけではありません。ですから、「これだけやれば絶対に情報は漏れません」と言い切るのではなく、要所では一度、身近なITの専門家に確認いただくことをおすすめします。その"確認の勘どころ"まで含めて、この連載でお伝えしていきます。

精度高く使うために ― 「承認できる」業務設計を

もう一つ大切なのが、正確性です。AIが出した答えの最終的な責任は、専門家である先生ご自身にあります。ここは動かせません。

だからこそ、この連載が目指すのは「AIに丸投げ」ではありません。作業そのものだけでなく、その結果をチェックする"レビューの観点"までAIに担わせ、そのうえで人が「ここまで確認できたから、自信を持って承認できる」と言える——そうした業務の設計を、中心に据えていきます。恐る恐る使うのでも、鵜呑みにするのでもなく、確かめる仕組みごと持つ。それが、専門家がAIと付き合う現実的な形だと考えています。

この連載のゴール

リスクを恐れてなかなか踏み出せない、あるいは規模が大きく動きが鈍い——そうした組織がある中で、小規模・中規模の士業事務所は、むしろ安心して、早く一歩を踏み出せる立場にいます。機密情報の扱いは十分に担保しながら、安心して使える形を、一緒に作っていきましょう。

この連載を読み終えるころには、次の状態になっていることをゴールに置きます。ご自身の事務所に必要なITリテラシーと環境の整え方が分かり、推奨されるAIの設定とその運用の仕方が分かり、いくつかの具体的な活用シーン(ユースケース)を理解している。そして最終的には、ご自身でAIエージェントを組み立て、業務を実質50%以上効率化できるようになる——そこまでを見据えています。

次回(第2回)は、「結局、どのツールを使うべきか」を取り上げます。数あるツールの中から、士業の実務で何を選べばよいのか。その考え方を、一緒に整理していきましょう。

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プロフィール

加藤 勲(かとう いさお) 公認会計士 ISAO株式会社 代表取締役/ISAO国際公認会計士事務所 代表

G検定・E資格(日本ディープラーニング協会)保有。月刊「企業実務」等で、管理部門のAI関連記事を多数執筆。
唯一無二の実務視点で、AIによる管理部門の未来をデザインする実務家。会計監査・ビジネスコンサル・上場企業の管理部門統括で培った知見を、2021年より非エンジニア主体のAI利活用に注ぐ。AI活用支援実績として、非エンジニア指導で50%以上の工数削減の実績もあり。週4以上のサッカーと音楽・芸術も欠かさず、AIが切り拓く新しい「多刀流」の生き方を体現する。ピー・シー・エー株式会社に2026年6月末まで特別契約社員として3年間在籍。