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『税理士のリスク管理-責任と損害賠償-』
第7回 税理士が負う具体的な義務③~説明・助言義務

1 委任契約から生じる税理士の具体的な義務・その3

前回は、税理士とクライアントの委任契約に基づく具体的な義務のうち、前提事実の調査・確認義務について、裁判例を踏まえてご説明しました。

今回は、委任契約に基づく具体的な義務のうち、説明・助言義務について、裁判例をご紹介します。

2 「消費税課税事業者選択届出書」の提出について助言等をする義務

今回の裁判例は、法人の消費税に関するものです(東京地方裁判所平成24年3月30日判決・判例タイムズ1382号152頁)。

(1) 事案の概要

X株式会社(X社)は、映画の製作、配給、販売等の業務を目的として平成20年1月21日に設立され、平成20年3月24日、Y税理士法人との間で、X社の税務及び会計業務に関する本件顧問契約を締結しました。

X社は、設立時の資本金の額が2万円であったため、平成20年1月21日から同年9月30日までの事業年度(第1期)は免税事業者、第1期中に資本金の額を3602万円に増加させたため、同年10月1日から平成21年9月30日までの事業年度(第2期)は課税事業者となりました。

また、X社は、同年10月1日から平成22年9月30日までの事業年度(第3期)は、その基準期間である第1期に課税売上げがなく、かつ、第2期末である平成21年9月30日までに消費税法9条1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(課税事業者選択届出書)を所轄税務署長に提出しなかったため、免税事業者となりました。

Y税理士法人は、平成21年11月30日、X社の第2期の消費税の確定申告として、約2000万円の消費税の還付を受ける旨の申告書を作成し、提出しました。
しかし、X社は、第3期において免税事業者となったため、第2期の消費税の計算において仕入控除を受けられませんでした。
X社は、Y税理士法人が消費税法上の課税事業者選択届出の提出に関する指導、助言等の義務を怠ったことから、第2期事業年度の消費税等の計算において仕入控除を受けられなかったと主張して、Y税理士法人に対し、債務不履行に基づき損害賠償を請求しました。
請求金額は、仕入控除を受けられていた場合に得られていたとする還付金相当額約1600万円とそれに対する遅延損害金でした。

(2)裁判所の判断

本件については、X社は、期末に多額の棚卸資産を有していたため、課税事業者を選択した方が有利という事情がありました。
また、X社とY税理士法人との顧問契約には、次の事項が明記されていました。

≪本件顧問契約書(抜粋)≫
ア 委任業務の範囲(1条)
(ア) 税務に関する業務

  • 法人税、所得税、事業税、住民税、償却資産税及び消費税・地方消費税の税務代理及び税務書類の作成業務
  • 税務調査の立会
  • 税務相談

(イ) 会計業務

  • 会計処理に関する指導及び相談
  • 財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行

イ 契約期間(2条)
 平成20年1月から同年12月31日までとする(契約期間に係る税務申告を含む。)。ただし、契約期間満了日の3か月前までに双方により別段の意思表示のない限り、自動更新するものとする。

ウ 報酬額(ただし、別途消費税及び地方消費税が付加される。3条)
(ア) 基本顧問報酬(月額)2万円
(イ) 決算報酬     12万円
(ウ) その余の業務報酬については別途協議

エ 資料等の提供及び責任
X社は、委任業務の遂行に必要な説明、書類、記録その他の資料をその責任と費用負担においてY税理士法人に提供するものとする。

裁判所は、本件の争点である「X社が第2期の消費税の計算において仕入控除を受けられなかったことについて、Y税理士法人に債務不履行があったか」について、次のような判断をしました。

まず、以下の理由で、本件顧問契約書上の委任業務(顧問業務)の範囲は、顧問契約書に明記された税務代理や税務相談等の事項に限られると判断しました。つまり、X社からの税務に関する個別の相談又は問合せがない限り、Y税理士法人において、X社に対し、X社の業務内容を積極的に調査し、又は予見して、X社の税務に関する経営判断に資する助言、指導を行う義務は原則としてない、と述べました。

(理由)
・「税務代理及び税務書類の作成、税務調査の立会、税務相談、会計処理に関する指導及び相談、財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行」と定められており、X社の税務に関する経営判断に資する助言、指導を行う旨の業務(いわゆる税務に関する経営コンサルタント業務)まで含むとは定められていない
・Y税理士法人によるX社の定期訪問が予定されていない
・X社がY税理士法人に対して委任業務の遂行に必要な資料等を提供する責任を負うと定めている
・顧問報酬は月額2万円と比較的低廉である

判決のここだけを読んでしまうと、税理士の義務の範囲が限られており、税理士に甘い判決のように見えますが、そうではありません。

判決は、上記に続けて、次のとおり述べています。こちらが非常に重要です。

続きは士業コンソーシアムでお楽しみください!
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プロフィール
佐藤 香織(さとう かおり)鳥飼総合法律事務所 パートナー弁護士(第二東京弁護士会 所属)
企業及び社団・財団法人の運営・コンプライアンス・ガバナンス・役員責任・労務など法人の法務全般、国内外の租税案件(税務訴訟・不服申立て・税務調査など)、税理士賠償責任、相続・事業承継案件などを手がけ、これらに関するセミナー・研修講師も務める。
2010年度より、千葉大学大学院専門法務研究科(ロースクール)で、講師として「租税法」を担当している。
主な著書に、「税理士の専門家責任とトラブル未然防止策」(清文社、2013年、共著)、「四訂版 公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務」(大蔵財務協会、2021年、共著)、などがある。税務雑誌での判例解説なども行っている。
★鳥飼総合法律事務所:https://www.torikai.gr.jp/